悪魔の子/神の掟とオメルタ|weekly
今週は、うでパスタが書く。
そろそろ片付けなければならない話がある。
映画の話をすると「『ゴッドファーザー』が好き」とかいうのが必ずひとりやふたりは混ざってくるが、正直「大丈夫なのか?」という感じだ。
こういう手合いに映画のあらすじを尋ねると、彼らは「マイケルが初めて人殺しするところが好き」とかいうように、なぜかそろって自分の好きなシーンを答える。
こちらはあらすじを訊いているのに、だ。
あるいはまたこういうひとたちは、「どれがいちばん好き?」と訊くとまず間違いなく「IIが好き」だと答える。
それは「PARTII」がアカデミー賞を受賞しており、続編が前作を凌駕した希有な例だと古来称えられているからにすぎない。つまりこれが「テストでマルのもらえる正しい回答」だと知っているからだ。
しかし、繰り返すが彼らは「PARTII」のあらすじもまた覚えていない。
「『II』どんな話だっけ?」と訊くと、「フレドが死ぬシーンが好き」などとまた自分の好きなシーンを答えるだろう。
私は別にオタクではないので深追いしないが、悪いオタクにでも捕まったら彼らはいったいどう言い逃れするつもりなのだろうか。分からない。おそらくはセックスの話でもしてオタクのマウントをとるのだろうな。
責めようというのではなく、ことほどさように「ゴッドファーザー」を観ている、あるいは好きだというひとのなかにすら、この三部作の筋をいま説明しろと言われてできるひとはまずいないのだ。
たとえば極端な話、「間違えたら爆破する」と脅されて言える第一作「ゴッドファーザー」のごく安パイなあらすじとは以下のようなものであろう。
ニューヨークのマフィア・コルレーネファミリーのドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)が銃撃され、長男のソニーが殺害される。三男のマイケル(アル・パチーノ)は父の跡目を継いで復讐を遂げる。
流れは押さえているので四〇点ぐらいではないか。もちろん爆破はない。
だがもっと細かく、二〇〇文字ぐらい使って説明しろと言われるとほとんどのひとが爆破されるはずだ。
誰もちゃんとあらすじを覚えていないのだ。
にもかかわらず魅せる、記憶にとどまるというのはもちろん素晴らしいことなのだが、「アル・パチーノがレストランでひとを殺すシーンが好き」とかはただ好きなシーンを言っているだけなので爆破だ。だいたい「好きだ」というが、そのときアル・パチーノがなぜ、誰を殺したのかを説明できるだろうか。できなければこの場合はやはり爆破になる。
この現象は「ゴッドファーザーPARTII」に話がおよぶとさらに劇的な展開を見せることになるだろう。
若き日の父・ビトが力をつけ、のし上がった様子を織り交ぜながら、ファミリーを率いるようになった当代ドン・マイケルの孤独な戦いと苦悩を描く。
これはもうあらすじではなくTSUTAYAの店員が書く説明に過ぎない。
だがだいたいのひとが筋道だって説明できるのはこれぐらいまでだと思う。二〇点。
そしてシリーズを締めくくる完結編「PARTIII」。
マイケルは死ぬ。
この、誰もまったく内容を覚えていない「ゴッドファーザーPARTIII」が今日のお話の主題だ。
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