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かつてのスパイスの王

チキンカレーを作ってよ。とはもともと言われていたので必要なスパイスを荷物に詰めて飛行機に乗り宮古島へと向かった。



到着した下地島空港はのどかで清潔感があり、飛行機のタラップから降りると南の風と時間が流れてくる。


チキンカレーに必要な材料、玉ねぎ、にんにく、生姜、トマトなどをスーパーで買っていると南国のフルーツや食材などが目に入ってくる。キッチンに戻り皆さんの昼食用にチキンカレーを作り始めるわけだが、頭は南国の食材でいっぱいである。玉ねぎを切っている時も、にんにくをすりおろしている時も、鶏肉を煮込んでいる時も、宮古島の食材で何かカレーを作れないかなぁと妄想している。沖縄ならではのスパイスやハーブと言えばヒハツと呼ばれている粒が長いロングペッパーがある。そしてどこかシナモンの葉やカルダモンの香りにも似ている月桃の葉もある。辛さを引き立てる島とうがらしもある。そうそうウコンもあるではないか。



私の頭の中は妄想宮古島カレーでいっぱいになってしまった。



翌日には地元の市場に繰り出し、ソーキ肉、パパイヤ、パイナップル、島らっきょう、泡盛などを買い込み「宮古島ソーキカレー」を作った。島とうがらしのピリッとした辛さ、月桃の上品な香りそしてロングペッパー (ヒハツ)の腰の低い辛さが合わさりなかなか良い感じのマサラが出来上がったのである。

ロングペッパー(ヒハツ)は良く沖縄のお土産などで頂いたりするが、もともとの原産地はインドだと言われている。歴史は長くヒマラヤの麓から南インドまで広く自生していたらしくアーユルヴェーダの聖典にも書かれている。サンスクリット語で「Pippali(ピッパリ)」と呼ばれていたのが古代ローマやギリシャなどに伝わりペッパーと名前を変えていったのだそうだ。もともとは薬用として広まり、その後食用としても使われていくようになった。ロングペッパー 、ギー、胡麻に牛乳を混ぜて作る飲み物は風邪の予防や寝付けを良くすると言われている。また性欲を増進させるとも言われインドのカーマスートラという4世紀ごろに書かれた経典にも登場する。

ヨーロッパでは長い間ロングペッパー(長胡椒)とブラックペッパー(胡椒)は混在されていたが、スパイスの貿易が陸路から海路に変わっていく過程で北インド経由でヨーロッパに入っていたロングペッパー は次第に影を潜めていった。14世紀ごろにはコロンブスが新大陸から持ち帰ったレッドペッパーが瞬く間に世界中に広がりロングペッパーをヨーロッパでは見ることはなくなったと言われている。

かつてスパイスの王として世界中で求められていたロングペッパー。王の座をブラックペッパーに譲り、今ではスリランカ、インドネシア、インド、沖縄でひっそりと活躍しているのが、ブラックペッパーにはないシナモンの様な香りが含まれた辛さからにじみ出ている様でもある。

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