葵とプロデューサー 著:AIのべりすと/熊男
「ふぅ。今日も疲れたっちゃ…」
葵はふぅ、と溜息をつきながらトレーニングルームを後にする。アイドルとして日頃のレッスンは欠かせないものだし、手を抜くつもりはないが、こうして解放されるとホッとしてしまうのも事実だ。
地元の大分を出てから、どれくらいの時間がたっただろうか。
ローカルアイドルとしてそれなりにやってきたという自負が葵にはあったが、最近は自分がいかに井の中の蛙状態であったかという事を嫌でも実感させられていた。
しかし同時に負けてなるものか、という気持ちも湧いてくる。
大分の女のど根性は、こんな事で潰れるほどヤワなものじゃないけんね…!
そんな事を考えていると、廊下を歩いていたプロデューサーが葵に声をかけてきた。
「おぉ、お疲れ様。葵」
「プロデューサー!お疲れ様っちゃ!」
「どうだった?今日のレッスンは?」
「バッチリやったよー!もう完璧やけんね!」
「そうかぁ~。それは良かったなぁ~」
「うんっ♪」
「…………よしよし。じゃあ、明日からもその調子で頼むな。今日はゆっくり休めよ!んじゃっ」
「あっ……」
葵はプロデューサーの背中を見送る事しかできなかった。
「……」
なんだろうこのモヤモヤした感じは……。
葵は自分の胸に手を当ててみる。……別にいつも通りのプロデューサーだし、変なところはないはずなのに、何かが違う気がしてならないのだ。
「う~ん……」
葵は首を傾げつつ、とりあえず寮へと戻る事にした。
「ただいまーっと」
部屋のドアを開けると、そこには見慣れない靴があった。
誰の靴だろうと一瞬思ったが、すぐに思い当たる人物がいた。
「おかえりなさいっ」
「えぇ!?美優さん!?」
葵の部屋にいたのは、同じ事務所に所属する三船美優であった。
「どうしてここに!?」
「あら、いけませんでしたでしょうか?」
「いや、いけないってことはないけど……」
「ならよかったです。私、ずっと気になっていたんです。葵ちゃんの事」
「あたしのこと?」
「はい。だって、あんなに可愛い子たちがたくさんいる中で、わざわざ地方出身の女の子を選ぶなんて……きっと訳があるんだろうなって思ってましたから」
「そ、そうなんだ……」
「はい。それで、どんな理由なのかなと思ってたら、まさか本当にスカウトされてたとは思わなくて」
「スカウトっていうか、たまたまチャンスに恵まれたあたしが自分を売り込んだみたいな感じやったけどね…」
「それでもすごいですよ。私は地元で就職しましたし、東京に出て来る機会もなかったですから」
「まぁ、確かにそうかもだけど……」
「だから、すごく嬉しいんですよ。こうして葵ちゃんとお話できる事ができて」
「そっかぁ……。なんか照れるっちゃねぇ~…」
そう言いつつ、葵は考えを巡らせていた。
美優とは今まで時々顔を合わせる程度の間柄だったが、ここまで積極的に人と関わりを持とうとするタイプだという印象はまるでなかった。
というか、無許可で人の部屋に居るなんて常軌を逸している。
一体何が…。と思った所で、葵は先程別れたプロデューサーの事を思い出した。
あのなんとも言えない違和感…。それと美優さんと何か関係が…?
