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資本主義のサブ宗教 vs 天国に富を積む無能な私

今週は、うでパスタが書く。

全然儲からない」とネットでぼやいているところを客に見られてしまった。
おかしいな、あいつのところにはあんなに払っているのに…と思われたことだろう。つまり私はいま客から受注した仕事をほぼそのまま後輩の会社へ流している。そうすると手もとにはいくらも残らないというわけだ。

私は自分自身、こうした行為を憎んでいる。
業界では「多重下請け構造」という。「あたま」とか「フロント」とかいうポジションをとる会社が客にカッコいいことを言って受注をすると、自分のところでは実際にはものは作らず下請けへの再発注を差配する。
下請けには下請けで競争入札に突っ込んでいくだけの資格や体力がないとかリスクがとれないとかで、親玉にあたる元請けに食らいついて仕事をもらう方が安全だという事情がある。だからあまり多くない元請け企業の下に無数の下請け企業が層をなす巨大なピラミッド構造ができあがる。

このピラミッド構造は、上へいくほど実際にものをつくるひとはいなくなり、そのくせ給料は高くなっていくという特徴を持っている。システム開発の仕事が飲食や土木・建築現場、長距離運転の現場とならんでブラックだと言われるようになった理由のひとつはここにある。いちばん給料の少ないレイヤーにいちばん多くの労働者が属しているからだ。
これだけ読んでもやはりつまらない話なのであまり小説にもならないし、小説を書けるひとがやる仕事でもないということなのかもしれないが、同じブラックでも銀行や証券会社の壮絶な職場事情が世で赤裸々に語られるのに比べ、こうした業界の話は知らないひとには遠い世界のままだ。

そこへくると近年の例外は「ビッグデータ・コネクト」(藤井太洋/文春文庫)。ハッキング事件で逮捕・拘留されたオタク、国民のデータを統合的に管理する政府のデータベースシステム、民間企業と共有されるIDなど、どこかで聞いたIT周りの話題をまとめあげたサスペンスだが、本当に面白いのは主人公が京都府警をともなって事件の渦中にある開発会社へ乗り込む場面だ。

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