それは血となり肉となり

私はそれなりの漫画好きではあると思う。

ワンピース、スラムダンク、ドラゴンボールなどの王道中の王道は勿論読んでいるし、近年話題の鬼滅の刃、約束のネバーランド、ビースターズも読んでいる。友人宅に行けば違うジャンルの漫画が並ぶ事に心躍り、友人そっちのけで漫画ばかり読んでいた。(今思えばだから私は友人が少ないのだろう)

友人宅で刃牙、ジョジョ、クローズなどの長編と分類しても良い漫画を読破していたのだから、友人からすれば迷惑以外の何者でも無かったのでは無いかと思う。高校生の時に年越しを友人宅で過ごそうと提案され、友人の兄が所有していた今日から俺はが面白く、結局初詣に一人行かなかったのは良い思い出だ。

さて前置きが長くなったが、私を構成する五本を選ぶのは非常に難しい…かと思われたが案外すんなりと決まった。やはり自分の根っこにあり、今でも登場人物や台詞を細部まではっきりと思い出せるのはこれしか無かった。以下一つずつ紹介する。

るろうに剣心〜明治剣客浪漫譚〜

和月伸宏

散々引っ張ってこれか。と思ったなら申し訳ない。ただこの漫画は私の人生初の一作なのだ。物語は人斬りを生業としていた剣客が、時代が変わり、人を助ける不殺(ころさず)の流浪人にとなってある道場主の娘を助ける所から始まる。ご存知の方も多いと思うし、ネタバレは極力避けたいので今後もあらすじは簡単に済ませようと思う。この漫画の凄いところは、随所に実在の時代背景や事件、人物を盛り込む事で物語の奥行きを凄く広くしている事だと思う。時代背景にしても戦国時代、幕末時代といった良く知る時代では無く、当時の私が乳製品としてしか認識していなかった明治という時代であり、その後歴史小説や日本刀に心惹かれる様になった要因とも言える。

冒頭でも少しお伝えしたが、この作品は初めて自分で購入し読破した漫画だ。自分の構成を考えた時にやはり最初の一冊は外せなかった。ここから漫画が好きになり、歴史が好きになり、文章の世界へと足を踏み入れて行く。はじめの一歩は大切なのだ。慎重になり過ぎる必要はない。ただもしその一冊がギャグマンガ日和だったのなら私の人生は今とは少し違った物になっていたかも知れないしそうじゃないかも知れない。ちなみに私の娘の人生初の一冊は名探偵コナンだった。それから彼女は科捜研を愛し、捜査一課長に憧れ、鞄の中に謎の七つ道具を入れて持ち歩く様になった。やはり最初の一冊は大事なのである。

素晴らしい世界

浅野いにお

何気無く寄った本屋で気紛れに購入し、衝撃を受けた一冊。ここから一時、浅野いにお先生に傾倒して行く事となる。様々な登場人物が交錯し、物語の核となる人物が入れ替わる。所謂、オムニバス形式というやつなのだろうが、私はこの手の漫画でスターシステムを採用しているのを初めて見た。何より当時の学生の頃に疑問に思っていた事を表してくれていてそれが衝撃だった。

映画の冒頭で良くあるシーン。悪役がビルを爆破したり、銃を乱射したりして多くの人の命が奪われるシーン。あっさりと人形の様に人は倒れ、悪役の凄惨さだけが際立つこのシーン。そのモブと呼ばれる人の人生はどうなる?彼らにも家族があり生活があり人生があった。一人一人に背景があった筈なのだ。勿論、物語の特性上そんな所を掘り下げる事はしない、してはいけないのだ。でも当時は妙に気になっていたのを覚えている。

この漫画はまさにモブの人生を描いていると思う。いつだって誰だって主人公とはよく言った物だが、私はそれに成れない事をこの時すでに知ってしまっていた。だからこそ誰もが主人公では無いこの素晴らしい世界に心奪われてしまったのかも知れない。

