ヒトの体内で起こっている自食作用「オートファジー」 (前編) -オートファジーってなに!?-
こんにちは、ビビです。やっと、涼しきなってきました。秋ですねー🍂
私にとっての秋の味覚は何といっても、マロン🌰です。今日の午後は、モンブランを食べにいきたいな🍀 秋は美味しいものがいっぱい、幸せいっぱいですね。
さて、今回はオートファジーについてお話したいと思います。この分野は、2016年に大隅良典教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されたこともあり、皆さんもよくご存知かもしれません。最近では、疾患や健康寿命にも関連しているという研究も多く発表されて、注目を集めています。オートファジーの定義から、最近の研究までを3回に分けて公開していく予定ですので、ご興味のあるパートをチョイスして読んでいただけると嬉しいです🍀
🍽️オートファジーとは自分を食べること!?
オートファジー(autophargy)は、ギリシャ語のauto「自己」とphagy「食べる」を合わせた造語です。生物学的には、細胞が「自己成分(タンパク質など)を分解する」機能のことです。
70kgのヒトが1日に摂取する標準的なタンパク量は70gとされていますが、実際に体内で合成されるタンパク質は200gと言われています。毎日、体外から摂取する原料だけでは足りないくらい、たくさんのタンパク質が作られています。この不足分を補うために、細胞内のタンパク質を分解して原料として供給しているのが、オートファジーなのです。
大隅教授がオートファジーの鍵となる因子を発見して以来、この分野の研究は飛躍的に進んでいます。オートファジーは、がんや神経変性疾患、2型糖尿病などの生活習慣病、心不全、感染症などの炎症だけでなく、様々な疾患にも関わっていると言われています。それだけでなく、生物の発生・分化・老化などにおいても、重要な役割を担っていることがわかってきている注目の分野です。
🍽️オートファジーの発見
実は、オートファジーは1950年代から60年代にかけて電子顕微鏡を使った研究で現象としては捉えられていました。しかしながら、細胞内の他の小器官だと誤認され、オートファジーとして認識されていなかったのです。これを、オートファジーとして定義(命名)したのが、リソソームの発見で1974 年にノーベル生理学・ 医学賞を受賞したクリスチャン・ルネ・ド・デューブ博士でした。1963年のことです。残念ながら、ド・デューブ博士が、オートファジーについて命名した後も、この分野において大きな研究の進展はありませんでした。
その30年後、突破口となる大発見をしたのが大隅教授です。大隅教授は、出芽酵母の研究からオートファジーを起こすための必須因子として、14のATG遺伝子群の同定に成功しました。今では40を超える因子が見つかっています。
鍵となる因子が発見されると、その因子を細胞やマウスで欠損させたり、発現を増強させたりする実験ができます。これらの変化が細胞やマウスに及ぼす影響を解析することで、この現象が生体内で何をしているのか、何に役立っているのかが解明されていきます。
酵母の研究で見つかった因子に相当するものは、ヒトでも同定されているので、ヒトの体内で生じている現象についても世界的に研究が進んでいます。
オートファジーとはどんな器官でしょうか。オートファジーは、一般的に細胞質に存在する小胞体やゴルジ体などの小器官とは異なり、必要な時に出現するちょっと変わった小器官です。
まず隔離膜と呼ばれる二重膜が、細胞質の小胞体とミトコンドリアの接合部で出現します。これがだんだん成長し、細胞質にある標的タンパク質を包み込んでいきます。
分解するタンパク質を球体内に包み込んだ状態のものをオートファゴソームと呼びます。このオートファゴソームは、タンパク質を分解するための酵素を内包するリソソームと融合し、オートリソソームとなり、タンパク質を分解します。最初に発見されたオートファジーは、ランダムにタンパク質を取り込んで分解するものでしたが、その後の研究で選択的に相手を選んで分解するオートファジーも存在することがわかりました。その他、細胞内小器官のような大物をターゲットにするオートファジーもあることがわかっています。
