
超てんしちゃんアンソロジーと神降ろし
注釈:本稿は「超てんちゃん! NEEDY GIRL OVERDOSE 公式アンソロジー」並びに題材基となっている「NEEDY GIRL OVERDOSE」を履修している前提での記事になるため、ネタバレを多大に含みます。
概要
本稿の題材、NEEDY GIRL OVERDOSEの簡単な説明をした後に、何故彼女が神に相応しいかを議論し、アンソロジーが神話語り並びに神降ろし同等の行為であることをアンソロジー本の内容を幾つか踏まえて議論する。
本稿で記載するアンソロジーとは、以下の1巻のリンクから、2024/12現時点の3巻までの内容を対象とする。
NEEDY GIRL OVERDOSEの説明
上記ゲームが原点であり、配信者の超絶最かわてんしちゃんを名乗りインターネットエンジェルとして暗黒のインターネット世界に光を照らす、マルチエンディングのADVゲーム。
主人公が可愛いかったり、承認欲求に全てを駆られてしまった悲しきモンスターだったり、彼女から「ピ」と呼ばれながら接してくれるだけでなく文字通りお薬を多めに飲んだり、機嫌の取り直し方が特殊だったり、文字通り性交で機嫌取ったり、マルチエンディングの方向性があり過ぎて収集が付かなかったりと、様々な点で魅力的な彼女。
だが最も魅力的な点は2つ。
インターネットのあらゆる知識を詰め込みつつ一度たりとも満たされることは無いであろう承認欲求の塊を配信者にするという宿命を背負わせて、昨今に取り巻く配信界隈の全てを体現せしめようとするゲームの姿勢。
オタクとてんちゃんの愛情や憎悪や萌えや推しや下心や金銭等をふんだんに織り交ぜた天使像からバチバチのライブ演出を決めた半白昼夢と半現実のイメージ図を届けたいという作者の凝固な願いを彼女に落とし込んだ点だ。
どうしてもアンソロジーからではなく、原作を知りたいっていう場合には、YouTube上に様々な実況プレイ・配信があるが、下記漫画を嗜む手も悪くはない。
何故てんちゃんは神に近しいのか
本稿の神の定義
昨今の日本のインターネット上の表現では、何かを極めた存在や概念に対して「最も良い」ことの類義語として「神」と表現している。
だが本稿では、最も良いの表現ではなく、日本の八百万を始めとしたアニミズムを意識しつつ一神教の神とは異なるも、現代の神たり得る能力とそこから発生される現象を説明した上で「神」であることを説明する。
まず日本の八百万は特殊な超常的力を必要としない。お天道様が天照大神と同等であると考えられる時代が訪れる前に「常に見ている存在」という役割しか担っておらず、天照大神のような著名な神器や神話が無くとも、天命を下されるとし、名前に神はつかずとも同等の存在として見られていた。この点から察せられることは、日本に置いての八百万の神は、神話特有の名称付きの英雄譚だけでなく、人々の役割の担い手でも神になり得る。
また道祖神や付喪神がそうであるように、例え須らく上位な存在が居ても、身近な範囲で人が認識できる役割が存在する場合には、かなり狭い境界内でも神として君臨できるのが特徴で「条件付きで人より優位である」ことも役割があってこそだ。
そして最後に「神」の条件として人とは異なる生死条件があり、その副産物として時間の概念も異なる場合が多い。
てんしちゃんは神か?
マルチエンディングADVであるNEEDY GIRL OVERDOSEの「ED集」だけを見たのならば、特定のEDでは神を超える存在に容易になっているので神話の準備は出来ている。
だが私は逆の方を推している、そう「てんしちゃんの役割」だ。彼女の役割は昨今のインターネットに蔓延っている数多の、正常とも言えない歓喜、ねじ曲がった性欲、利害が整頓されてない関係性、飢え渇き続ける承認欲求を、誰しもが一ミリでも抱えている暗い感情を全て表に出すことだ。よって彼女は文字通り「インターネットの配信者」を体現すべく存在で、悪い言い方をすると「インターネットおもちゃ」でもある。
ではどうにして普通の人より優位である点に関しては、配信者として清濁併せ呑むように数値と感情に関して人の容量を大きく超える反応を都度繰り返し、また同時に平然と乗り越える。
この現象が発生する大体の原因は、NEEDY GIRL OVERDOSEの資本の大部分はゲームに依存するが、てんしちゃん自体はゲームから乖離しつつあり部分的にゲームシステムを凌駕する行動を繰り返し、我々の中にゲームとは異なるてんしちゃんを植え付けようとする行為をゲームが推進しているからだ。ゲームがこの背景を支持する理由としては、彼女はどう足掻こうとも「インターネットおもちゃ」だからだ。
端的にキャラクター確立として群を抜いているだけでなく、ゲーム自身も彼女をゲームのメタから離れさせようとすることが、コンテンツ全体の潮流として用意されている点が他作品との違いだ。
