「子どもの道くさ」が売れても著者に印税は入らない訳
#子どもの道くさ #水月昭道 #東信堂 #居住福祉 #早川和男 #南博文 #サトウタツヤ
「子どもの道くさ」(東信堂)がバズってしまい著者も喜びに浸っております。ただ、この本はどれだけ売れても著者に印税は入りません。正確には「本」が多少、現物支給されるのみです。
と申しますのも、その売上げは自動的に、学会に寄付されることになっているのです。
本書は、「生活空間と人間の心理・行動との関係性についての最適解」を模索し、世間へデータを用いながらわかりやすく、楽しく、それらの考察を含め提示していく、そんな(社会的使命感に根ざす)研究活動の一環として上梓されているからです。
この学会——(日本居住福祉学会と言います)を立ち上げたのは、学部時代の恩師である故・早川和男 神戸大名誉教授です。私にとっては父のような存在でした。早川先生:博士(工学 京都大学)は建築学者として「住居は人権である」という概念を掲げ、生涯をかけて我が国における住宅環境と地域計画および住宅政策の改善に邁進なされました。
いま、コロナ禍で住む家を失っている人が増えています。また、ネットカフェ難民などの問題もなかなか解決されません。これらはすべからく、「住宅の取得や賃貸は完全なる自己責任で」というこの国に蔓延る独自の住宅政策が関係しています。
しかし、「住む」ということは「基本的人権」のひとつであるのだと主張する先生は、もっと人々が安心して健康に安らいで暮らせる住宅設計や地域計画、そして住宅政策をきちんと整備していかねばそれらは立ちゆかないと考えていました。
そんな先生は、そうしたことがもっと伝わりやすくなるためのアピール方法はないものかと考えた挙げ句、「居住福祉」という概念を導き出されたのです。これはその言葉のままに岩波新書へと論が展開されるに至りました。(昨晩まで普通の中古本の値段であった本書がどうも高騰しはじめているようです……。こちらも絶版状態のようですが、皆さまの欲しいという声で出版社が動いてくださることを期待しております)
なぜ、早川先生はここまで、「人々が安心して住める」ということに拘ったのでしょうか。個人的には、先生の生い立ちが関係しているように思っております。
晩年の先生から聞かせて頂いたお話があります。それは、戦時中に御尊父が戦死なされ母子だけ残されたというものでした。実家はお宮——神社であったそうです。ご母堂さまは幼い早川和男君に聞いたそうです。「あなたは宮司を継ぎたいかい?」。まだ子どもでその意味がよくわからなかった先生は、「あまり好きではない」というような返事をしたそうです。その後、この母と子は住む家を追われることになるのです。宮司を継がないのなら、別の宮司を呼ぶからという氏子さんらによって。
その時の辛い経験がずっと忘れられないままであったのかもしれないと思うのです。「僕は子どもだったからわからなかったんだよ。あの時、母が一言でも継げと言ってくれればそうしたのになあ。でも今はそのおかげでこうして学者になれたから人生はわからないものだけれどね」と、語って下さっていたあの柔和な表情のなかに時折交じらせる厳しさを見せるお顔が忘れられません。
この七月二十五日は、そんな先生の三回忌にあたります。今回、道草に光りがあたったのは、先生から不肖の弟子への心配と励ましであるように思えてなりません。
どうぞ、皆さま本学会の活動にご注目くださいましたら幸いです。また、早川和男先生のご功績について末永くお心にとどめて頂けましたら幸甚に存じます。
そして、よろしければ著者の最新刊などもお手にとって頂けましたらこれに勝る喜びはありません。<(_ _)>(本書の献辞に早川和男先生のお名前を戴いております)
※本研究は、九州大学に提出した博士論文がもととなっております。長年にわたりご指導くださり、時にくじけそうになる私を励ましながら最後まで見守ってくださった、南博文教授にここに深く感謝申し上げます。南先生からは今も陰に日向に大きなお力添えを頂いております。また、南先生からの推薦により赴任しました立命館大学において、まだまだ未熟であったポスドクの私を大きく飛躍させてくださいましたサトウタツヤ先生(総合心理学部教授)に深く感謝申し上げます。