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腸内細菌って何がすごい!? 〜前編〜

初めまして、ビビです。このnoteは私にとって初めての投稿になります。拙い文章で恐縮ですが、よろしくお願いいたします!
早速ですが、最近注目されている腸内細菌についてまとめてみました。
前編は、腸内細菌のすごい!ところをお話ししていきますので、最後まで興味を持って読んでいただけましたら嬉しいです。


🦠腸内細菌とは?

今回は腸内細菌についてご紹介したいと思います。
腸内細菌は、文字通り腸内に住んでいる菌です。お花畑のように群生しているので腸内細菌叢(叢:フローラ)とも呼ばれています。善玉菌、悪玉菌、日和見菌といった風に分類され、ざっくり20%、10%、70%が理想的なバランスだと言われています。善玉菌は意外と少なめですね。人間社会と同じでエリートだけではうまく廻らず、環境に合わせてバランスをとってくれる日和見菌や、やんちゃながら偶には良いところを見せてくれる悪玉菌もサポート役として必要なのかもしれません。

腸内細菌叢のバランスは年齢とともに変化しますが、ベースとなるものは3歳くらいまでに確立されます。出産時に通る産道、育児中のボディタッチ、母乳などを通して母親から貰い受けるものの影響が大きいと言われています。

あるコホート研究(集団を追跡して疾患経歴等を取得し、解析する研究)では、帝王切開で出産した小児は腸内細菌叢の発達が遅れ、特にBacteroidaceae菌が欠損しているというデータが報告されています。さらに、炎症性腸疾患、リュウマチ性関節炎、セリアック病、1型糖尿病などを発症しやすいことも分かっています(デンマーク)。

これを解決するため、帝王切開出産児に母親由来の便を移植を試したところ、便移植された小児の細菌叢が経膣出産児とほぼ同等となるとの結果が得られています(フィンランドのヘルシンキ大学)。

小児の腸内細菌叢には膣由来の菌はほとんど存在せず、出産時に母親の腸内細菌に触れるということが、小児の腸内細菌叢の育成に重要なようです(イギリスのバーミンガム大学)。

🦠環境に合わせて進化しているところがすごい!

食生活などの環境も腸内細菌叢に影響を及ぼすことは周知の事実です。

ほとんどの日本人は、紅藻類(海苔)の細胞壁成分(ポルフィラン)を分解し、栄養分にすることができる独特の腸内細菌を持っています。
この分解を担う酵素は、元々、Z. galactanivoransという海洋細菌が持っていたものですが、どこかのタイミングで日本人の腸内細菌であるB. plebeiusに入り込んだのではと言われています(ロスコフ海洋生物研究所(フランス)の研究)。

腸内細菌もただ安穏と腸に住み着いているわけでなく、日本の食生活に合わせて進化しているようです。

🦠アスリートのパフォーマンスにも影響しちゃうなんてすごい!

腸内細菌叢とスポーツの関係はどうでしょうか。

ボストンマラソンの大会後に選手の便を調べたところ、Veillonellaという菌が増えていることが分かりました。この菌は、運動で体内に生じた乳酸を代謝し、自らのエネルギーとする働きを持っています。この菌をマウスに投与したところ、マウスの運動量が増えたという報告もあります(ハーバード大学(アメリカ)の研究)。

また、B. uniformisという菌が同じようなメカニズムで、やはり運動パフォーマンスを向上させているという結果もあります(慶應義塾大学の研究)。

菌が自らの好きな乳酸を人に作ってもらうために運動したい気分になるようなシグナルでも送っているのでしょうか。
他にも、瞬発力の必要なスポーツ選手には、また別の菌が増えるみたいな得意な運動分野によって腸内細菌のバランスが異なるなんてこともあるのかもしれないですね。
ご存知の方もいらしゃるかもしれませんが、元サッカー選手がアスリートの腸内細菌叢を研究するために、スタートアップを立ち上げており、興味深いデータが示されることを期待してしまいます。

🦠ヒトの免疫機能を改善する物質を作っちゃうのもすごい!

腸内細菌叢が免疫とも関わりが深いという研究は、いくつも報告されています。

小腸の表面にあるパイエル板と呼ばれるリンパ組織には、マクロファージ、ヘルパーT細胞など、全身の免疫細胞の50%以上が集まって外敵の侵入を阻止するべく待ち構えています。それは、小腸が腸内細菌や消化途中の食べ物の通り道であり、体内でありながら外部とも繋がっていることで、外敵の侵入口ともなりやすい場所だからです。とはいっても、たくさんの免疫細胞が一気に活性化され、食べ物などにも攻撃を始めてしまうとアレルギー反応が起こってしまいます。
ヘルパーT細胞の仲間である制御性T細胞(Treg)は、過剰な免疫反応を抑制し、腸内に入ってくる食べ物や腸内細菌に対して免疫寛容(異物として攻撃しないようにする)にしてくれます。ところが、腸内細菌叢のバランスが崩れる(disbiosis)とこの免疫寛容がうまく働かなくなり、アレルギーのリスクが上昇します。
ここで登場するのが、Clostridialesという腸内細菌です。この菌は酪酸を作り出すことで制御性T細胞を増殖し、免疫寛容を導いています。この菌に酪酸を多く作ってもらうには、食物繊維をたくさん食べることが重要なようです(理化学研究所の研究)。