「ところで、葵ちゃん」
「はい?」
「最近、プロデューサーさんの様子がおかしいと思いませんか?」
「えっ!?」
いきなり核心を突くような質問をされ、葵は思わず声を上げてしまう。
「やっぱりそうですか……」
「み、美優さんも知ってるん?」
「はい。実は……」
「実は?」
「私も、昨日気づいたんです」
「えっ?」
「プロデューサーさんの様子が変わったことに」
「どういうこと?」
「どうやらプロデューサーさんは薬の力で、性格を変えてしまったようですね」
「なんでそんなことがわかっちゃうの?」
「それは私が名探偵だからです」
「なるほど」
「でも、安心して下さい。プロデューサーさんを元に戻す方法はあります」
「本当!?教えて!」
「それはズバリ、プロデューサーさんとキスすることです!」
「キ、キスぅ!?」
葵は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そうです!つまり、葵ちゃんとプロデューサーさんは両想いということなのです!」
「りょ、りょうおもいっ!?」
葵の顔はさらに赤く染まる。
「そうです!葵ちゃんとプロデューサーさんはお互いのことを好き合っているのです!」
「そ、そんなわけないっちゃ!あたしは別にプロデューサーの事なんて……」
「でも、葵ちゃんはプロデューサーの事を好きなんでしょう?隠しても無駄ですよ」
「ちっ、違うったら!全然そういうんじゃないから!」
「嘘をついてもダメですよ。ほら、正直になってください」
美優は葵の肩に手を置く。
「うっ……」
美優の真剣な眼差しに気圧されたのか、葵は観念したように口を開いた。
「……うん。あたし……プロデューサーの事が好き。大好き」
「よく言えました。偉いです♪」
「うぅ……」
美優は満足げに微笑む。
「では、早速作戦会議を始めましょう」
「作戦会議?」
「はい。まずは葵ちゃんの気持ちを伝えるところから始めます」
「あたしの気持ちって言われても……」
「大丈夫です。この名探偵に任せてください」
「……わかった。お願いするっちゃ」
「はい。任せてください」
「それで、あたしは何をしたらいいん?」
「簡単です。葵ちゃんがプロデューサーさんに告白すればいいだけです」
「こ、こくはく!?」
葵は顔を真っ赤にする。
「そうです。葵ちゃんがプロデューサーさんに愛の言葉を囁けば、きっと元に戻るはずです」
「そ、そうかなぁ……」
「そうですよ。葵ちゃんならできます」
「まぁ、美優さんが言うんやったら、間違いないかもね」
「はい!私は葵ちゃんの事を信じていますから!」
「ありがとう。じゃあ、頑張ってくるっちゃ」
「はい。行ってらっしゃい」
葵は部屋を出て、プロデューサーのもとへと向かった。
それを見届けた美優の携帯が、不意に鳴る。
「もしもし」
「あっ。美優さんお疲れ様です。ナナです…」
「菜々ちゃん。お疲れ様です〜」
「あの…。具合とか本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ!私は元気です」
「いやでも結構飲まされてたような……」
「全然大丈夫です。ヒック」
「いや絶対大丈夫じゃないですよ!!」
●
コンコン。
「失礼します」
葵は部屋のドアをノックして、中に入る。
「あっ、葵。どうした?」
「ど、どうも」
葵は緊張しながら挨拶をする。
「どうかしたの?」
「えっと、その、ちょっと話したいことがあるっちゃ……」
葵はモジモジと体を揺らす。
プロデューサーは首を傾げる。
葵は深呼吸をして、覚悟を決めた。
そして、思いっきり息を吸い込む。
「プロデューサー!好きです!付き合って下さい!」
葵は大声で叫んだ。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「……え?今なんて言ったの?」
「だ、だから、プロデューサーが好きっちゃ!付き合って下さい!」「……」
「……ぷ、プロデューサー?聞いてる?」
「……はっ!ごめん。ぼーとしてた」
「もう!しっかりするっちゃ」
「ははは。悪い。で、何の話だったけ?」
「だから、あたしと付き合って…欲しくて」
「……」
「……」
再び沈黙が流れる。
「……え?今なんて言ったの?」
「だ、だから、あたしと付き合ってほしいっちゃ」
「……」
「……」
またもや沈黙が流れる。
「……え?俺のこと好きなの?」
「……うん」
「マジか……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」「……」
葵は黙って俯いている。
