COVID19 NYの現状と私が感じること
改めてこのコロナウイルスについて振り返った時に、一番最初に違和感を感じたのは1月21日のニュースを見た時だった。
"北朝鮮が1月22日から中国との国境を封鎖する"
この記事を初めて見る人もいるかもしれないので、簡単に自己紹介をすると、私はニューヨークでマクロ戦略の投資を行なっている人間だ。
マクロ投資は国際政治や経済、地政学リスクなどをあらゆる観点から分析し、資産配分を決定する投資戦略の一種で、仕事柄、国際政治には嫌でも強くなる。
その観点から、「北朝鮮が中国との国境を封鎖する」というニュースは一番最初に違和感を覚えたヘッドラインであった。
北朝鮮にとって中国との国境を閉鎖するということは事実上、鎖国状態になり物資が滞るばかりか、外交上、中国に反旗を翻す程、重たい意思決定のはずである。
にも関わらず、なぜ北朝鮮はこのような判断をしたのか。
最初は、私にも北朝鮮の真意が掴めず、ただ違和感を覚えること位しかできなかった。
なぜなら、1月22日時点の中国の感染者は下のグラフの通りで、わずか571人のみ。とても国境封鎖に踏み切るほどの事態ではないと考えていたからだ。
ちなみに米国が中国への渡航禁止を実施したのは1月31日で、その時点で中国の感染者数は1万人を超えている。
つまり北朝鮮は、米国よりも早くにこの事態を予見できていたということになる。
しかし、北朝鮮がこれほど素早く国境封鎖に踏み込めたのは、彼らが"今の世界を予見できたから"というよりも、"先進国が知り得ない情報を持っていたから"と考えた方がしっくりくる。
1月時点では、一般に言われていたコロナウイルスへの認識、つまり「罹っても8割は軽症だし、死ぬ確率は極めて低い。感染力の強いインフルエンザのようなもの。」が"真"だったとすれば、北朝鮮の国境閉鎖という措置はあまりに早く、あまりに大袈裟すぎるはずだったのである。
しかし、欧米で感染が拡大し、その実態が見え始めると今や「ただの風邪」「インフルエンザみたいなもの」といった認識を持つ人はいないだろう。
つまり北朝鮮の"早すぎる"国境封鎖はやっぱり正しかったのだ。
なぜ、彼らがそれほど早くから今回の事態を予見し、外交上命取りになり兼ねない意思決定ができたのか、ということには敢えてこれ以上突っ込まない。
しかし、欧米での致死率を見ると、明らかにこのウイルスは感染力だけでなく、罹ると自力ではどうにもならないウイルスということがわかる。
以下の表は4月4日時点でのCOVID19の国別の致死率であるが、医療崩壊を起こしたスペイン・イタリア・フランスは極めて致死率が高くなっている。
つまり、インフルエンザのように薬を飲んで自宅で寝てれば治る類のものでは全くないのだ。
ニューヨークでもすでに医療崩壊が起きており、病院の前には長蛇の列ができている。
結果として、徐々にまともな治療を受けられない人が出始めており、ニューヨークの致死率は着実に上がってきている。
武漢をケーススタディとして、シャットダウンとピークまでの時間を、ニューヨークに重ね合わせると、おそらくこの数字は今後二週間程度は右肩上がりに伸びる可能性が高い。
一方、日本はこの点において、少なくとも現時点ではうまくマネージできているように見える。
致死率が2.4%というのはドイツや韓国に比べると高いが、死亡率(感染者数ではなく、人口に対するCOVID19の死者数の割合)の観点では圧倒的に低い。
日本の何が対応としてよかったのか?
