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回想・ガスト・環状7号。|weekly vol.079

今週は、うでパスタが書く。
まぁ「今週は、」と言うが本来は先週の分だ。

前回は自動車の話をした。
「東京に暮らしていればクルマなんか要りませんよ」が常套句の東京にお住まいであれば、あまり縁のない世界の話かもしれない。ずっとずっと昔、遙か彼方の銀河系の話だ。

古くは「鉄は産業のコメ」などと言ったようだが、自動車産業はいまも日本の屋台骨だ。
溝口敦に「パチンコ『30兆円の闇』」という報告があって、これはパチンコ産業の規模が年間でおよそ30兆円、当時の自動車産業とおなじぐらいなんだという、こういうことから書き起こされていたはずだが、これだけ「クルマ離れ」みたいなことが言われるなか、いまでも日本の自動車産業は五〇兆円ぐらいの規模があって、これは全産業の十七パーセント以上を占めるということみたいだ。まぁいったい誰がそんなにクルマを買っているんだという気がするひともいるかもしれないし、「田舎へいけばひとり一台なんでしょ」と、その「田舎」の規模を計算せずに漠然と受けいれているひともいるかもしれない。正直にいえばまぁ、海外で売っているのが大きいのではないかと思うが。

しかしいずれにしたって電気自動車だ燃料電池だ、果ては自動運転だと言っているあいだに自動車産業の表舞台から日本のメーカーがずるずると消えていったとするならば、あと日本に残るのは「アニメとFXとウォシュレットだけ」というのがかねてからの持論なのだけれど、ここには「全員分の仕事はない」というインプリケーションがあるし、FXはレバレッジも規制されてアマチュアには稼ぎにくく、それ以前に年金の運用方針も微妙じゃ…という話があっていよいよ大きな声では言えなくなってきた。

ただ、実際に私の元同僚のなかでも割合立派に経営をされている方などは「この先自動車が終わりになれば、日本はオタクだけの国になるでしょう」と言い残し、幼い娘二人に教育を施す目的でニューヨークへ移住してしまった。そのアメリカですら、「小学校へ入ったばかりの子どものうち四〇パーセントは大学を卒業したあと、『現在はまだ存在しない職種』に就く」というような予測もあるらしく、日本どうなるとかというレベルにとどまらずもう「何も分からない」という感じだ。この不確実性を生きるためには、というテーマはキノコさんがこのマガジンで何度も触れているのでぜひ過去のnoteをディグってみてほしい。

最近わけあって引っ越しをし、ふつうは便利なところへ引っ越すのだろうが、引っ越したことによって毎日のように車を運転するハメになっている。
わけもなく私は運転が非常に下手であり、事故を起こすたびに相手は止まっていて一〇〇パーセントの過失を背負っているということは拙著「新宿メロドラマ」所収の「回想・積車・環状6号」に書いた。

まったく自慢にならないというか、迷惑極まりない最期の事故(最初のもそう)から十一年、今度は目が悪くなってきたというか、単に近視が強くなったのであれば矯正すればいいわけだが、どうも夜目が利かなくなって雨天・夜間に車線の消えた都内を走るのが本当に怖くなってきている。これはもう自動運転まったなしだな、と思うこともある。だが自宅が戸建ではないので充電が必要なテスラを保有するのはどうやら難しそうだ。
このように最近はどこをどうたどっても、結局「ダメ」という答えにいきつく。五〇ぐらいでクビをくくった男性を何人か知っているが、「なるほどこういうことか」という感じだ。

「狭小邸宅」に、「俺は駒沢通りを使う奴で売れた奴を知らない」というセリフが出てくる。不動産の営業マンが客を案内するなら周囲の地理を知悉しろ、裏道をドライブして「このひとはこの地域のことを本当によく知っている」と客に思わせろ、という課長のいわば愛の鞭だ。
私は毎日の子のお送り迎えに環状七号線という大動脈を使っている。

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