心理学 「勘違い」を用いて、他者とうまくやる!
書評 「勘違いを科学的に使えば武器になる」,堀田秀吾/著,秀和システム
#堀田秀吾 #勘違いを科学的に使えば武器になる #秀和システム
知る人ぞ知る、あの明治大学の名物教授・堀田秀吾先生による「人間関係のストレスを0にする」ために、わざわざ労をとられた一冊である。
著者である堀田氏は、言語学者としての名声が高いが、その活動範囲はそこにとどまらず、心理学や法学といった領域においても存在感を放っている。
近年は、学術書の枠を超え、一般向けに学者としての——プロの知見をわかりやすく説く書籍作りに力を入れておられる。
評者である僕の見るところ、その活動の根底には「人間が幸せに生きるために学者として貢献したい」、という優しい眼差しがそこにあることは間違いない。
そのために必要となる学問知を、どう易しく読者のために表現していくかという点で、だから密かに苦しみ格闘してもいるはずなのだ。
それもあってか、堀田氏の本はどれも極めて読みやすい。また、その論旨はさすが言語学者が手がけたものだけあって一読してストンと心に落ちてくる。
加えて、計算され尽くした余白や行間、フォントへのこだわり、太字の工夫などとも相まって、本書一冊を読み終えるために本当に僅かの苦労もいらない。
必要な知識を必要に応じて何度でも使えるように、各章が細かく分けられている点もありがたい。
つまり、本書は「理性と学問知」でもって「人間関係の幸せを構築してみよう」、という生き方を側面からサポートする役割を持たされてしつらえられたものである。
評者は、人間環境学者をしつつ、僧侶の草鞋も履いているのだが、拙僧によせられる悩みの大半は、結局のところ「人間関係」に基づくものである。
要するに、人生の苦しみの大半は、まず間違いなくここに原因があるということだ。
堀田氏は、その根深い悩みに対して、心理学の知見をここで紹介している。
具体的には、「バイアス」という概念の提示が行われている。
私たちが人間関係でトラブルを招くのは、それぞれが〝バイアス〟のかかった状態で相手と接してしまうことが原因なんだよ、と著者は言うのだ。
自分と相手とは、自分が考える以上に異なった世界のなかで生きているけれど、〝バイアス〟があることでそのことがわからなくなってしまう。
また、そうしたモノの見方そのものも、〝自分こそが正しいはず……〟という、いわゆる「確証バイアス」の働きで自分を客観視できず、自己中心性が高まってしまう結果、そこもまたトラブルの遠因となっている。
ずばり、著者がもっとも心配しているところはそこにこそあるのだ!
だからこそ、自己中心性からまず離れることを念頭に、自らを客観視する方法を知り、その訓練を地道に積むことでしか、「人間関係」のトラブルを回避する道はない、とそんな信念が、本書にはそこかしこに見え隠れする。
「人の幸せに貢献したい」、という著者の思いが、実にたっぷりと詰まったものが本書なのである。
【評者】水月昭道(みづき しょうどう)。人間環境学者。博士(人間環境学 九州大学)。著書に「高学歴ワーキングプア」シリーズ,(光文社新書)、「子どもの道くさ」(東信堂)、「お寺さん崩壊」(新潮新書)、「他力本願のすすめ」(朝日新書)他。「月刊住職」連載。