ヒトの体内で起こっている自食作用「オートファジー」(後編) -疾患との関連も!?-
こんにちは、ビビです。
先週はPodcast Weekend 2024にお出かけし、楽しい時間を過ごすことができました。Podcastをたくさんの人が聴いてるんだなって思うと、とても楽しくなってきました👍 また来年も開催されるといいですねー🏕️
さて、今回はオートファジーの最終回です。なんと、オートファジーが疾患にも加担しているというお話です。疾患と関わっているのは嫌だなって思うこともありますが、原因がわかれば治療方法の探索にも繋がる可能性も出てきます。
これらの研究成果が治療法の開発に繋がると良いですね!
🍽️脂肪組織とオートファジーの関係
加齢とともにオートファジー抑制因子であるRubiconが増加し、タンパク質の品質管理機構の1つであるオートファジーがうまく機能しなくなるというお話をしてきました。
ところが、脂肪細胞では逆にRubiconが減少することを大阪大学の吉森研究室が報告しています。そして、これが生活習慣病の一因になっている可能性があるというのです。
脂肪細胞で老化により抑制因子であるRubiconの発現が低下すれば、オートファジーが活性化します。マウスの脂肪細胞でRubiconを欠損させると、若齢であるにも関わらず、耐糖能異常(血糖値を正常に保つ機能の異常、糖尿病様の症状)やコレステロールの上昇、脂肪肝などの症状が現れるということが分かりました。
詳細を調べると、脂肪細胞の分化・成熟に関わるPPARγの働きを助けるSRC-1とTIF2が、活性化されすぎたオートファジーによって分解されていることが判明しました。これにより、PPARγの働きが弱まり、脂肪細胞の機能が低下して本来の機能である脂肪を蓄積することができなくなります。蓄積できなくなった脂肪は、肝臓に貯まることになります。これが、脂肪肝のトリガーになっている可能性が考えられます。
ちなみに、細胞内の脂肪滴をターゲットにした、リポファジーと呼ばれるオートファジーがあります。肝臓でRubiconをノックアウトしたマウスではリポファジーが亢進し、高脂肪食を与えても肝臓における脂肪滴の蓄積や肝肥大等の症状が軽減されました。つまり、肝臓でオートファジーを活性化することで脂肪滴を排除できるかもしれないのです。
実際に、ヒトでも肝臓に脂肪滴がある患者では、Rubiconが増加しているそうで、Rubiconの発現量と病態に因果関係がある可能性が示唆されています。
🍽️精子形成とオートファジーの関係
前出の脂肪細胞のように、オートファジーの影響が他の細胞と異なる細胞もあります。オートファジーの活性を増減させて、個々の臓器などでどのような作用が生じるのかを研究するのは、生体内での役割を確認するために重要なことです。
これも大阪大学からの報告ですが、全身でRubiconを欠損し、オートファジー活性を増加させたマウスでは、精巣の重さが減少していることが分かりました。どのようなメカニズムが働いているのでしょうか。
精巣の中に存在するセルトリ細胞は、サイトカインの分泌などを通して精子幹細胞の維持、管理に寄与している重要な細胞です。この細胞の中でRubiconを欠損させてオートファジーを過剰に活性化すると、精子幹細胞の維持管理のための機能を発現するために重要なGATA4というタンパク質までも分解してしまいます。これにより、セルトリ細胞から精子幹細胞をケアするための因子が十分提供できなくなり、未熟な運動性の低い精子ができてしまうようです。運動能力の低下は、数や形態には影響なくても、生殖能力に大きな影響があると言われています。
男性ホルモンであるアンドロゲンを阻害する薬剤によっても、RubiconやGATA4が低下するようです。子育て中のマウスのオスではアンドロゲンが低下することが知られていますが、オートファジーがGATA4を分解することで、生殖能力を低下させて子育てに集中するように促しているのかもしれませんね🍀
🍽️心保護作用とオートファジーの関係
生殖細胞は、人生の中で長期に渡り増殖を繰り返す細胞ですが、心臓の活動に重要な心筋細胞は、生後比較的早い段階で増殖を止める細胞と言われています。その後の心臓の成長は、心筋細胞の肥大と心筋細胞以外の増殖によるものです。
増殖せず、ほぼヒトの一生を共に生き抜く細胞では、オートファジーによるメンテナンスがとても重要です。
繰り返し登場するオートファジーに重要な因子Atg5を心筋細胞特異的に欠損したマウスでは、心筋細胞に異常なタンパク質が蓄積し、収縮能の低下による心不全を起こすことが大阪大学の研究グループから報告されています。