先に紹介したオートファジー関連の40を超えるATG遺伝子群の因子は、それぞれのオートファジーで専門的な役割を持っています。つまり、オートファジーの種類によって使われるAtgタンパク質の種類も異なるということになります。
選択的にターゲットを選んで分解するオートファジーをいくつかご紹介します。
☁️マイトファジー:ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを産生する重要な小器官で二重膜で覆われています。そして割と大きめです。エネルギーを産生する過程で発生する水素イオンを膜の中を移動させることで、膜電位が発生します。膜電位が正常に保たれないと、このイオンがうまく移動できずに、細胞にダメージを与えてしまいます。
膜電位が乱れたりして機能障害を起こしたミトコンドリアを、細胞にダメージを与える前に分解するオートファジーです。
レセプター依存的な経路とユビキチン依存的な経路があります。前者では、機能障害を起こしたミトコンドリアの外膜にあるレセプター(Atg32)がリン酸化により活性化され、隔離膜にあるAtg8によって認識(結合)されます。後者では、損傷により膜電位が低下すると、パーキンソン病関連因子として知られているPINK1がユビキチン化酵素Parkinをミトコンドリア外膜にリクルートし、外膜のタンパク質をユビキチン化します。これが引き金となり、隔離膜を誘導していきます。
☁️ER(小胞体)ファジー:ERも細胞内に存在する小器官で、タンパク質の合成などの重要な任務を担っています。ERの損傷により、細胞質に局在するER表面のレセプター(Atg40)が活性化し、マイトファジーと同様に隔離膜になるAtg8に認識され、取り込まれます。
☁️ヌクレオファジー:核膜周辺のERや核内物質も、損傷があればオートファジーの対象になります。分解の際に、DNAを傷つけてしまうと致命的なダメージになってしまうので、小胞として細胞質側に切り離し、そっと隔離膜へ渡します。ヌクレオファジーのレセプターはAtg39です。
レセプターの名称は、出芽酵母の物を表示しています。ヒトでも同様の機能を持つレセプターが発見されていたり、未確認だったりします。また、他にもタンパク質の産生に関わるゴルジ体に関わるゴルジファジー、ペルオキシソームを分解するペキソファジー、オートファジーで活躍するリソソームを分解するリソファジーなど、次々と発見されています。
オートファジーで得られたこれらのアミノ酸は、必要なタンパク質を新たに合成するのに使われます。損傷したタンパク質を分解し、新たに作り直す感じです。壊れたり、古くなった部品を交換して、細胞の機能が低下したり、細胞死を起こしたりするのを防ぐ役割があります。
例えば、腸上皮細胞等は、食事などを通して外界と接していますので、損傷を受けやすいです。そのため、1日程度で新しい細胞と入れ替わっていきますが、神経細胞や心筋細胞は、ほぼ一生使われ続けます。そんな頑張る細胞のメンテナンスに、必須の機能なのかもしれませんね。
🍽️今回はここまで
今回はオートファジーの基本的なところを書いてみました。次回はこのオートファジーを応用した生体の防御システムなどについてお話しする予定です。引き続き、楽しんでいただけると嬉しいです。
このお話は、ポッドキャスト(サイエンマニア)をもとに書いています。オートファジー研究をされているたなはるさんとレンさんのトークは研究者ならではの視点もあり、とても分かりやすく興味深いのでぜひ聴いてみてください😆
サイエンマニア
133. オートファジーって何?賢い細胞のリサイクル術⁉︎
134. 断食ではない!正しく学ぶオートファジーの魅力
関連資料ほか
1. オートファジーとは
2. オートファジー:ノーベル賞に至るまでの 研究発展の経緯
3. Atgファミリーの働き
4. オートファゴソームは小胞体とミトコンドリアとの接触部位において形成される
5. マイトファジー / ミトコンドリア選択的オートファジー
6. マウス生体内におけるミトコンドリアのエネルギー産生機能評価
7. ERファジーとヌクレオファジーオートファジーによる小胞体と核の分解
8. Atg39の核内膜結合を介した核の一部の分解機構
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