(ああ……ついに言ってしまった)
葵は胸を高鳴らせながらプロデューサーの返事を待つ。
そしてようやくプロデューサーが重い口を開いた。
「葵、ごめん。俺はお前とは付き合えない」
「……」
「理由は3つある。1つ目、俺は仕事一筋の男なんだ。2つ目は恋愛経験がない。最後に、これが一番重要なんだけど、年の差がありすぎる。20歳差だ。そんなの世間的に見たら犯罪だ。わかるな?」
「……」
「葵?」
「……はっ」
葵は顔を上げる。そこには心配そうな表情のプロデューサーの顔があった。
葵はその顔をじっと見つめる。
「ありがとう!プロデューサー!」
「えっ」
「やっぱりあたし、諦めない!絶対に振り向かせて見せるけんね!待っててください!プロデューサー!うぉおおおお!!!!」
葵は雄叫びを上げて走り去る。
「葵!?」
●
「はぁ〜〜〜」
葵は大きく溜息をつく。
「これでよかったっちゃ」
葵は再び歩き始める。
(振られたのには正直ショックだったっちゃ。それに告白したことも後悔しかない。
だけどあの人のためにも自分の気持ちに嘘をついたままなのはよくなかったと思ったから……。それで良かったんだよね)
「あれ?こんなところで何をしてるの?」
声がした方を見ると、そこにいたのはこの前のオーディションにいた男の人だった。名前は確か……。忘れた。
「あ、どうも……」
「どうしたの、何か悩み事でもあるような暗い顔をして……。僕に相談してよ」
この人はいつもそうだ。困っている人の所に来て助けてくれるいい奴を演じている。
「いえ、大丈夫です」
「そう言わずに相談してみてよ。君の助けになれるかもしれないよ」
この男の声は心地よい。耳がゾワリとする感覚に陥る。まるで毒を注がれているようだ。このままだときっと取り返しのつかないことになるような予感。しかし、断る理由もない。
相談するか……
「実はあたし、プロデューサーの事が好きになってしまったみたいっちゃ……」
男は笑顔でこう答える。
「そうなのか、それは大変だ。あの人は僕のものだと思っていたんだが」
「えっ!?!?」
葵が目を丸くすると、男は不敵な笑みを浮かべてみせる。
その不気味さに思わず戦慄しそうになるが、これ以上気持ちを乱さないように呼吸を整え、葵は男を見据えた。
「あんた誰なん?本当にプロデューサーのこと好き?」
「もちろんだよ。僕は彼のことが大好きなんです。愛していると言ってもいいぐらい」
「嘘つくんじゃねぇちゃ!」
葵は叫ぶ。そしてファイティングポーズをとる。
男は何もしない。
ただ立っているだけだが妙な雰囲気があるのだ。気を抜くと呑まれてしまいそうな程不気味な空気だ。それでも逃げるわけにはいかない。葵は気配を殺し、素早く男の背後に回り込む。
このまま手刀を叩き込めば、倒せる…!
「遅いな」
「!?」
突然後ろに現れた男を見て葵は驚いた。
「お前、何もんや!」
「ふむ、何者でも良いじゃないか」
(まずい……こいつ強い……!)
葵の中で危険信号が鳴る。こいつはヤバいと。
しかし最早引き下がれない。
「おおおッ!!!!」
雄叫びを上げながら葵は男に迫る。だが次の瞬間葵は自分の腹の辺りから鋭い痛みを感じ取る。
見ると血が出ているではないか。
「かっ……は……な……ん……?」
葵は何が起こったのか理解できない。そして膝から崩れ落ちる。そのまま地面に伏してしまった。
男はゆっくり歩み寄る。
そして倒れた葵を抱き上げようと近づくと葵は手をばたつかせて抵抗する。
そしてポケットに入れていたスマートフォンを手に持ち、男の足下に向かって投げる。スマホからは音楽が流れ、男がそれを踏んだ瞬間。爆発音が鳴り響く。
それと同時に男の体にも変化が起きる。体が膨れあがり、風船のようにパンっと音を立てて破裂してしまう。
そこにはもう誰もいなかった。
「い、今のは一体…」
(夢?でも痛覚がまだ残っているということは現実?あたしは何を……
ダメだ、頭がボーとして考えられない)
「誰かー!救急車を呼んでくれ!!」
「大丈夫ですか!?聞こえますか!?」
●
葵の意識が徐々に戻ってくると同時に周りの声が鮮明に聞こえるようになる。
「うぅ……」
「あ、気がつきましたね!今先生を呼びに行きますから待っていてくださいね!」
そう言って看護師らしき人が走り去っていく。
(ここは病院?どうしてここにいるんだろう)
そんなことを考えているうちに医者が駆けつけてきて診察が始まる。
「どうやら命に別状はないみたいですね。ただ、腹部の傷が深いものですからしばらく入院してもらうことになります」
「入院………」
(お腹の傷?)
