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ロイヤルカレー

「正しく調理されたコルマカレーほど美味しいカレーは世界中にない」

そんな言葉が何かの本を読んでいて私の目に飛び込んできた。心躍らせるような文字に口の中でコルマカレーの味わいが蘇る。もともとはペルシャの方からやってきた料理、ギーをベースにゆっくりと煮込んだシチューみたいな koresh という料理がムガールの人々によってインドに伝わりヨーグルト、アーモンド、サフランと香り豊かなスパイスと一緒になり現在のコルマ(Korma)カレーに変化していったといわれている。

Korma(コルマ)というのはじっくりと蒸し煮にするという意味があるらしく、コルマカレーも様々なスタイルがあるといわれている。そしてその様々なコルマカレーを自在に操れるようになれればキッチンの中の王様にだってなれるかもしれない。それほどかつてのムガールの皇帝や貴族に愛されていた料理である。

かつてコルマカレーが生まれたと言われているラクナウ(Lucknow)という町を訪れたことがある。デリーから南東に500キロメートル離れたかつてのインドの首都であり今はウッタル・プラデーシュ州の州都でもある。歴史的な建造物が数多く残る優雅な街並みの中に香る様々な料理、タンドーリチキンにシークケバブ、スパイスの香ばしい香りとお肉の焼ける匂いが漂う活気ある路地はインド料理の中心地と言っても過言ではないかもしれない。一晩中煮込んで作るニハリにもナッツとサフラン、ローズウォーターが効かせてあり、高貴な感じがした。ゆっくりと煮込むDum(ダム)と言われるインド料理の調理方法はラクナウで確立したといわれており、インド宮廷料理やムガール料理には欠かせない調理方法の一つでもある。そしてゆっくりと煮込まれた料理の代表がコルマカレーなのである。

ムガール帝国の3代目皇帝アクバルは文化や料理などにもとても興味と関心があり、ペルシャの文化を積極的にインドに持ち込み、もともとインドにあった料理や調理方法と融合させていったといわれている。図書館や学校も数多く設立し、インド中から様々な知識人が集まり、交流できる場を作っていったそうである。自らもハーブや作物を宮廷の庭で栽培し、週に三日は肉を食べないと決めていたらしく、それが故に野菜のコルマカレー「ナブラタンコルマ」という9つの野菜やフルーツが入ったコルマカレーが作られたと言われている。このナブラタンもアクバルの9つの宝石と言われている彼を支えた9人の達人たちが謂れだそうである。その達人たちの中にはダンサーや料理人もいたといわれていてアクバル王が何を大事にしていたかが見えてくるようでもある。

スペインで知り合った人も音楽家などを宝物と表現していた。

人を宝物と表現する文化は美味しくて優しい世界を作れるのだと思う。

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