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『中国の死神』 読書感想文

日本は妖怪大国として様々な妖怪や怪異が暮らしている。
アニメなどでおなじみ水木しげるのゲゲゲの鬼太郎をはじめ、遠野物語等の伝承や寺社仏閣などにも髪として祀られることもある、近年だとアマビエ等も街に繰り出してよろしくやっていたし、妖怪は身近な存在だ。

さて中国にはなんとも言えない死神がいる、『無常』と呼ばれる死神も日本の妖怪と同じ様に中国の地元民に愛され独自の信仰が形成されている。
背の高い帽子に口から伸びる長い舌、道教の神のような古代中国の役人のような衣装。、中国の廟と呼ばれる社のような場所に鎮座し、地元民が作ったのかどこか間抜けで愛らしいフォルム。
この本は『無常』という謎の死神に魅せられた大谷 亨氏こと通称無常くんが長年にわたり中国で採集した様々な無常の形態と民俗学的見地とフィールドワークを用いて調べ上げた無常の系統的な考察で構成されている。

民俗学的というとちょっと難しいかと思われるかもしれないが案外そんなことはない。
無常くん持ち前のウィットに富んだユーモアと、無常採集で立ち寄った中国辺境の珍旅日記などで箸休めも多く挿入されている、特に無常くんの無常蒐集に影響を与えたと思われる原体験的エピソード「ウルトラマンの卵」、この文章が前書きに添えられていることで、この本が単なる小難しい中国の民俗学的研究書と一線を画す一冊となっている。
「ウルトラマンの卵」はもはや無常くんの挨拶ジャブパンチでよく披露している滑らない話なのだが、如何に彼がこの幼少期の体験で中国のいい加減さと脅威を受けたのか想像に難くない。
さてそんなぶっ飛んだ「ウルトラマンの卵」で頭がほぐれたところで、はてさて無常とは何なのかから、中国のフィールドワークの方法や装備等が説明される。
特にこのフィールドワークの方法や装備の説明は無常に限らず、様々なものの採集フィールドワークにも応用できるので一読してほしい。

さて無常くんの旅は台湾の白無常黒無常のコンビを採集し、そこで見つけた3人目のちびの黒無常を見つけたことから福建省に飛び、数々の廟や伝承を採集する、片方の靴の脱げたシンデレラ無常、白黒で対で祀られない無常、東南アジアで花開く独自の信仰形態。
そして様々な無常と触れ合うことを経由してある仮説にたどり着く。
実体験に基づく旅の軌跡を挟むことで難解な民間信仰の研究書で終わらせること無く、一冊の民俗学的ミステリーとも言えるようなハラハラドキドキの体験を提供してくれること請け合いだ。
もちろん中国の妖怪本としても楽しめるし土着宗教の研究本としても楽しく読めるゾ。
超オススメッ!


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