葵は服を捲ってみる。包帯でぐるぐる巻きになった自分の腹部が見える。
(まさか……)
嫌な予感は的中した。葵は刺されたらしい。どうやら犯人はまだ捕まっていないようだ。
「そっかぁ……」
葵は大きなため息をつく。
「あの、すいません」
「え?」
葵が振り向くとそこにいたのは先程の女医さんだった。
「何か…?」
「あなたに会いたいという方がいらしておりまして…。なんでも、プロデューサー…?とか…」「プロデューサーが来てるっちゃ!?」
葵は勢いよく立ち上がる。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!」
「す、すみません」
葵は椅子に座って深呼吸をする。
「それで、プロデューサーはどこにいるっちゃ?」
「あなたの病室です」
「わかったっちゃ」
葵はベッドから降りようとするが、腹部の傷が痛み、思わず顔をしかめる。
「無理しないほうがいいですよ。まだ安静にしてないと」
「そうさせて貰うっちゃ…」
葵はベッドに戻った。
そして葵はしばらく休む事にする。
コンコンというノックの音。葵が返事をすると扉が開かれる。そして一人の男性が入ってくる。葵はその姿を見るなり飛びつくようにして抱きついた。
「プロデューサー!来てくれたんだ!」
「当たり前だろ!葵!!」
「嬉しいっちゃ!」
葵は満面の笑みを浮かべてみせる。
「知らせを聞いた時には驚いたよ…。痛みは、まだあるのか?」
「うん。結構痛いけど、我慢できるくらいちゃ」
「そうか、それは良かった。本当に無事でよかった」
「心配かけてごめんなさい。でもあたしは元気いっぱいやけん!ほら!」
葵は力こぶを作って見せる。
「ははは、そりゃ頼もしいな」
「そうやろ?」
胸を張る葵の仕草は少し子供っぽく映る。
だが、そんなところが彼女の魅力でもある。
「………それで、お前を刺したやつの事なんだが…」
プロデューサーは葵を襲ってきた男について話す。
「あいつは俺の知り合いだ。昔一緒に仕事をしてたこともある。あいつがあんなことをするなんて信じられない……」
「でも現にあたしを刺してどこかに消えたんよね?」
「ああ、間違いない。証拠もある」
「……その事で気になることがあるっちゃ。あの男が消える時、風船みたいに膨らんで、破裂したように見えたんよ。……それで気が付いたらもういなかった。あれは一体…」
「……それがあいつの能力だ。風船人間っていう」
「風船……人間?」
「そうだ。あいつは自分の体を膨らませて、空気を入れることができるんだ」
「何それ、すごい能力やね!?」
「ああ、でも厄介なことにあいつには理性がない。風船人間は感情に左右されやすいんだ。怒りに任せれば膨れあがり、悲しみに暮れていれば萎む。だからあいつは常に冷静でなければならない」
「なんか大変そうやね……」
「実際、かなり大変なんだよ……。あいつはそれで俺のもとを去ったんだから…」
「じゃああの人がプロデューサーさんを好きだっていうのは…!」
「……そんな事まで話してたのか。…ああ、本当だよ」
「………という事はあの人、いつかまたあたし達の前に現れるんじゃ」
「可能性はあるな……」
「どうしよう……」
「大丈夫。その時は俺が何とかする」
「プロデューサー……」
「安心しろって。俺は葵のプロデューサーだぞ」
「ありがとう……!」
「よし、そうと決まれば退院までゆっくり休んでくれ。今はそれが葵の仕事だ」
「わかったっちゃ!」
葵は笑顔を見せると再び横になった。
それからしばらくして、病室のドアが開いた。
入ってきたのは葵の担当医だった。
「葵ちゃん、ちょっといいかな」
「なんですか?」
「実は葵ちゃんが寝てる間に検査をしたんだけど、その結果が出たから教えようと思ってね」
「は、はぁ…。それで、結果は」
「結論から言うと、葵ちゃんはもう少し休んでもらえれば、すぐ退院しても問題はないと思う。ただし激しい運動は控えて欲しいけどね」
「本当!?やったー!」
葵は飛び跳ねて喜ぶ。
「ええ。ただ、一応あと数日だけ入院してもらうことになるけど」
「わかりました。よろしくお願いするっちゃ!」
「はい。ではお大事に」
そう言い残して、担当医は病室を後にした。
「思ったよりすぐ退院できそうっちゃ!」
「良かったじゃないか。退院祝いに何か欲しいものとかあるか?」
「う~ん、そうやねぇ……。あ、ならプロデューサー、退院するまで毎日ここに来てほしいっちゃ!そうしたらあたしは寂しくないし!」
「おいおい、仕事があるからずっとは無理だぞ?」
「わかっとるよ!でもせめて朝昼晩の三回くらい来てくれない?」
「いや多いな!!!!」
「へへ。冗談っちゃ。……まぁ、仕事終わりにでも来れたら来て欲しいかな」
「…………わかった。できる限り来るようにするよ。っと、そろそろ時間か。んじゃ葵。しっかり安静にしてるんだぞ!」
「わかっとるよ!またね、プロデューサー」
病室を後にするプロデューサーを見送った葵は、やがてそのままベッドに横になる。自分から攻撃を仕掛けたとはいえ、まさか刺されるとはとんだ災難だと思っていたが、プロデューサーに心配して貰えて、お見舞いにも来て貰えるのは素直に喜ばしい事だった。
(最初は告白断られたけど…。これをきっかけに距離が縮まったりして…??)
葵は頬を染めながらそんな空想に耽る。
しかしまだ葵は知らない。
これから、自分の身にとんでもない事が起こることを。