クラシック音楽をビッグバンドで演奏するという話。バッハ、モーツァルト、ラヴェル、ドビュッシーをゴードン・グッドウィンはじめグレンミラー等有名ビッグバンドでも演奏しているので紹介します。
こんにちは、ビッグバンドファンです。今日はクラシック音楽をビッグバンドで演奏するという話をしたいと思います。
クラシック音楽をビッグバンドで演奏するとは
クラシックとビッグバンドひいてはジャズ、歴史で見ればクラシックの方が断然先輩になります。ジャズは言っても歴史としては100年強ぐらいのもので、それに対してクラシックは起源だけで言ったら一桁世紀とかの教会音楽とかまで遡れてしまいますし、バッハなどが活躍したバロック期からとしても16世紀からになりますからね、圧倒的先輩でございます。なので、ビッグバンドも歴史的には先輩であるクラシック音楽から良いところ、使えそうな要素を沢山取り入れて成立しているという側面はあります。
有名なところではGeorge Gershwinさんですね。Rhapsody in Blue、I got Rhythm、Fascinating Rhythm、Strike up the bandなど今でも数多くのビッグバンドが演奏するような名曲を残されていますが、これらの楽曲はまさにビッグバンドとクラシックのいいとこどりをしたものであります。
一方でいわゆるクラシックのオーケストラがベートーベンの曲をやるようにビッグバンドでクラシックの音楽を演奏する、これは結構チャレンジングであったりします。そもそもビッグバンドで演奏することを前提に曲が書かれていないので、いいとこ取りをすることは出来ても、そのまま演奏することはなかなか難しい。そこでアレンジをするわけですが、これがまた難しい。出来たとしても「う~~~ん、これだったら普通にオーケストラが演奏した方が良くね?」という話になってしまったら意味ないですし、ビッグバンドで演奏することでより曲の良さが引き立つ、これがやっぱり聞いている側としては理想かなと思うわけです。
Gordon Goodwinさんの紹介
というわけで、そんな難題に果敢に取り組んでいる例をいくつか紹介していきたいと思います。まずは現在最も売れているビッグバンドといっても過言ではないかと思います、Gordon Goodwin Big Phat Bandです。Jazz Policeなどキャッチーでノリの良い楽曲を高い技術をもったプレイヤーがバシバシ演奏するというイメージがありますが、実はバッハとモーツァルトの曲を演奏しています。
Bach 2 Part Invention In D Minor
バッハはInvention第2番。原曲はハ短調ですがグッドウィン氏はニ短調にアレンジしています。また原曲はピアノで演奏する、2声のポリフォニーで構成されたものですが、これを各楽器に割り当てることで原曲のラインを損なわずそれでいてビッグバンドらしさを加えることに成功しています。
Mozart 40th Symphony in G Minor
モーツァルトは交響曲第40番、こちらは原曲通りト短調のまま演奏しています。モーツァルトというと明るい曲が沢山あるイメージがあると思いますが、それもそのはずで殆どの曲が長調なんです。そうした中、交響曲においては2曲だけ短調の曲を書いていて、そのうちの1曲がこの交響曲40番なんですね。実はこの曲を書いた前年1787年5月28日にお父様であるレオポルト・モーツァルトが亡くなられているんですね。お母さまも若くして亡くなられ、両親の相次ぐ死にショックを受けていたのではないかと思います。そうした背景も踏まえ、原曲もそうなんですが、Gordon Goodwin氏のアレンジでも冒頭、木管楽器を中心としたメロディが非常に切なく響いてくるんですね。この切なさ、下手すると楽器数が多い交響曲よりも効果的に聞かせられているんじゃないか?そんな風にも感じられます。
何故この2曲をアルバムに入れたか
実はこの2曲は同じアルバムに収録されたのですが、この2曲を含めるに当たってGordon Goodwin氏の意見表明のようなブログ記事が残ってまして、これが実にいい内容なので紹介したいと思います。原文は英語ですが、Googleさんのお力を借りつつ要約しましたので、原文お読みになられたい方は概要欄にリンクを貼っておくので読んでみてください。
