港町ゴアの「フェニー」というお酒
中の様子がよく見えないようにしているのか、車通りから2、3段階段を下がったところに入口がある。入ってみると薄暗い部屋は裸電球で照らされていて小型テレビからはインド映画が映し出されているが誰も見ていない。歓迎されていないような雰囲気の中、入口に近いテーブルに腰掛けテーブルの上に置いてあるメニューをおもむろに見てみる。なんて書いてあるのかさっぱり読めない。奥のテーブルに座っていた男が急に立ち上がり、我々のテーブルに近づいてきた。何か言葉を発しているが何を言っているかわからない。よく聞いてみると注文をとっているようだ。
西インドの港町ゴアの酒場での話である。そこで飲んだのはカシューナッツの果実から造られる「フェニー」というお酒である。アルコール度数は42度以上あるフェニーはゴアでのみ造られている蒸留酒だ。カシューナッツが実る3月から4月ごろにかけて製造されている。洋ナシのように実った果実はカシューアップルと呼ばれ、一つ一つの実の先端にカシューナッツが一つぶら下がるようについている。カシューナッツをとったカシューアップルの消費期限は極端に身近くジュースは1日も持たないと言われている。故にカシューアップルから造られるフェニーを作るのは収穫地から近くなくてはならない。収穫されたカシューアップルは足で踏み潰されジュースにしていく、それを布で濾していき2、3日かけて発酵させる。発酵させたジュースを銅製の壺に入れ替え密閉されそれを熱し蒸留させること3回。出来上がった透明な液体が「フェニー」である。注ぐと綺麗な泡が表面を覆うように現れスーと真ん中から消えていく。それが良いフェニーの印であるそうだ。そしてサンスクリット語の泡という言葉から変化して「フェニー」と名付けられたと言われている。
もともと昔からヤシの実でお酒を作っていたが1500年ごろにポルトガルの人々がブラジルからカシューナッツの木をゴアに持ってきてからカシューナッツの実でお酒も造られるようになったそうである。作り方は500年も前からあまり変わっていないのだとか。
カシューナッツをつまみにフェニーをゴアで飲む。薄暗い酒場での体験は結構貴重なものだったのだろう。原価も高いフェニーだが、ひと瓶100円もしないで手に入れることができた。最近ではゴアの若者たちがフェニーの価値を高めるために様々な取り組みをしているそうである。その内日本のバーなどでもフェニーが飲める日が来るのかもしれない。