少し前、感染時に体温を上げることでウイルスと戦うという、一見よくある生体反応が腸内細菌叢のおかげだったという研究報告がありました。発熱して体温を38℃以上に上げることで腸内細菌叢が活性化し、デオキシコール酸やウルソデオキシコール酸などの二次胆汁酸受容体を産生。これがウイルスの増殖と炎症反応を抑制するというメカニズムです(慶應義塾大学と順天堂大学からの報告)。熱さえ作り出せば、あとは腸内細菌がウイルスを撃退するための物質を作ってくれるという連携プレーです。

また、クローン病(消化管における自己免疫疾患)の研究では、患者さんの腸内では特定のE. coli(大腸菌)が増加することがわかっています。このE. coliが持つ酵素(ホスホリパーゼA)は、ホスファチジルセリンをLysoPSに変換することで最終的にマクロファージや樹状細胞を活性化することで、消化管の炎症を重症化させてしまいます(大阪大学からの報告)。

腸内細菌が生産する物質が、免疫反応を抑制したり、活性化したりする作用をもち、これにより疾患を改善したり、悪化したりするというのはなんとも驚きですね。

🦠もしかしたら、あなたの性格にも関与しているかも!

その他、腸内細菌叢のバランスが性格に影響を及ぼす可能性を示唆する研究成果もいくつか報告されています。

臆病なマウスと活発なマウスを5センチほどの台の上に乗せ、飛び降りる”勇気”を測定しました。もちろん、活発なマウスはあっという間に飛び降りて、臆病なマウスはなかなか降りることができません。ところが、この両者の腸内細菌をお互い移植すると、”勇気”の度合いが逆になったのです。腸内細菌叢が脳に関わる神経因子に何らかの影響を及ぼした可能性があります(マクマスター大学(カナダ)の研究)。

他にも、ストレスによる腸内細菌叢の変化がうつ病をはじめとする精神疾患の病態に影響を及ぼすことは既に報告されていましたが、今年になって、そのメカニズムが明らかになりました。
腸内で特定の乳酸菌が減少すると、T細胞の分化が誘導され、この細胞が脳へ移行してうつ作用を示すのです。この分化誘導には、細胞膜表面に存在する膜タンパクであるデクチン−1が仲介しており、抗炎症作用を示す漢方薬として知られる”茯苓”の成分であるパキマンを投与することで、このルートを抑制し、うつ病様の行動が予防されることが分かりました。
ストレスで減少したある種の乳酸菌を投与しても同様の効果が見られたのは興味深いことです(昭和大学、ジョンズホプキンス大学(アメリカ)、慶應義塾大学、九州大学の共同研究)。

現在、うつ病治療には脳内神経伝達物質を用いることが多く、長期投与による副作用なども心配されます。研究が進めば、腸内の免疫システム=腸内細菌叢が治療ターゲットとして注目されるかもしれません。


お読みいただきまして、ありがとうございました!前編はここまでです。
後編では、腸内細菌叢の”治療”の現状についてフォーカスします。引き続き、お読みいただけたら嬉しいです。

🦠前半の関連資料のご案内

今回のお話はポッドキャストでもお届けしています。
お時間のある時にお聴ききいただけると嬉しいです!

サイエントーク
56. 腸内細菌が世界を変える?今知っておくべきマイクロバイオームと疾患の科学
57. 腸内細菌を治療に使う?マイクロバイオーム創薬の最前線に迫る!
サイエントーク参考文献集

研究発表ほか
1. 帝王切開による新生児に母親の腸内細菌叢を移植する
2. 帝王切開で生まれた赤ちゃんにお母さんの「糞便」を与えて健康な微生物叢を構築する研究
2. 日本人の腸だけに存在?:海藻を消化する細菌
3. 運動の好き嫌いは腸内細菌で決まる? 意欲高める仕組みを解明か
4. ヒト腸内細菌の1種が持久運動パフォーマンスの向上に貢献
5. 腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ
6. 発熱がウイルス性肺炎の重症化を抑制するメカニズムを解明
7. クローン病を悪化させる因子を発見
8. 腸内細菌をコントロールすれば「打たれ強い人間」になれる?
9. 腸内細菌叢の変化がうつ病につながるメカニズムを発見


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