裸の文明/ネイチャー・アイソレイテッド|weekly
今週は、うでパスタが書く。
このnoteを実は最近では二週間ぐらい前に仕込むようになっているので、あなたがこの文章を読む頃には、もう人類の帰趨は決しているかもしれない。
あるいはこの原稿は脱稿後に予約投稿をしておくから、あなたがこれを読んでいる時、もし私がすでにこの世を去っていたら、私のためにいちどだけシンディ・ローパーの“Time After Time”をかけてほしい。
死んだ仲間に「何かかけてやれよ」と言えば、それは普通、亡骸をブランケットで覆ってやれという意味だが「音楽をかけてやれ」という意味でショーケンがそう言うのは、「いつかギラギラする日」。一箇所だけ時代感がバキバキに出ていてダサいシーンがあるのだが、それを除けば最初から最後まで粋なセリフの散りばめられた名作だ。監督はもちろん深作欣二です。
なお、私の遺作となった書籍版「新宿メロドラマ」は最後の八十四部が通販プラットフォームのBOOTHに収まっている。もちろん最近では貴重になった紙の三百ページだからぜひパニック・バイしてトイレに積んでもらいたい。どこかでお目にかかれば僭越ながらサインもさせていただくつもりだ。
「巣ごもり需要」ということが言われて、唐突に訪れたこのソーシャル・ディスタンシング、自主隔離や行動制限のエラにおいて売れているもの。
在宅勤務用のPC、オフィス・チェア(もちろん家で使う)、ちょっとした家庭用品、ビデオチャットやグループウェアなどのサービス、生鮮食品の宅配、そしてNetflixとDisney+といったコンテンツ配信サービスだ。こういうのは使い始めるともとには戻れないものだから、ワーク・フロム・ホームもそうだし様々なコンテンツの受容形態も一気に変容することだろう。宅配についてはもし興味があれば下記のアフィリエイト・リンクから試してもらって一向に構わない。
まぁただ、Amazonもアメリカでは生鮮食品の配送が追いつかなくてストップしてたり、大変みたいですね。
アメリカではいわゆる「ロックダウン」、すなわち必要火急(essential)の職業以外はみんな職場へも行かず家にいろという外出禁止令のもとで、スティーブン・ソダーバーグ監督の「コンテイジョン」がめちゃくちゃ観られているという話がある。これはそのまんまアメリカで致死性のヴァイラスが突如蔓延して社会を崩壊の危機に追いやるという話だ。
「自然は芸術を模倣する」といえば大袈裟だが、当時は「ふぇ〜」と思って観ていた感染症のあれやこれやが、このたった数ヶ月のあいだに我々にとってすら当たり前のことになっているというのにはいまさらながらやはり驚く。
なお私はそもそもこのヴァイラスをアメリカへ持ち込んだのがグウィネス・パルトロウ演じる人妻であり、海外出張の帰りに香港で不倫相手と飯を食った際に握手したシェフから感染していたというオチに対していまでも心の底から憤っており、「感染者を責めてはいけない」という世の流れからは完全に逸脱している。
「世界がオワになる」映画はやはり映画である以上、最後には希望と再生が描かれなければならない。「パンドラの箱」が教えているのは女性の好奇心が手に負えないということではなく、希望が人類のもとを去ることは決してないということだ。
ヴァイラスではないが近似の情報生命体としていわゆるシンギュラリティを迎えたAIによる人類世界の破壊を描いた近年の映画に「トランセンデンス」がある。この映画のラストはいま我々の知る情報ネットワークが失われたあとの世界に人類再興の芽を吹かせている。「情報ネットワークが失われた」と言ったってたった三十年ぐらい前の環境へ戻るだけなのに、まるで西部開拓時代にでも戻ったかのような無力感と、奇妙な清々しさが残る最後だ。映画自体はまったく評価に値しないが三百円はこのnoteとおなじなので、ご覧になりたければ下のアフィリエイト・リンクを使っていただいても我々の方では別に構わない。
「情報生命体」というわけのわからないタームをそれとなく折り込んだが、ヴァイラスというのは「代謝をしない」という意味ではいわゆる生物一般とは違うし、遺伝子が殻に包まれただけの、一部読者のために敢えていえば「コード・イン・ザ・シェル」であり、危険を承知で踏み込めばその本質はやはり情報だ。さらに余計なことを言うなら、私はWikipediaの「ウイルス」のページにある「生物学的存在」という用語が気に入っている。「生物的存在」つまり「生物のようなもの」ではなく「生物学が取り扱う範囲に属するもの」というネクラな定義の仕方が非常によい。
伝染し、複製されて拡散し、変異して捕獲もできなければ回収もできないというのもやはりネットワークで伝達される情報に似た性質で、しかしこれは何も私が言っているだけではなく、いまふたたび脚光を浴びるゲーム「Plague inc.」はヴァイラスを開発して世界に広め人類を滅ぼすというそのゲームの基本線に沿ったかたちで「フェイクニュース」を世界に広めるヴァリエーションをすでに公開している。ニュース、イズ、ヴァイラスというわけだ。
ここから先は
¥ 300
九段下・Biblioteque de KINOKOはみなさんのご支援で成り立っているわけではなく、私たちの血のにじむような労働によってその費用がまかなわれています。サポートをよろしくお願いいたします。