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アジョワンと学生時代の風呂事情

 南インドの山の上で過ごした学生時代、お風呂に入るというのが大変だった。私が日本の学校から転校して間もない頃、2段ベッドが何個も並んでいる部屋が学校の寮であった。一日の学業が終わり、スポーツの時間を楽しんだら風呂の時間である。限られた部屋をたくさんの人たちで奪い合うため我先にと風呂場に走っていったのを覚えている。少しでも早く風呂場を確保しようとボクシングのタオルさながらにタオルを放り投げていた。風呂といっても湯船やシャワーがあるわけではなく、バケツ一杯がもらえるだけであった。ギーザーと言う屋根の上に取り付けられたタンクで水を熱湯にしたものをそれぞれに分配される。熱湯はバケツの3分の1くらいまで注がれ、それに水を加えて適温にして体を洗うのである。まず水を入れすぎてしまうと冷たくなってしまうので気持ちよく体を洗えない。少なすぎるとちゃんと体が洗えない。何度かの失敗を繰り返し、ちょうど良い塩梅を身につけていった。水を飲んで体を壊したことも何度か体験したが、学生時代の風呂の経験がインドにおいての水の貴重さを良く学ばさせてくれたような気がする。まさに身を持って勉強したわけである。


 そうやってインドの屋台料理を見てみると揚げ物が多いのもしっくりとくる。水が貴重だからである。もちろん衛生面のことも考えられた結果、何でもかんでも揚げてしまえ!ということになったのかもしれない。パコラにボンダ。バジヤにサモサとインドの屋台料理を思い浮かべると揚げ物が脳裏に浮かぶ。ベッサンと言うひよこ豆の粉を衣に使ったものや、小麦粉などを生地にして包んで揚げたもの、伸ばして揚げたものなど様々である。そしてそれぞれに強めのスパイスを効かせる事で揚げ物にも負けないスパイスの香りが料理を包み込んでくれる。よくカレーなどを作るときに使われているスパイスを使う事も多いが揚げ物に頻繁に登場するスパイスは「アジョワン」と呼ばれているものである。ギリシャ原産とも言われているこのスパイスは北西インド、イランなどでよく使われているが、そのほかの地域ではあまり使われていないそうである。タイムに似た香りを持ち少し清涼感があると言われているが、ちょっと湿布の匂いを思い出すのはその清涼感故かもしれない。効能としてはお腹のハリやガスなどの整腸作用があると言われ、殺菌、抗菌だけでなく風邪の予防、喘息の治療にも使われてきたと言われている。コップ1杯の水にアジョワンを小さじ2杯入れ一晩つけておくと胃腸薬としても使えるアジョワンウォーターが出来上がる。小麦粉や揚げ物に相性が良いと言われているアジョワン。インドではサモサの生地に練りこまれていたり、アフガニスタンでがビスケットを作るときにもの使われているのだそう。

 水と揚げ物、インドの屋台にアジョワンシード。身を持って体験した学生時代の経験がスパイスを通して不思議とつながっていくのを感じる。

 先日、ひよこ豆(ベッサン)、米粉を使った衣を作りアジョワンを効かせてみた。それで魚を揚げたらとても美味しかったので今度は冷えた白ワインと一緒に試してみよう。

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