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勝城蒼鳳 よむ あむ うつす 人間国宝に訊く竹の道 栃木県立美術館 【抽象画のようにみる】

栃木県立美術館で2025年3月23日まで開催されている竹工芸家であり、人間国宝の勝城蒼鳳(かつしろ そうほう)さんの企画展へ行って来た。

勝城さんは栃木県那須塩原市生まれの方で、2023年1月に亡くなられた。

生まれ育った那須野が原の風景や自然から感動を受け、竹で表現するということを基本に、建築、文学、哲学、物理、天文という蔵書の山から独自の作風を生み出す努力もしていた。海外のアートコレクターにも評価され、竹工芸家として日本の芸術を伝えた。

自然から受けた感動を写真を撮らずに「俳句」に詠み、そのイメージを竹で表現していく彼は、パウル・クレーやイサム・ノグチの作品が好きだと言っている。感動を抽象化させ、形にしていくという点では共通点があると思うし、お二人とも私の好きな芸術家で、勝城さんの作品への見方が抽象作品をみる感覚になった。

工芸品の企画展は今まで苦手意識があった。抽象絵画や彫刻などと同じ造形美としてみてみると、竹工芸品の楽しさが理解出来た。撮影は禁止なので、私の考える造形美という視点で図録からいくつか紹介。

盛籃「春乃海」。栃木には海がない。旅先でみた海の感動を作品にしている。春の波は荒々しくなく、穏やかではあるが、川や湖とは違う。撮影禁止なのは、実物をみないとこの作品の良さが分からないからだと思う。波の部分にライトがあたるとその部分が輝き、移動しながらみると、波が動いているように感じる。
柾割千筋流線文盛籃「セセラギ」。那珂川上流の様子。上の春乃海とは波の形が違う。川の流れを表現したのだなと納得する。技術を研究し続け、イメージした造形美に近づけるその努力が伝わる作品群が展示されている。
根曲竹摺漆花籃「颯然」。勝城さんは長い間作品を制作する中で、竹の太さと色を変えて、力強さを感じさせる作品と繊細さを感じさせる作品の両方を発表し続けた。その時表現したいもののイメージを大切にした結果が多種多様な作品を生み出したのだろう。
平伸竹遊線花籃「共生」。豪快で存在感がある。花を生けるとしたら、わざと「共生」を際立たせるために地味な花を一本にするか、緑を多く斬新な色合いの花を合わせてしまうか、バランスを想像するのも楽しい。
晒根曲竹花籃「叢篁の朝」。2023年の展覧会へ出品。これが最後の出品作となった。という表示を読んでから作品をみたからか、言葉に出来ない切なさが感じられた。

図録の目次の次のページで鈴木さとみ主任研究員が書いた文章は、勝城さんとの深い絆が感じられ、長い期間の美術館とのつながりで得たエピソードを含めた文章で、勝城さんの経歴や独自性、おおらかな人柄全てを知ることが出来て、暖かい気持ちになる紹介文だと思った。さまざまな図録を読んできたが、今回の図録は、芸術家との距離が近いという地方の美術館の良さが印象に残った。


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