ミシュラン店数北海道第3位の食と農の街・美瑛町でなぜジンギスカンフェスティバルを開催したのか? びえい農泊事業の成功と課題
美瑛町は、町内にミシュランガイドで星を獲得したレストランが3軒もある町です。その数は、道内で札幌市、函館市についで3位の数。北海道が誇る食の街といえます。
これは、レストランで働く方々のすばらしさはもちろん、美瑛町が農業が盛んで、食材の豊かであることも起因しているといえます。都市とは違い地方にあるレストランだからこそ「地産地消」を大切にしているからです。
こんなにすごいことなのに、その事実が意外と知られていないのはとても残念なことです(美瑛町には食以外にもさまざまなコンテンツがあるので当然かも!)。私たちが進める農泊事業では、地域のレストランを初めとする飲食店の存在もとても重要で、「美瑛で食事をしたい!」という人をもっと増やしていきたいと常々考えております。
そんななか10月12日(土)に開催した「国際交流会」と、13日(日)に開催した「美瑛ジンギスカンフェスティバル2024」は、食と農の街・美瑛町はもちろん、私たちが目指す「びえい農泊」についても知ってもらえるイベントになりました。
28歳で移住したCHEF-1料理人が羊肉でもてなした日豪国際交流会
JAびえいが2017年からオーストラリアのタスマニア州政府と連携協定を結び、青年・女性農業者を海外派遣していました。北海道の農閑期である冬期間に、南半球で季節が真逆の夏のタスマニア州に渡り、語学学習や最新の農業設備や管理方法を学んでくるというものです。
10月12日(土)に開催した国際交流会は、そのタスマニア州と美瑛市が食を通じて交流するというもので、コロナ禍で農業者派遣が途絶えてしまって以来の両地域の久しぶりの交流でもありました。
交流会は、美瑛駅から徒歩3分の「ふれあい館ラヴニール」前の広場を会場に15時にスタートしました。参加者は41名、なかでも⅔の方が美瑛町外からの参加者でした。
イベントの冒頭にはMLA(豪州食肉家畜生産者事業団)の駐日代表のトラヴィス・ブラウン氏、美瑛町の角和浩幸町長、駐日代表タスマニア州通商代表のジョー・ゲートン氏が挨拶をした後、MLAの三橋一法氏の発声で乾杯を行いまし。
交流会の料理を担当したのは美瑛町の地域おこし協力隊員でもある料理人の鄭大羽氏です。鄭氏は、料理人のM-1と呼ばれるTV番組「CHEF-1 グランプリ」の2022年大会でファイナリストに選ばれた注目の料理人。28歳の若さながら料理人としての新しい成長の場所に食と農の街・美瑛町を選び、2024年4月に移住し、地域おこし協力隊に着任しました。
鄭氏は、タスマニア州産ラム(仔羊肉)のラック(骨付きロース)や肩肉を使ったメニューや美瑛羊のレッグの丸焼き、ヒレのたたき、美瑛南蛮とトマト麹のソースで食べる肩肉串焼きなど、美瑛町産の食材をたっぷりつかった料理で来場者をもてなしました。
とくに美瑛羊は、びえい農泊 DX推進協議会の会長でもあるアブガンドロージン・アバラゼデ氏が代表を務める美瑛町の畜産農家「ファームズ千代田」で育った16カ月の羊(マトン)で、この日が初披露でした。
およそ2時間の交流会は、美瑛町役場から副町長の吉川智巳様、商工観光交流課長の髙島和浩様、美瑛町商工会の会長 蔵重満様にお越しいただいたほか、町外からは旭川市議会議員のあべなお様がご来場くださいました。この場をお借りして御礼を申しあげます。
美瑛町からは生産者のほか、地元の飲食事業者をはじめとする食にまつわる事業者もかけつけてくださり、おいしい料理を囲みながら両地域の交流を深めました。
なお、イベントの終盤には本イベントの運営メンバーで美瑛町地域おこし協力隊インターンシップの手塚政宗氏(立教大学4年)と美瑛町インターンシップの三ツ森克樹氏と齋藤陸斗氏(ともに大正大学3年)による美瑛町とタスマニア州の食を比較しながら、美瑛町の農泊事業に若者らしい新鮮な発想で提案する青空プレゼンテーションが行われ、参加者を交えて意見の交換が行われました。
国際交流会と美瑛ジンギスカンフェスティバル2024を盛りあげた「ラムバサダー」
国際交流会の翌日11月13日(日)には、前日と同じふれあい館ラヴニール前の広場で「美瑛ジンギスカンフェスティバル2024」を開催しました。交流会でシェフを務めた鄭さんが北海道芦別市に本社を置く調味料の製造メーカー「株式会社ソラチ」とともに開発した味付ジンギスカンの新商品「美瑛ジンギスカン」を初披露するイベントでもありました。
