いっぱい読書したい人

小説とか。絵画も音楽も、アートの全てを愛したい。推しは、#村田沙耶香 #川谷絵音 など。フォローされると喜びます。記事にはネタバレ含みます。

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書評 三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

イギリスの「週休3日」法案が話題となっている。 よほどワーカホリックな人間でない限り、この法案が日本でも実現してほしいと願う人は多いと思う。上記事では、5割が収入を上げたというデータもある。 資本主義の「全身全霊」の働き方をやめよう。 本書では「読書」というものを通じて、このように主張される。 歴史的に「読書」がどのように受容されてきたのか。労働社会学などの知見を大いに援用しながら、全身全霊ではなく「半身」で働く社会を目指すための本である。 なお本稿は書評という銘打っ

    • 村上春樹の描く空白 『ドライブ・マイ・カー』

      村上春樹の「キモさ」が最近のトレンドだ。 まあそのような話があったから、村上作品のキモさをのぞいてみようと思って、『ドライブ・マイ・カー』が収録された『女のいない男たち』を手に取った。 短編集だから、村上春樹のエッセンスはつまめるだろうと。 記憶の彼方にある『ノルウェイの森』以来、10年ぶりの村上春樹だから、そういう意味でも楽しみだった。 そして、私の心を打ち抜いたのは、キモさという点においてでは全くなく、『ドライブ・マイ・カー』の空白の作り方、そして挑戦的な構成である。

      • 多様性への希望を絶やさない。朝井リョウ『生殖記』

        ネタバレ含みます。 👇 「多様性」に切り込む朝井 「LGBTは生産性がない」一昔前、自民党議員によるこんな発言が問題になった。以下記事を参照されたい。 朝井が『生殖記』を書くとき、この発言が頭にあったに違いない。いや、他の発言かもしれない。そんな発言が、こと日本においては多すぎる。 本書『生殖記』は、そんな「生産性がない」という差別に真っ向から批判する本である。そして、本書の特徴はなんといっても、同性愛者である「個体」についた男性器が語り手であるという仕掛けだ。その仕掛

        • 稲垣憲治『地域新電力』を読む

          気候変動対策が叫ばれて久しい。 それでも、思うように対策が進んでいない現状に危機感を抱くひとも多いだろう。 そんな危機感を胸に、自分からできることは何かを考えている人は多い。 それと同時に、個人ではなく社会も変わらないといけないと考えるひとも多い。個人的な消費などを通じての気候変動対策は、焼石に水どころか、二酸化炭素を排出する人の責任を覆い隠している しかし、この本を読めば、そのジレンマがかなり解消されるように思う。世界とか国とかではなく、それぞれの地域レベルで新電力を行

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        書評 三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

          『生きることは頼ること』(戸谷洋志)から社会保障を考える

          こども食堂と自己責任論 こども食堂が、全国的な展開を見せて久しい。なぜこれほどまでに子ども食堂が増加したのか。「それを求める子供がいるから」という理由は当然として、もうひとつ、自己責任論を回避しやすいという事情がある。 貧困対策として、非正規への社会保障を充実させるのは、自己責任論との折り合いが悪い。だからこそ、まだ子供で、自分の環境をどうすることもできない層にのみ、食事や居場所を提供することが推奨されたといえる。 傷ついた他者としての非正規労働者たち。不安定雇用の人

          『生きることは頼ること』(戸谷洋志)から社会保障を考える

          みんなにおすすめしたい『恋愛ってなんだろう?』大森美佐 著

          Youtubeを見ると、マッチングアプリの広告しか出なくなってしまった。 20代半ばの若者の広告なんて、そんなものなのだろうか。 正直、気持ちのいいものではない。 恋愛をしたいという気持ちはある。だけど、恋愛というのは自分のタイミング・出会い方で始めたい。 それにも拘らず、無理やり「恋愛せよ」と言われて恋愛テクニックを習得しようとしても、ますます恋愛が楽しめなくなる・・・。 世の中で「これがよい」とされている恋愛について、違和感を感じている人は少なくないと思う。 少しでも

          みんなにおすすめしたい『恋愛ってなんだろう?』大森美佐 著

          辻村深月『盲目的な恋と友情』をよんで

          ※ネタバレ含みます。 辻村作品を読むのは、4作目だ。『傲慢と善良』を読んで、すっかりファンなってしまった。 これまで読んだ作品に共通するのは、一つの出来事を複数の視点から描き切ることだ。そして、一人一人の感情をこれでもかというほど、深く描き切ることも共通する。この2つの要素が合わさって、辻村作品は完成し、我々を驚かせる。 という話は辻村ファンからよく聞く話で、私も大いに共感する。それを求めて辻村作品をいつも手に取る。 そして私はここで一つ、危ういけれども魅力的な点を挙げ

          辻村深月『盲目的な恋と友情』をよんで

          恋愛のありかたは可変的である:村田沙耶香『消滅世界』を読んで

          不倫という言葉について考え続けている。 それは、某アーティストが某タレントと不倫をしたときからだ。私の推しであったそのアーティストが社会で干されたとき、高校生だった私はなんとしてでも擁護したかったのだと思う。推しへの肩入れがあった。 しかし、そのアーティストの妻がどれほど傷ついたかについて考えたことがなかった。浅はかだったとしかいいようがない。 しかし、「不倫はよくなかった」で済ませていい問題なのだろうか?もちろん、不倫はよくないと言わざるをえない場合もある。現代日本では