ハチミツとクローバー

羽海野チカ

私は当時から少女漫画を読む男だった。今では多様性が叫ばれ珍しくも無くなったが、数年前までの田舎は、少女漫画を読むだけで後ろ指刺されバカにされていた。だが良い物は良い。その中でも天使なんかじゃない、愛してるぜベイベ、めだかの学校は私の人生に多大なる影響を与えた。それでも私を構成するとなると話は別だ。五本を考えた時に最初に決まったのはこの一冊だった。

主人公が美大の寮で生活し、様々な人と出会い、それぞれの恋模様も合わせながら美しい青春時代を送る。小さなすれ違いと大きな事件、結ばれる二人と報われない恋。今でも仕事に疲れた時は本棚から全冊取り出し読みふける。初めて読んだ時はこんな青春を送りたいと邪な気持ちで進学を決めた。(残念ながらセンスの問題で美大では無いのだけれど)今では自らの青春時代を思い出し、当時より涙する自分がいる。この漫画に出会えて良かった。毎晩隣で眠る身長150cmのコロボックルを見る度にそう思う。

寄生獣

岩明均

「悪魔というのを本で調べたが…いちばんそれに近い生物はやはり人間だと思うぞ。」作中屈指の名台詞にしてこの作品の全てを表す一言。突如現れた寄生生物に侵略される人類。いやそもそも彼らの元へ侵略していたのが人類なのか。何が正しくて何が間違っているのか。きっと誰もが正しく間違っているのだと思う。私の人生のとりわけ倫理観に強く作用しているのがこの漫画だと感じている。

実はこの漫画に関しては今回紹介する中で唯一所有していない。他の作品に関しては今でも本棚や実家で所有している。ただ寄生獣に関しては何度も読み返してはいるものの買った事は無い。ある時は満喫で、ある時は友人宅で、ある時は床屋の待合室で。全巻読破する時もあれば古本屋で一冊パラパラと立ち読みする事もある。それでも心に響くのだ。私は感受性が豊かな方だと思う。それ故にこの作品は響き過ぎるのだ。全巻読破した時には一日中考えを巡らせてしまう事もあった。だからこそ所有はしていない。そんな心に余裕のある生物。なんとすばらしい。

最終兵器彼女

高橋しん

新聞折り込みか何かの広告だったと思う。確かあれは有料放送の広告だったかな。「ある日、彼女は最終兵器になった」このワンフレーズで持っていかれた。翌日に近所の本屋を巡り原作の漫画を買い集めその日のうちに読破した。急遽壊される日常、戦争の愚かさ、一般人にはわからない敵…全てが新鮮で全てが儚かった。

きっと我々が感じる世界の終わりなんてこんな程度なのだろう。誰が侵略してきたのか、どうしてこうなったのか、そんな事がわかるのは本の一握りの人達でそんな事は何にもわからず大多数の人間は殺されて行く。戦争とは本当に愚かであると思わされる作品であると感じる。ただその中で結局出来ることは一つの事を信じ抜くしか無い。

余談ではあるが当時付き合っていた彼女が最終兵器になったらどうしようと真剣に考えた事がある。多分私はかなり早い段階で諦めてしまっていたと思う。それが主人公になれない所以だろう。そんな話を彼女にしたら笑ってくれたが、後に浮気されて別れることになる。つまりはそういう事なのだ。


以上が私を構成する5つのマンガである。

かなり添削したのだが、想定以上に長くなってしまった。そもそもこのサイトに登録したのもこの記事が書きたいためだけである。元々は別のサイトで短編などを遊び程度に書いていたが、もう何年も開いていない。それでも私は文字を書くのが好きなのだろう。仕事以外でもこんな駄文を暇を持て余し書いているのだから。誰が読むのでも無く、誰に届くのかもわからないが、興味があれば上記5つの内どれか一つでも手に取ってもらいたい。どこかの誰かの人生にほんの僅かでも潤いになれば。

#私を構成する5つのマンガ

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