日本語教室日記191. 言葉を尽くした件(1)Kano~jo
日本語教師を始めた頃は 主に日本語学校で教えていましたので、
媒介語を使うのは禁止でした。
そもそも、自分がまずい英語しかできなかったので、
文法の説明などは英語ではあやふやになりそうでしたし、
英語を使ってしまうと、英語が母語ではない人に対して不公平になるので、
ここは当たり前ですね。
ちょろっと英語で言うとしても、名詞ぐらいでした。
あるときグループレッスンで一人、どうしても「彼女」という言葉が入っていかない人がいました。
sheですよ、と言ってしまえば話は早いのですが、それはできません。
普段はどうしているかというと、「直接法」ですので、
クラスが始まって何回目かという初心者クラスであっても、こうします。
これはリンさんです。
リンさんは先生です。
リンさんは・・・
と言いかけて、ここで首を傾げて、
「彼女」はアメリカ人です。
こう言えば、日本語の語彙がまだ、「仕事」「国籍」と、
これ・それ・あれぐらいで、構文も
「SはNです」
という、最短の名詞文しか入っていない初心者たちであっても、
ピンときます。
「なるほど、最初に言ったこと(名前)を延々と繰り返す代わりに、
kanojoと言ったな。
じゃあ、Kanojo って、sheのことだな」
とわかってくれます。
「ディス・イズ・人称代名詞です」
などと言う必要は普通はありません。
その、「なるほど」がすっと出てこない人がいました。
「先生、kanojo? 」(まだ「彼女とはなんですか」と言えないレベル)
わからなかった・・教え方が下手だったか・・
気を取り直し、ダイアナ妃の写真を見せて、
「これはダイアナさんです。
ダイアナさんは、イギリス人です。
ダイアナさんは・・
『彼女』は、25さいです」
と、これまでの1、2回で生徒に入っているはずの言葉を投入して、
同じことを繰り返しました。
「Oh! I see! Kanojo, Royal family?!」
あ、ちが・・
「いいえ。
もう一度。
これはマザー・テレサです。
マザー・テレサは クリスチャンです。
マザー・テレサは・・・
・・彼女は・・・インド人です」
「 6(?_?)」
とうとう、後ろの席の人が身を乗り出して、
(She…..)
と、囁いてくれました。
あのとき、どういうアプローチをすればすっと通じたのかなと、今でも思うことがあります。
日本語学校はレベル分けがいい加減だったり、プレイスメントテストをしなかったり、とにかく、来た人を一つのクラスにできるだけ詰め込みたいという感じのことがありましたので(今は違うかもしれませんが)、
すごくレベルの違う人が混じっていることがありました。
わからなくて頭をひねっている人に、丁寧に教えてあげたいけれども、
一人の人に時間をかけることはできませんので、見切り発車も多々ありました。
次の先生に進度報告と共にクラスを引き継ぎますし。
今は100%個人で、思う存分教えられるので、ストレスはないです。
あるとしたら、やる気がなくなっているのに親御さんにやらされている子供生徒に対し、あれこれ繰り出してレッスンに引き込もうとしているときです。
下を向いて何かを見ていて、「もしもし?」と言うと、
え?
なんですか?
なんて言われると、本当にエネルギーを吸い取られます。(愚痴です)
次回、言葉を尽くしたが、
それでも時間がかかった例をお話ししたいと思います。
(そういうのがまた楽しいのですが)