          恋愛のありかたは可変的である:村田沙耶香『消滅世界』を読んで

          セミを食べても、人を殺してはならない:村田沙耶香『殺人出産』を読む

          村田沙耶香の小説について書くのは2度目である。 コンビニ人間という刺激的な本を読んで以降、村田作品の虜になっている。 本作始め、村田作品では、「性」が一大テーマとして扱われているが、本稿では少し違った角度からこの作品を読んでみたい。 セミがこの物語で果たした役割についてである。 ※ネタバレ含みます。 「殺人出産」が合法の世界 本作は、10人産めば1人殺せるという「殺人出産」が合法の世界が舞台の小説である。10人産むことを決意した人間は「産み人」と呼ばれる。 その世界で

          セミを食べても、人を殺してはならない:村田沙耶香『殺人出産』を読む

          『桐島部活やめるってよ』から考える青春

          この小説を読んで私が最初に考えたのは、「ああ、もっとマシな青春を送れたな」ということだ。本書の裏の主人公である桐島には一切触れない記事になるが、ご容赦ください。 ※ネタバレ含みます マシな青春をおくりたかった 「マシな青春」というのは、恋愛に明け暮れる陽キャとして奮闘するのでない青春だ。 自分の好きなものを夢中で追いかける。そこで人の目を気にしない。そんな青春を送りたかった。 大学生になって分かったが、高校で恥ずかしい思いをしたり、友人の顔色を伺うことに失敗したりして

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          日野は何を残したか: 今村夏子『むらさきのスカートの女』を読んで

          『むらさきのスカートの女』朝日文庫版(以後『むらさき』)の解釈はかなり割れているようだ。それもそのはず、この小説はどこに着目するかで、どうにでも解釈できる。私も、いくつかの解釈が浮かんだ。 そうして思いついたものの中でも、「むらさきのスカートの女」・日野は裏の世界から迷い込んだという説を提示したい。この解釈はかなり恣意的なもののように思われるが、こうすることで全てがつながってみえるようになる。 また、本稿では、日野が権藤にどんな影響を残して去っていったのかという点について

          日野は何を残したか: 今村夏子『むらさきのスカートの女』を読んで

          「理由のない物語」?:朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』を読んで

          こちらの記事は、ややネタバレを含むので、ご注意ください。 さっそくだが、本作のあとがきを引用しようと思う。 それゆえに、朝井氏は理由もなく人や世界を描いた本作を、「オアシス」として位置付ける。 確かに、「多様性」を取り巻く問題を正面から問うた『正欲』や、就職を問うた『何者』に比べれば、現代社会を風刺するという、社会批判といった朝井作品にある背景・理由は影を潜めているように思われる。 ただ、私に取ってはこの「あとがき」は意外だった。 私は、それぞれの物語に社会批判をしたい

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          アーティストの「価値」の測り方:尾崎世界観『転の声』を読んで

          アーティストを取り巻く現実は、決して甘くないのだろう。 芥川賞候補作にもなった本作・尾崎世界観『転の声』は、従来の声が出にくくなってもなお、売れたいというバンドの以内が主人公の物語だ。 声が出にくくなれば、当然不安にも駆られる。 そんな不安に漬け込んでくる、チケットの転売。 『転の声』の世界では、チケットの転売が市民権を得ている。 それだけではない。 転売を通じて高騰するチケット価格を「プレミア」として、そのままアーティストの価値みなすような感覚が強く根付いた世界線でもあ

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          「多様性」概念は捨て去るべきか?: 朝井リョウ『正欲』を國分功一郎『暇と退屈の倫理学』から読む

          朝井リョウ『正欲』については、以前も書かせてもらったことがある。多様性というものが、目障りなものに思われたとしても、決して捨て去るべきでないと言うことを書いた。また、作中でマイノリティーどうしだけでなく、マジョリティーとのつながりが描かれていたが、そのどちらも大事であると書いた。もしよければ以下のリンクを参照していただきたい。 本稿では、別の観点から、「多様性」という言葉を擁護したい。やはり朝井リョウ氏の文章は、多様性と言う概念が問題含みなものになる危険があっても悲観しない

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          indigo la Endと夜:カツセマサヒコ『夜行秘密』を読んで

          危険な香りの漂う二次創作小説 私は川谷絵音率いるindigo la Endが大好きだ。聞かない日はないし、趣味のカラオケでもindigo la Endばかりを歌っている。もちろんキーが高過ぎるから、カラオケでうまく歌えず、DAMにはいつも渋い採点をされる。ただ、そのひどい有様を点数の形で見せつけられるたびに、川谷絵音のボーカリストとしての凄さを実感するのだ。仙台でのライブ開催があれば、必ず駆けつける。それくらいのめりこんでいる。 アルバム「夜行秘密」は、ファンを自認する私

          indigo la Endと夜:カツセマサヒコ『夜行秘密』を読んで

          縦と横に繋がる:朝井リョウ『正欲』を読んで

          性欲は社会的に「正しいもの」と「正しくないもの」の線引きがなされている。そして「正しくないもの」、社会の中で異常と見做される性癖を持つ人間は、社会から奇異の目で見られる。そして本作は、性欲のうち、「正欲」を持たず自分だけの性欲を抱える人間や、そのような人間を社会正義の名の下に正常化させようと意気込む人間が縦横無尽に描かれている。現代社会で悩みを抱えて生きる人間模様を描き切る朝井氏には毎度驚かされる。もはや朝井氏は現代の夏目漱石といっても過言ではない気がする。夏目漱石の『吾輩は

          縦と横に繋がる:朝井リョウ『正欲』を読んで