正直、わからないが個人的には以下のような点があるのではと思っている。
マスクをほぼ全員がしている
マスクはウイルスから予防することは出来ないが、全員がすることで、拡散を防ぐことができる。一方、米国ではCDC(米疾病予防管理センター)が”マスクはウイルスから保護する効果はないので健康な人はする必要がない"と述べてきた為、殆どの人はしてこなかった。(昨日から無症状感染の広がりを懸念し、ようやくマスクの着用を推奨している)
手洗いうがいの基本ができている
日本人には当たり前のことが、欧米には手洗いすらしない人が多い。また、靴のまま家に上がるし、朝にシャワーを浴びる人が多いので、そのまま寝てしまう人も多い。
空調システムの違い
クルーズ船内での集団感染から察するに、空調が共有されていると、感染が拡大する可能性がありそうだ。米国のアパートはセントラルヒーティングと言って、全室の空調が中央管理されているアパートが多い。特にニューヨークのアパートはほぼ全てがそうなっており、これは真冬の時にケチって暖房をつけない人が出てきて、配管が凍るリスクをなくすためとも言われている。
以上がニューヨークから見た、私の感じる日本の優位性である。
残念なのは日本政府がイニシアチブをとって、この問題に対応してきた結果とは言えないことで、全て、日本人の国民性そのものが、今のところ、COVID19による死亡率を画期的に引き下げているだけといえよう。
ニューヨークの現在の様子
まず、Googleが提供しているデータをもとに東京と比較してみたい。
このデータはこちらのサイトで公開されているものだが、スマホの位置情報をもとに人々の行動がCOVID19の拡散以降、どう変化しているかを示している。
ご覧のように、小売店やレクリエーション、公共交通機関を使用する人がかなり落ち込んでいることがわかる。
実際、街中からは人が消えて、徘徊するのは(もともと多いが)ホームレスや異常者くらいと言っても過言ではないかもしれない。
深刻なのはテレビに映し出される病院の様子で、病院の外まで長蛇の列がで出来、とてもじゃないがまとまな診察を受けられないと思われる。
実はこの点に関して、米国は失敗したと感じており、本来なら馬鹿高い米国の病院もCOVID19については無料で治療を受けられるようになっているのだ。
その結果、「普段なら病院に行かないけど、念の為」という人が増えているようで、本当に必要な重症患者に治療が行き届かなくなっている。(もちろん重篤な患者には無料で治療を提供する仕組みが必要であるが)
今、準備をしないのは試合前日になってようやく張り切る負け犬と同じ
はっきり言って、ニューヨークはコロナ対策で完全に失敗したと言える。
ただ、それは州政府のやり方云々ではなく、ニューヨークの市民ひとりひとりの意識の低さに起因した失敗と言えるだろう。
実際、3週間前までは、メディアも含めて「自分とは関係ない」と考える論調の人があまりに多く、殆どの人は外出を抑制していなかった。
部活の試合と同じで、普段練習をしていない奴が、試合直前になってようやく本気で練習し始めたところで意味はない。
ニューヨークの市民は、死が間近なものになってようやく事の重大さに気づいたのだ。
そして残念ながら、今の東京の様子はニューヨークの3週間前と瓜二つのように見える。
3週間前のニューヨークの感染者は527人、新規感染者はたったの106人であった。
東京は都市の大きさや人口がニューヨークに近い。そして昨日の新規COVID19感染者数は143人だったと聞く。
また、先ほどの、スマホの位置情報から計算された人々の行動状況も3週間前のニューヨークの数字とそっくりなのだ。
東京は不幸中の幸いで、オリンピックに向けて建設してきた選手村や、競技場施設などがあるから、病床については最悪、何とかなるかもしれない。
しかし、人工呼吸器や医療従事者の不足はいかようにもし難く、医療崩壊を防ぐには国民ひとりひとりが、3週間後の世界を見据えて”今”準備すべきなのである。
繰り返しになるが、このウイルスは「かかっても大丈夫」という類のものでは決して無い。
もしその程度のウイルスなら北朝鮮があれほど早くに中国との国境を封鎖するはずがない。
イタリアもスペインも、フランスもイギリスも、米国も失敗した。
日本が、3週間後に、欧米の二の舞になっているかどうかは、今日のひとりひとりの意識そのものにかかっている。
だから、お花見シーズンが始まる中、日本人が自らを律し、この危機を乗り越えられることを、ニューヨークから本気で応援しています。
頑張れニッポン!