ヒトの体内で起こっている自食作用「オートファジー」 (中編) -体内での重要な役割とは?-
こんにちは、ビビです。秋はいろんなイベントがありますね。
特に各地で催されているビールやお肉が食べられるOctoberfest🍺 そして、今週末に開催されているPodcast Weekend 2024 @Shimokitazawa🍀
憧れのPodCasterに会えるかも!? もちろん、今年もサイエントークのレンさんも登場します🎉
さて、3回シリーズでお届けしているオートファジーのお話ですが、中編と後編は体内でオートファジーがどんな役割をしているか、創薬に繋がる可能性もあるのか、などを見ていきます。秋の夜長を楽しんでいただけると嬉しいです🍡
🍽️同じシステムを使って外敵も倒す
前回ご紹介したように、オートファジーは自己成分の分解するシステムですが、これをウイルス、細菌、原虫などの外敵の撃退にも絶妙に応用しているのが生物のすごいところです。このシステムを、「異物」を意味するxenoを使って、ゼノファジー(xenophagy)と言います。
免疫系の重要な細胞であるマクロファージなどの抗原提示細胞は、ウイルス等を貪食してその断片を攻撃部隊であるT細胞に示して攻撃対象を知らせます。貪食とは、抗原提示細胞の表面にあるタンパク質がウイルス等を認識し、細胞膜で窪むように囲い込んでエンドソームを形成して、細胞質(細胞内)へ取り込む機構(エンドサイトーシス)です。取り込んだ後、リソソームまで輸送して、リソソームの持つ分解酵素を利用してペプチドレベルまで分解し、一部をMHC classII と共に細胞表面に提示します(免疫に興味がある方はこちらもどうぞ)。
ところが、ウイルス等の中にはリソソームへの輸送途中で、エンドソームの殻を破って細胞質に逃げ出し、増殖する裏技を身につけたものもいます。こういった場合にゼノファジーが機能し、逃げ出す前のウイルスを穴のあいたエンドソームごと囲い込んでオートファジー様の機構でリソソームまで運んで分解してしまいます。
もともと、リソファジーやマイトファジーなど、損傷した小器官に対するオートファジーの中には、損傷=穴を認識して作動するものもあるので、その機能をウイルスに応用したのかもしれません。一見、大雑把に分解しているように見えるシステムですが、詳細に調べるとよくできていることが分かります。
🍽️全てのヒトが体験する飢餓状態
オートファジーは飢餓状態に置かれた場合に強く誘導されます。”全てのヒトが経験する”過酷な飢餓状態を切り抜けるために、とても重要な役割を担っているようです。
人生最初の飢餓は、受精した直後にやってきます。ヒトの受精卵はトリの卵とは異なり、栄養分を持ち合わせていません。それでも受精から7日くらいかけて分裂を繰り返しながら、子宮内膜に辿り着かなければなりません。その間の細胞の生存、分裂に必要な栄養素をオートファジーを使って獲得しているのではないかという研究成果が東京大学の水嶋研から報告されました。
彼らはマウスの受精卵を使った研究で、受精後4時間以内にオートファジーが非常に活性化することを見出しました。このオートファジーに関わるAtg5遺伝子をノックアウトしたマウスでは、卵子は正常に作られ、受精も正常に行われますが、受精後のオートファジーの活性化が起こらず、着床前に細胞が死んでしまいました。
また、出産前の胎児には、胎盤を介して常時栄養が供給されますが、出産時にこの供給は打ち切られます。出産後、母乳による栄養摂取が行われるまで、新生児は深刻な飢餓に陥ります。マウスの研究では、胎生期にはオートファジーの活性は低いレベルに抑えられていますが、出産直後に様々な組織で亢進し、3〜12時間の間、高いレベルが保持されることがわかりました。そして、出産1〜2日後に通常レベルに戻ります。オートファゴソームの形成に必要なAtg5遺伝子を欠損したマウスでは、ほぼ正常に生まれますが、生後1日以内に死亡してしまいます。
これらの結果は、オートファジーがそれぞれの飢餓状態の中で生死をかけるレベルで大きな役割を担っていることを意味しています。
🍽️老化とオートファジーの関係
これまで見てきた通り、オートファジーは損傷した私たちの体のパーツをタンパク質レベルで修復するために必須の機構です。老化した細胞でこそ、しっかり働いてもらいたいところですが、残念ながらそうはいかないようです。
60歳を超える頃、この機能は急速に低下します。低下の原因の一つは、Rubiconの増加です。Rubiconはオートファジー抑制因子として、大阪大学の吉森研で発見されましたが、老化により発現が増加していることが報告されています。
線虫やショウジョウバエでの研究では、Rubiconを抑制すると寿命が延びます。また、マウスの臓器で抑制すると様々な現象が生じます。例えば、腎臓では加齢に伴う繊維化が軽減したり、神経細胞ではパーキンソン病の原因因子であるαシヌクレインが減少したりすることが分かっています。いずれも、細胞に障害を与えるような不良品のタンパク質をオートファジーを活性化することで排除していると考えられます。
他にも、このRubiconがオートファジーの抑制以外でも老化を促進していることが分かってきました。近年、細胞間のコミュニケーション手段として、細胞がエクソソームと呼ばれる小胞を細胞外に放出していることが知られています。エクソソームは脂質膜で囲まれた球体で、情報伝達のためのタンパク質や核酸を内包した状態で放出され、他の細胞にメールのように送られます。
Rubiconは他の因子と協力して、エンドソームからエクソソームの形成を促進していたのです。そして、Rubiconを介して産生されるエクソソームは、老化促進作用をもつmicroRNAであるmiR-26aとmiR-486aを内包しているとのこと。受け取った細胞の老化まで促すのです。なんと恐るべきRubicon…………😭。本当に余計なことをしないでほしい、と願うのは私だけではないはずです。
🍽️最後に・・・
日本は、オートファジーの分野でも、世界の最先端と言える研究成果を多く輩出しています。その中で、大阪大学の吉森先生は、今までのオートファジーの研究成果をもとに、スタートアップ企業も設立されています。これらの成果が、私たちの健康寿命の延長に繋がることをとても期待しています。
このお話は、ポッドキャスト(サイエンマニア)をもとに書かせていただいています。オートファジー研究をされているたなはるさんとレンさんのトークは研究者ならではの視点もあり、とても興味深いのでぜひ聴いてみてください😆
サイエンマニア
133. オートファジーって何?賢い細胞のリサイクル術⁉︎
134. 断食ではない!正しく学ぶオートファジーの魅力
関連資料他
9. 細胞内侵入性細菌と宿主のオートファジー を介した攻防
10. 疾患から身を守る細胞レベルのシステム
11. 『受精』から『胚盤胞』形成に至るヒト受精卵の初期発生
12. 哺乳類胚発生におけるオートファジーの役割を解明
13. ルビコン増加は老化のサインである
14. 細胞老化を促進するエクソソーム産生メカニズムを解明
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?