不溶性タンパク質が凝集するデスミン心筋症のモデルマウスでも、オートファジーの活性を増強すると心機能を改善することができ、治療の可能性が検証されています。
他にも、ヒトの拡張性心筋症でも正常な心筋と比較してオートファジーが抑制されていることが分かっていますし、アグリソーム(異常タンパク質や損傷タンパク質の凝集)が多く見られることも調べられています。さらに研究を積み重ねていけば、治療への応用が期待できそうな予感もしますね。
他にも、心筋細胞は他の細胞に比べて、拍動=収縮のためにエネルギーを多く必要とします。つまり、エネルギーを作り出すミトコンドリアが正しく機能することがとても重要です。弱ったミトコンドリアの活性を正常化するための研究は、アカデミアを中心に進められています。損傷したミトコンドリアを排除するマイトファジーを使った治療方法も選択肢の一つになるかもしれません。
🍽️がんとオートファジーの複雑な関係
がん細胞は正常細胞と比較して、タンパク質の糖修飾などの様々な違いがあり、これらの違いを識別して、がん細胞を排除する機構がヒトには備えられています。
この初期のがん細胞の排除システムのひとつに、オートファジーが関与している可能性があるようです。そして、がん細胞が増殖するステージでは、逆にオートファジーが増殖に役立ってしまっているという、がん細胞の巧みな戦略が垣間見られます。
・がん細胞の発生段階のオートファジー
がん細胞は日常的に体のいたるところで発生していますが、発生したがん細胞をさくさくと排除する機構が備わっているため、多くの場合、がんを発症しません。これには、オートファジーや細胞競合(正常細胞に囲まれた異常細胞を排除しようとする働き)という機能が役立っているようです。
正常細胞に囲まれた中で、ぽつんと発生したがん細胞の中でもオートファジーは起こっています。ところが、がん細胞の中では、オートファゴソームまでは進むのですが、リソソームの活性が低下していてオートリソソームを形成できず、オートファゴソームのまま蓄積されることが分かりました。初めにお話したように、オートファジーが完結できない細胞は生存できず、排除されます。つまり、がん細胞は生き延びられないのです。興味深いことに、このオートファジー機能の不全は、周囲の正常細胞からの物理的刺激がトリガーとなっていることが東京理科大学から報告されました。オートファジーと物理的な刺激(細胞競合)で、がん細胞を押し出し、排除しているようです。細胞内で起こっている詳細なメカニズムが分かれば、がんの排除についての研究が進むかもしれません。
・がん増殖段階のオートファジー
初期の排除機構がうまく働かず、がん細胞が増殖してしまった場合、がん細胞は正常細胞でなく、がん細胞に囲まれたがん微小環境を形成します。そして、栄養や酸素を運搬する血管が十分に構築されていない低酸素、低栄養の環境でありながら、増殖能力が増強されているため、高い代謝機能を求められます。まさに、オートファジーが活性化される条件が整ってている環境であり、実際に大活躍しているようです。
がん細胞で生じるオートファジーをうまく阻害することができれば、治療の可能性も広がるかもしれません。
🍽️最後に・・・
適度なカロリー制限を行うことで、Rubiconが減少してオートファジーが活性化すると吉森先生もお話されています。これは、あくまで腹8分目で食事を楽しみ、寝る直前に食べないという健康的な生活を送ることで、寝ている間にオートファジーが活性化して細胞のリフレッシュにつながるというものです。時々、ある種のダイエット法と間違えて伝えられていることもありますので、しっかりとした根拠を確認することが大切です😳
私たちもサイエントークプロジェクトを通して、より正確な情報を伝えられたらいいなと思っています。
このお話は、ポッドキャスト(サイエンマニア)をもとに書かせていただいています。オートファジー研究をされているたなはるさんとレンさんのトークは研究者ならではの視点もあり、とても興味深いのでぜひ聴いてみてください😆
サイエンマニア
133. オートファジーって何?賢い細胞のリサイクル術⁉︎
134. 断食ではない!正しく学ぶオートファジーの魅力
関連資料他
15. なぜ老化は生活習慣病を引き起こすのか?
16. 脂肪肝病態形成におけるオートファジー制御蛋白Rubiconの役割
17. 精子形成を維持するメカニズムの一端を解明
18. 心筋リモデリングとオートファジー
19. オートファジーががん細胞を排除することを発見
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