厚切りのオーストラリア産肩ロースを塩味ベースの特製のタレに漬け込んだジンギスカンを、美瑛町の野菜とともにジンギスカン鍋で焼いて食べるイベントには、町内だけでなく町外から食べにきたという利用者も多く、旅の目的が「美瑛町のご当地ローカルフードを食べる」にできることを実証できました。
町外の利用者のお目当ては、美瑛ジンギスカンはもちろん、北海道を代表する人気者で、北海道のソウルフードジンギスカンをPRするジンギスカンのジンくんに会いにきたという人も多くいました。ジンくんがコミカルな動きで会場に現れると老若男女、たくさんの人が集まって記念撮影が始まります。一人ひとり丁寧に記念写真に応じる優しいジンくんの姿が印象的でした。
なぜ、美瑛町にジンくんが現れたのでしょうか? じつはジンくんは、びえい農泊 DX推進協議会の実行委員を務める石川史子も所属する豪州産ラム肉をPRするアンバサダー「ラムバサダー」のメンバーでもあります。
ほかにもラムバサダーからは、フードブロガーで、美瑛町を二拠点生活の1つにしているカレーマンが国際交流会で司会進行を務めたほか、北海道名寄市の羊肉専門店「東洋肉店」代表の東澤壮晃さんが国際交流会で鄭さんの料理をサポート。東澤さんは、国際交流会で羊の生ハムやレバーペースト、タンスモークなどオーストラリア産の羊肉を使った加工品を提供したほか、乾杯のスパークリングワインを含むワインをタスマニア産でセレクトしてもらいました。
石川を含めて4人のラムバサダーが集結したイベントということもあり、ラムバサダーをM任命するMLAも国際交流会と美瑛ジンギスカンフェスティバル2024を大いにサポートし、盛り上げてもらいました。駐日代表のブラウン氏、ラムバサダープロジェクトのマネージャー三橋氏、ありがとうございました。
こうしたびえい農泊 DX推進協議会を応援してくれるラムバサダーの存在も2日間のイベントを成功させるのになくてはならないものでした。
美瑛町らしい農泊とは何かを考えた2日間
「農泊事業なのに農家でイベントや宿泊をしないのですね」とイベントの前後でご質問を受けました。「農泊」を「農家民宿」や「農家民泊」のことだと思われている方が多いのは、私たちの発信不足なのかもしれません。
農泊は、農山漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」と定義されていています。つまり、農山漁村に宿泊するだけでなく、その地域に根差した食や文化体験を楽しむことまでが農泊が目指す旅行の姿なのです。
国際交流会と美瑛ジンギスカンフェスティバル2024を通じて私たちが考える「多様な人たちが集うことの体験価値」を重視する「びえい農泊」の輪郭が見えたという手応えとともに、参加してくださった方々にもそれを体験してもらえたのではないかと考えています。
とくに国際交流会では、海外からの来訪者に対して、料理の味はもちろん、お互いの食文化をつなぎあわせて料理の中で交流させ、その料理を異なる文化の人たちが食べることで理解し合い、交流のきっかけを生むという農泊事業の本質ともいえる瞬間が生まれたのはとてもうれしいことでした。
また、美瑛ジンギスカンフェスティバル2024の賑わいは、美瑛町にあった地域の食の課題を一石を投じることもできたと思っています。この記事の冒頭に書いたように、美瑛町には3軒のミシュランガイド掲載店があります。一方で、学生インターンがプレゼンテーションで指摘していたようにいわゆる美食:ガストロノミーといわれるレストランはあっても、地元の日常の外食店が少ない、とくに夜に営業している店の少なさに課題がありました。
つまり滞在してもらうとしても夜に地元の食材を使った料理が食べられるお店が少ないという課題です。
一朝一夕で解決できることではありませんが、ジンギスカンを食べに町外から多くの訪問者があったことを目の当たりにし、美瑛町でもジンギスカン店を出したいという事業者の声がさっそく上がったことは、大きな変化のひとつのように感じています。
数十年後に振り返って、この2日間が世界に誇る食の街・美瑛町を生みだしたイノベーティブな2日間だったと思い返してもらえるようにするには、これからの取り組みが大事です。びえい農泊 DX推進協議会はその役目を担っていきたいと思っています。
text & photos by Ichiro Erokumae
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