インド味
インドで街を歩いていると様々な香りが漂い、行き行く人々を誘惑してくる。
日が沈んだ薄暗い中、赤く燃える炭火の上で焼けるトウモロコシ。昼前の眩しい太陽の光に照らされた切りたてのグアヴァ。お腹を壊すとわかっていても食べてしまうパニプリ。どれもインドの美味しい屋台料理である。そして屋台料理の香りをさらに引き立ててくれるのが魔法のスパイス「チャート・マサラ」である。
これは「インド味」だね。と言うとカレー味を連想する方も多いと思うが、私が「インド味」と聞いて連想するのはこのチャート・マサラの香りと味である。コリアンダーやクミンに加えドライマンゴーで酸味を際立たせ、ヒングが旨味を与え、ミントの爽やかさやスパイスの香りを岩塩とブラックソルトでうまく包み込んでくれている。
チャート・マサラのチャート(chaat)の意味はヒンディー語の指を舐めるという意味で食べたものがあまりにも美味しいので食べ終えた後に指も舐めてしまうということらしい。チャート・マサラが生まれたのは諸説あるらしく、ある人たちはベンガル地方で生まれたとも言うし、またある人たちはインドの首都デリーが発祥だとも言う。その中でも一番有名な話がチャート・マサラはウッタル・プラデッシュ州のアグラで生まれたと言うものである。17世紀ごろ、かの有名なタージマハールを建てたムガールの王様シャー・ジャハーンが病気の時、宮廷の料理人が小さくて食べやすいものを様々作った時に生まれた味なのだとか。その味が料理人から町の人々にも伝えられ、今ではインド全土の街角でも親しまれている味になったそうである。
タンドリーチキンに振ってあったり、フルーツに振ってあったり、ジャガイモ、ひよこ豆、パコラやオニオンリングなどの揚げ物などに振ってあったり、何に振りかけても指まで舐めたくなるような美味しさに変えてくれるチャート・マサラはまさに最高のスパイスブレンドである。
私の思い出に残っている焼いたトウモロコシ、フレッシュなグアヴァ、お腹を壊したパニプリ。どれもチャート・マサラがかかっていた。スパイスのブレンドは料理人や店、メーカーによって異なるが酸味、旨味、塩味そしてスパイスの香りが調和しているのが特徴である。酸味の正体はアムチュールと言われている青いマンゴーをドライにしてパウダーにしたものである。人によってはザクロのパウダーをブレンドすることもある。
チャート・マサラの誕生はインド屋台料理を生み出し、「インド味」を確立したのである。
はるか昔、アショーカ王はブッダの教えにより人々に良いことを行おうと思い、人々が歩く道にマンゴーの木を植え、木陰を作ったと言われている。枝が横に広がるマンゴーの木はインドの熱い日差しから人々を守ってくれる。今でもマンゴーの木は植えられているらしく、そのマンゴーの実はアムチュールを作るのにも使われているらしい。