稲垣憲治『地域新電力』を読む
気候変動対策が叫ばれて久しい。
それでも、思うように対策が進んでいない現状に危機感を抱くひとも多いだろう。
そんな危機感を胸に、自分からできることは何かを考えている人は多い。
それと同時に、個人ではなく社会も変わらないといけないと考えるひとも多い。個人的な消費などを通じての気候変動対策は、焼石に水どころか、二酸化炭素を排出する人の責任を覆い隠している
しかし、この本を読めば、そのジレンマがかなり解消されるように思う。世界とか国とかではなく、それぞれの地域レベルで新電力を行う。その道のりが示されるのが本書だ。地域レベルで考えれば、個人の持つ相対的な力は大きくなる。つまり、世界レベルの危機に対して流れに身を任せるのではなく、自分の所属する自治体や企業を動かせば、かなりの程度気候変動対策に漕ぎ着けられるのだ。
そして本書の提示する地域新電力の魅力はそれにとどまらない。筆者は6つの利点を挙げる。
・地域経済循環
・地域脱炭素
・地域課題の解決
・レジリエンス
・地域ブランディング
つまり、気候変動対策だけでなく、東京一極集中と地域の過疎化にも大きな解決の糸口を見出せる。(本稿ではあえて箇条書きに留めた。具体的な内容を知りたい方はぜひ本書を手に取って読んでいただきたい。)
本書の魅力はやはり「現実的」な点にある。両手を挙げて再エネを説くのではなく、その過程で生じる問題を統計やケーススタディを通じて実証的に再エネの進むべき道を提示する。とくに、せっかくの新電力も、今は従業員ゼロ形態、つまり実質的な運営は地域外が運営してしまっていることを指摘する箇所が印象的だった。再エネが直面する問題をも直視しながら、私たちは再エネ普及のためのビジョンを明確にすることができる
本稿ではあまり踏み込まれていなかった点にも付記しておきたい。それは、その土地の住民の意思決定や、協働での運営についてだ。会社や自治体がトップダウンで運営をしてしまっては、それはあまりに非民主主義的である。もちろん高い専門性が求められる再エネ普及ではあるが、そこにもっと民主主義とはなにか、一般の人たちにとっても身近な再エネ政策とは何かが問われていい。そうすれば、地域に根付いた新電力が増えるに違いない。