今日のスパイスさんたち
「あっちへ行ってくれよ。お前がいると全部黄色くなってしまうんだよ!」
「我々の良さが薄れてしまうぜ。まったく。。。」
クミンさんとコリアンダーくんに言われて肩をすぼめながらキッチンの端っこに追いやられたターメリックさん。
少し離れたところで様子を見ていたレッドチリさん。クミンさんが声をかけます。
「君もほどほどにしてくれよ。昨日だって子どもが泣いていたじゃあないか」
「ごめん、ごめん。少し気合いを入れすぎちゃったんだよ」
ここは「カレーのキッチン」。様々なスパイスが棚にズラーっと並んでいます。それぞれが個性豊かで特徴的。目立ちたがり屋もいれば、おしゃべりな奴がいたり、恥ずかしがり屋がいたら、怒りっぽい奴もいる。普段は静かだけど他のスパイスと一緒になると騒がしくなるやつや、一人だと調子が良いけど、何人かで集まると途端に静かになってしまうやつもいる。嘘つきがいたり、見栄っ張りもいる。素直なやつも、そうじゃないやつも。
そんな彼らの大きな夢が「スパイスボックス」に入ることである。
スパイスボックスとは丸いケースの中に小さな丸い容器が7つ入っている。真ん中に1つ。そしてそれを囲むように6つ丸い容器がある。大体の家庭のキッチンにおいてあるが、使う人や地域によって入っているスパイスが違う。
1つの容器はソルトさんが占領していることが多く、これには他のスパイス達は何も言えない。
ターメリックさん、コリアンダーくん、レッドチリさん、クミンさんはスパイスボックスの常連である。ただし「カレーのキッチン」のシェフ達に選ばれなくては中には入れない。シェフによってはガラムマサラさんもいれたり、クローブくん、カシアさん、カルダモンさんが入っていると残りは2つしかなく、なのでコリアンダーくんやクミンさんがターメリックさんをスパイス棚の隅っこに追いやったり、悪口を言って自信を無くさせようとしたりします。
コリアンダーくんは爽やかな見た目と調子の良いおしゃべりでいつも周りを楽しませています。カレーに加えると華やかになるのでシェフ達はついついコリアンダーくんをたくさんカレーにいれてしまいます。
安定感のある佇まいと、落ち着きのある感じがシェフ達に人気のクミンさん。ついつい頼ってしまいます。「私こそがカレーだ」なんてよく言っているらしいです。
さて今日は新しいシェフが「カレーのキッチン」にやってくる日です。誰が彼のスパイスボックスの中に入れるのかでスパイス棚は盛り上がっています。ターメリックさんとレッドチリさんを隅っこに追いやったクミンさんとコリアンダーくんが一番目立つところで陣取ります。
最初に選ばれたのはマスタードくん、はじける笑顔が素敵な男です。そしてフェネグリークさん、知れば優しいやつだとわかります。そして安定のクミンさん。意外なところからヒングちゃん、癖は強いけど人気者。ブラックペッパーにレッドチリさんが選ばれて、残りは1席。自信たっぷりコリアンダーくんの顔も少し不安げ。
「これこれ、これがないとまとまらないんだよ」
シェフが最後に選んだのはターメリックさんでした。