BiblioTALK de KINOKO vol.0034のお知らせ|2022-06-11
この告知は、うでパスタが書く。
異例の早さだが、六月も十日を過ぎたばかりのこのタイミングで今月のYouTubeLIVE配信について告知を差し上げる。
来る2023年6月16日(金)20時ごろより、九段下の私設図書室ビブリオテーク・ド・キノコから当マガジン「九段下パルチザン」のYouTubeLIVEをお届けする予定だ。
配信はいつもの通り、有料購読者向けの限定配信で、配信URLはこのノートの末尾、有料部分に記載されている。「限定配信」といっても、そのURLが流出してしまえば誰でも見られてしまうためそのあたりにはご配慮を願って、告知にご協力をいただけるという場合にはいまお読みのノートをシェアしていただくようご協力をお願いする。
配信中は、noteの「サポート」機能を使ったコメントやご質問・リクエストなどにお応えしている。これはnoteの仕様上、投げ銭と同時に行うことになるので実質有料である。最近はもうインターネットというより町会で回ってくる回覧板といった風情でいつもの顔ぶれがハンコを捺してくれている状態だが、だからと言って私たちの感謝の気持ちにはいささかなりとも変わるところがない。
他方、何らかの理由で他の方法をお探しの方には質問箱を開設しているのであわせてご利用いただきたい。
最近の私たちは「オフ」で誰かと飲みに行ったり、キノコさんの娘さん方のバレエの発表会へ私が寄せていただいたりと、いつになく頻繁に顔をあわせているが、特にどうということもない。強いて言えばその弾みで今月は早めにこの配信日程を相談できた、という程度だ。キノコさんは相変わらず忙しそう、私は何もしていないのに疲れている。
ネットでは相変わらず「こどもは作った方がいいのか、よくないのか」が議論されているが、まぁ結論は出ないし無理に出すこともないだろう。私自身もいろいろと思いはめぐるが、最新の実感でいくと
「この年齢になるとどうしても襲いかかってくる虚無感、“人生とは結局灰から灰に、塵から塵に還るものであり、この先どんな努力や忍耐を重ねてももう実りある時間などやってこないのではないか?”という恐怖に、こどもがなくして一体どう立ち向かえばよいのか」
といったところが正解のように思われる。
ところがもちろんこの虚無感自体がそもそも子育てに時間と労力を干されてしまった結果もたらされたものであるのかもしれず、誰もがどちらかの立場で当事者たることを避けられないこの問題について万人の納得がいく答えを説くことのできるひとはいないだろう。
こどもを持たず、結婚すらせず、それでいて毎晩穏やかな眠りに就いて清々しい朝を迎えているというひとがいれば、それはそれで羨ましいのが正直な気持ちだ。もしかしたらそのために時刻表や遊郭建築、牛肉の火入れ、プラモデル、いくつもの一円玉をバランスさせる芸当、レゴなどを通じてこの世界の微視的なディテールに没入していったり、メルセデスやパテックフィリップなどの物質的な美しさに耽溺したりするのが効くのかもしれない。そういった逃げ場が私にはない、というのもたしかにある。
もちろんだからこどもをもうけたというわけではないのだが、子育てによっていくつかの可能性があらかじめ無理になっていることで、逆に助かっているということはあるのかもしれない。たとえば単に歳をとったり安定した結婚生活を営んだりしていることによって「恋愛する必要がなくなった」と感じてホッとしているひとは少なくないのではないかと思う。幸せは、手に入らない幸せですら、人生を食う。ある種の幸せを追いかけずに済むことで、私の人生はまだ人生のかたちを残しているのかもしれないという仮説は成り立つ。
ある種の界隈では人口に膾炙するようになって久しい「メスガキ」とか、あるいは海外では「ドーターマミーワイフ」とかいう概念があって、そこにポジティブな斬新さを見出してしまう私たち男性の仕方なさには皮肉な意味で苦笑してしまうのだが、私自身はやはりこどもを育てている身としてそういうカルチャーや、あるいはタームそのものに対して普段は言及することすら許されないと厳にみずからを戒めるものだ。たとえばもっと厳しい例ではかつて娘さんふたりを育てていた社員は夫婦ともに重度のオタクであるにもかかわらず、奥様から「けいおん!」を視聴することすら禁止されていたということがある。
成人の既婚率が高く、社会として出生率が充分であった時代にはこの国でも多くの人間に子がいたり幼い甥や姪がいたりして、「自分はこどもに優しくなければならない」という意識が結果的にひろく共有されていたのかもしれない。いま未婚率が急激に上昇し、出生率の低下以上に自身がこどもを持たないひとの割合が高まるなかで、もともと共有しうるひとたちだけが共有していた「良識」を訴えるのはその「良識」とやらを持ちうる境遇にある者たちの思い上がりだと言われると、そこから先はもう喧嘩にしかならない。
ひとに自分の人生がどのように見えているかが、そのひとが世界をどのように扱うかを規定する。良きにつけ悪しきにつけ、マジョリティがメルトダウンするときに生じる社会のダイナミクスはそれ自体が安全性の低下を意味するのであって、いままさに滑り落ちるマジョリティが自分たちの「良識」を叫ぶことには何の意味もない。つまり私たちは、敗れつつあるのだ。
こどもの安全を守ることや若者の未来に道をつけることをめぐる議論は日本社会の人口動態に影響を受け、その結果として当分は前進がないと私は思う。「少子化を国民ひとりひとりが問題として受け止める必要はない」「結婚しない自由、子供を持たない自由がある」のはどちらも賛成だが、同時にいま私たちが突きつけられている問題の多くもまたこうした思想・風潮から生じているのは間違いあるまい。日本の国民は遠からずここではっきり分断されていくことになるという気がする。保守派はこれをリベラルのせいだと言うだろう。私はそれを認めよう。私たちに残された仕事は、リベラリズムの上に安全な社会を再建する道筋をつけることだ。
こんなに読み応えのあるノートを今回は無料で公開してしまったが、YouTubeLIVEのURLは以下の有料部分に記載されている。
(うでパスタ)
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