http://www.bigphatband.com/art-vs-commerce-the-questions-lingers
CDリリースにあたり雑誌のインタビューを受けたGoodwin氏、そのインタビューの中で「何故、今回のCDにクラシックの曲が入っているんだ?」と質問されたそうなんです。ここであくまでGoodwin氏が感じられたところですが、この質問した人はどうもクラシックのジャズバージョンを嫌っている、少なくともGoodwin氏のアルバムにクラシック曲が入っていることを嫌っているような反応をしていたようなんです。それに対し、Goodwin氏は「私には良い音がすると思った、だから入れた」とシンプルに回答したそうです。更に「結局のところ、それが唯一の適切な答えなのではないですか?アーティストとして正直に言えば、音楽を書いたり、演奏したり、録音したりする理由はそれだけだ」とまで言い切られます。
音楽とお金を稼ぐこととのバランス
ただこの後、いわゆる音楽とビジネス、もっと言えばお金を稼ぐという話になってきます。つまり、音楽的に良いと感じるもの、それを書いたり演奏したり録音したりする、これが基本アーティストが音楽活動を続ける理由なのだと言い切っているわけですが、一方でお金を稼ぐという点でそう言い切れない面もあるのではないか?それをどうするか?というところまで踏み込みます。ブログの中では「お金を稼ぎたいという人の気持ちを疑うことは出来ない。私はお金が好きだし、そうでない人はいないのではないでしょうか?」といったうえで「私たちの多くは、お金の面と芸術的な面の両方の動機や関心が混在していて、その胸の内を説明するのはかなり難しい」と非常に正直に書いてくれています。で、結論としてはバランスを取っていく必要があるよという話になるのですが、そこに至るまでが面白いので、少し長くなりますが続けます。
普段からGoodwin氏は世界最高のミュージシャンたちと一緒に仕事をしていますから、そうしたミュージシャンが非常に難しい音楽を読み解き、更に言えばより良いものにしているのを普段から目にしているわけです。ところがそうした素晴らしいミュージシャンが時に本当にダサくて、お粗末に書かれた曲を演奏しなければならない、あるいはGoodwin氏の場合は作曲・アレンジャーなので、そういう愚かな音楽を書くように頼まれることもある、というわけです。すごい正直に書いてるなぁと思うのですが、ここでGoodwin氏のカッコイイ一言が出てきます「でも私たちの仕事は、それを最高のものにすることです。」くぅ~~~~、スゴイ。どんなにダサかろうが愚かな仕事だろうがそれを最高のものにする、その為に必要な十分なお金をもらっている、Goodwin氏にとってお金を貰って仕事をするとはそういうことなんですね。そのうえでいよいよバランスを取ることが重要であるという話になります。Goodwin氏もキャリア豊富な方なので、これまでに多くのミュージシャンがどんなに高給取りであっても仕事に追われて燃え尽きてしまう人も見てきたし、そうしたミュージシャンの中には自分の音楽的な魂を見失ってしまう人もいたそうです。また逆に、純粋主義のジャズミュージシャンがいわゆる流行的なものに対し苦い思いをしながら芸術を実践しようと頑張り、結局挫折していくというのも見てきたそうです。なので、なかなか難しいことではあると、実際ブログの中でも簡単なことではないし時に衝突するということも言っていますが、最終的にはバランスが取れると言ってます。これ、そのままBig Phat Bandのことを表しているともいえるんですね。実際Big Phat Bandは比較的新しめの曲であったりアレンジにしてもいわゆるトラディショナルなジャズやビッグバンドとは違う手法を取り入れたりすることが多いのですが、こうした取り組みに対し批判する人がいるというんですね。ただ演奏を聴いてもらえればそれが単に商業的な音楽とは違う、心のこもった音楽であるということは分かるとも言っていて、一貫してGoodwin氏の実力に裏打ちされた信念を感じます。というわけで、ちょっと後半はGoodwin氏の話になりましたが、バッハのInventionとモーツァルトの交響曲第40番をビッグバンドで演奏しているという話でした。
hr-Bigband - Frankfurt Radio Big Band「Bach Goes Big Band」