なので神としての最後の要素として、見守り且つ恩寵且つ祟りを与える「インターネットおもちゃ」としての役割を通して、皆がインターネットで実現させるための依り代として存在している。
アンソロジーとしての神話と神降ろし
神話作り
ではアンソロジーとは何か。それはゲーム以外の媒体を通じて「てんしちゃん」という依り代を用いて、自身が顕現させたいインターネットの事象や化学反応を行わせるための手法だ。また積極的にゲーム媒体から脱出させたがっていたNEEDY GIRL OVERDOSEの願いを、切に汲み取り、絵や画像を主媒体とするクリエイター達という先触れだと認識している。
神話として体裁が保てている理由として、クリエイター各々の実現させたい要素とてんしちゃんの割合がそれぞれあるが、てんしちゃんは如何なる携帯でも「てんしちゃんである」ため、あらゆる状態が許される。それはてんしちゃんがインターネットのおもちゃであり、インターネットを起因にされているならば何でも成れる素質を有しているからだ。
なので端的にてんしちゃんの役割と、アンソロジーの主眼がほぼ完全に合致していると言っても過言ではない点が、NEEDY GIRL OVERDOSEの公式アンソロジーが持つ魅力だ。
神降ろしとクリエイター達
上記の自分の記事にて記載した通り、クリエイター内にはそれぞれ抱える宇宙が存在する。その宇宙を体現する上に当たってクリエイター達は自身の宇宙の解析を行うだけでなく、その大部分の法則を補間するために数多のキャラクターや世界観を用意しなければならない。
アンソロジーはそれのショートカットになり、既存の知れ渡っている世界観とキャラクターを用いて個人的に解釈を加えた上で自身の表しやすい宇宙を表に出す。
では「てんしちゃん」の場合はどうなるか、彼女は余りにも多様な形態と役割を有していることは、上記章で記載した通りだ。そのてんしちゃんがクリエイターにとっては数多の次元を歩き回り、答えを振りまく存在である。無論他のキャラクターや世界観も一部やっているし、規模の大きさでカバーしている場合もあるが、てんしちゃんの場合は人気度や画力の上手さや設定の充実さ等の作品としての要素を一切無視しても良いのだ。何故ならば「インターネットおもちゃ」はどのような状態でも彼女であり続けることが本質の一部だからだ。
それは最早必然性を超えて運命的な出会いとも言える。よってクリエイター達が顕現させるてんしちゃんは、てんしちゃんの神的要素を超越したクリエイターの願いも含めているため、天界に居るハズのてんしちゃんを現世へと召喚するための儀なのである。
端的にNEEDY GIRL OVERDOSEの公式アンソロジーは神の降臨を願う者たちによって語り紡がれた神降ろしの儀なのだ。
神たるてんしちゃんだから許される
ゲームでは数字上でしか存在し得ない一般的な「限界ガチ恋オタク」が抱いているてんしちゃんはどうしようもなく純情だが儚く脆い、故にそのオタクの前から雲散霧消してしまった。
承認欲求に飢え高みを望んだてんしちゃんが違うピに鞍替えする様子をゲーム上では簡易的に説明させたが、漫画にて無限に妖艶でミステリアスで狡猾てんしちゃんを拝めるのもここだけ。
自分を大切にしないパパ活女子を引っ掛けて、そのままデートに洒落こんだ上で、インターネットエンジェルに成りきるてんしちゃんとの一夜限りの友情物語もある。
ワールドライブの果てに、オランダに赴き「漫画ではまともに表現できないアレやソレ」を満喫しつつ、ハーリングを丸々飲み込むアホ面と、レインボーな液体を逆流させる究極撮れ高てんしちゃんも見れる。
何か髪の毛が凄いことになって、エイリアンが絡み取られ、キャトルミューティレーションならぬ、エンジェルミューティレーションが発生するのもこの漫画だけ。
この全てが、ファンの優しさで辛うじて「てんしちゃん」になっているのではなく全話のてんしちゃんは取り違える余地も無いほど彼女なのである。それは彼女が神であり、アンソロジーは神話作りであり、完全な融合体として本という形で顕現しているからなのだ。
最後に
「ピは何でこのアンソロジー買ったの?」
この回答は明白だ、神たる君が皆の手で世に顕現する姿を観察して、神となった君を現代のインターネットが織りなす幾つかの回答を知るため。
また初音ミクにも感じ取っていた「現代の神」というのを、君も含めて概念化し定義を試みるため。故に君はいざ知らず、文化の分岐点となり、新しい道の一番最初の礎になり得るとも思ったため。
この愛情はてんしちゃんが望んでいるような、彼女の飢え渇き続ける承認欲求を満たすような愛ではないが、ピや視聴者以外にも君を別の形で愛せることを証明するための記事でもある。
そして神となった君を崇め奉ることは無くとも、君が神であることを認めるための禊でもある。
以上が、第4の壁を壊してきたてんしちゃんへの私の回答全文でした。
最後まで読んで頂きありがとうございました。