風の便り
かつてインドネシアの人々は子どもが生まれるとクローブの苗を植えたそうである。クローブの木が育ち毎年つぼみを付けるようになるとその子どもたちは成人してそれを糧に生活できるようになるそうだ。未来のために植えるのであろう。
東インドのメガラヤという州には山々を繋ぐ橋が架けられているがゴムの木の根っこで作られていて、細いゴムで結ばれて作られた橋は最初は渡れない、何十年も経つにつれゴムの木が成長して太く強くなり、ゴムの木の根が結ばれた橋も太く強くなる。渡れるようになるのは孫かその先の世代の人々であろう。自分たちは渡れないが未来のためにかける橋なのであろう。
アナンという木には様々な鳥が集まる。ちょっと寄っていく鳥。休んでいく鳥。実を運んでくれる鳥。
ある日、少し羽を傷めた鳥が静かにやってきた。若い鳥は初めての飛び立ちで突風に煽られたそうで、寒さ、暑さが凌げればとしばしアナンの木に休んでいた。幾日か果実を食べたり、眠ったりしたら少し動けるようになったので飛び立っていった。
季節が変わった頃にまたその鳥は戻ってきた。果実を食べたり、少し休んだりしたらまた飛び立っていった。
今度は季節が変わらないうちにまたその鳥はやってきた。
だんだんとその鳥が来る頻度が増えるようになるにつれ、不思議とアナンの木に様々な鳥が集まるようになってきた。休む鳥もいたり、色々なところから果実の種を運んでくる鳥もいた。
季節が何回か巡った頃、鳥たちが運んできた様々な種は芽をだし、やがて木に育っていった。
一本で立っていたアナンの木の周りに小さな木が生え始めた。
季節がなんども巡ったが、その鳥はずっときてくれるようになった。傷ついた羽もすっかりと良くなり、美しい羽を悠々と優雅に羽ばたかせながら飛ぶようになった。その飛ぶ姿は鳥たちの憧れの風のようだといつの日からか周りの鳥たちに「風さん」と呼ばれるようになった。
どこに飛んで行っているのかはわからないがどこかに飛んで帰ってくるたびに新しい果実の種を持って帰ってきてくれた。その種に誘われるかの如く、違う鳥たちもまたやってきた。
何十回目かの季節がやってきた頃、風の鳥は飛び立たないことがあった。
アナンの木の見晴らしが良いところに佇みゆっくりと周りを見ているようであった。
しばらくたったある日、あの美しい羽を大きく広げゆっくりと羽ばたかせ、いつもとは違う方向に風の鳥は飛んで行った。
アナンの木の周りには多くの木が育ち、豊かな森になった。
何度も何度も季節が巡った。風の鳥は時より風の便りを送ってくれるようになった。
広い世界をあの美しい羽で飛んでいるようだ。
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