さて続いては企画モノかとも思うのですが、hr-bigband、フランクフルト・ラジオ・ビッグバンドが「Bach goes bigband」という丸々バッハ氏の曲をビッグバンドで演奏するということをやっています。驚きなのが、これ実は同バンドの公式YouTubeチャンネルにフルに演奏動画が公開されてまして、全部聞けます。なので、聞いて頂くのが一番早いんですが、かなりカッコイイです。選曲も平均律から入りカンタータ、大フーガ等特徴的な楽曲、チェンバロ協奏曲等も面白いアレンジで取り組んでいて、チェンバロをキーボードにあてつつ現代的な響きと楽曲の持つ神聖さとはかなさを上手くいかしたサウンドに仕上げてます。バッハは音楽の父と言われるだけあり、ロックの楽曲等にもその影響がみられる等幅広い音楽に影響を与えていますが、ビッグバンドにおいても取り上げたい魅力を持っているということなんでしょうね。
Ravel, Maurice(モーリス・ラヴェル)の「Le tombeau de Couperin(クープランの墓)」
それからもう1つ、ラヴェルの「クープランの墓」、これビッグバンドにアレンジしやすいんでしょうね。Florian Rossというアレンジャーがビッグバンドにしていて、日本でも慶応大学のビッグバンド「Light Music Society」さんが演奏しています。
他ジャズピアニストの森田真奈美さん、報道ステーションのテーマ曲なんかも弾かれている方ですが、この方もご自身のビッグバンドアルバムの中でこの曲を取り上げています。
あとはビッグバンドではないですが小曽根真さんがGary buton氏とDuoで演奏しているものもあります。
ラヴェル氏はフランスの方ですが、クラシックでは近現代の作曲家に分類されますね。ボレロや展覧会の絵のオーケストレーションなどでも有名です。ただ、どのアレンジも大体プレリュードだけを演奏してますが、実際は「プレリュード」「フーガ」「フォルラーヌ」「リゴドン」「メヌエット」「トッカータ」の6曲からなっている楽曲で、それぞれが第一次世界大戦で戦死した知人たちへの思い出にささげられているそうです。聞いて頂くと分かりますが、原曲がかなり雰囲気のある曲で、ジャズアレンジにおいてもメロディーラインは殆ど変えずに演奏されていますし、近現代ともなるとクラシックもモーツァルトやベートーベンの時代と比べてもだいぶ形も変わってくるので、ビッグバンドもクラシックも実は近しいところで音楽をやっているのかもしれませんね。
Claude Debussy(クロード・ドビュッシー)の「Clair de Lune(月の光)」
そういう意味ではやはりこの人も取り上げられることが多いのかもしれません。クロードドビュッシーさんですね。いわゆる印象派の作曲家と言われますが、1フレーズ聞いただけでフランス音楽の色彩というんですかね、色が見える音というのは独特の世界を持った方であるのは間違いないですが、中でも「月の光」これはクラシックという枠を超えて一度は皆さん聞いたことあるんじゃないかと思います。この曲、グレンミラー氏がビッグバンドで演奏しています。
その他、近年ではボブ・フローレンス氏のビッグバンドも演奏するなど実はビッグバンドで取り上げられることが多くあります。何を隠そう、私がリーダーを務めるビッグバンドでもピアニスト林達也氏のアレンジで演奏しましてね、楽しかったです。これも先程のラヴェル氏のクープランの墓と同じく原曲にとても印象的なフレーズが使われているので、演奏しててもラインがイメージしやすかったです。ただその分というか、拍の取り方がかなり特殊なことになって難儀した覚えはあります。
とここまで、クラシックの音楽をビッグバンドでという話をしてきました。ガーシュインさんから始まり、バッハ氏やモーツァルト、ラヴェル、ドビュッシーと紹介しましたが、共通しているのは音楽として良いところを取り入れようという割とシンプルなところかなと思います。ジャンルに限らず良いと思えるものは貪欲に取り入れていきより良いものにしていく、これは何事にも通じる話かもしれません。今日はここまでにしたいと思います。最後までお聞き頂きましてありがとうございます。ご興味お持ち頂けましたら是非チャンネル登録していただけたらと思います。以上、ビッグバンドファンでした。ばいばい。
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