3匹の小さな竜
よく前を通るのだが入ったことがなかったレストランに先日ふと入ってみた。
1970年代から開業しているのでもう50年近くずっとやっているのであろう。赤と白のテーブルクロスが穏やかな店内に落ち着きを与えていた。スペイン料理屋である。
昼時に出かけたのでお勧めのランチ「チキンパエリア」とアオリイカのアヒージョをいただいた。まずはアヒージョが出てきた。プリッとしたイカがソースに浮かんでいる。その上にひらひらとした薄緑色のハーブがのっている。ピリ辛のソースは爽やかさと旨味が調和して美味しかった。そして何より薄緑色のハーブがアクセントになってアオリイカのアヒージョをグッと押し上げている感じであった。目立っているのに主役ではなく、主役を上手に引き立てているのである。料理人の腕も良いのであろうが、ハーブの役割もとても良い。
この薄緑色のハーブは「小さな竜」とも呼ばれているタラゴン(tarragon)である。フランス語ではエストラゴン。地中の中の根がクネクネと蛇のようだから小さな竜、タラゴンと名がつけられたそうな。オランダでは蛇の草、中国ではドラゴンよもぎと場所によって名前が違うものの蛇や竜に由来しているのが面白い。シベリアやモンゴルが原産地といわれているこのハーブは、狂犬病の犬に噛まれた時や蛇、虫などに噛まれた時にも効くと信じられていたそうで10世紀ごろにモンゴルからイタリアに伝わった。14世紀にはフランスやイギリスにも伝わっていったそうである。遥か昔から様々なハーブを栽培、活用しているヨーロッパでは珍しくタラゴンの栽培の歴史は約600年くらいなんだそうだ。フェンネルやアニスそしてミントの香りが重なったような香りがするタラゴンは、料理の最後に少し加えることでアオリイカのアヒージョのようにグッと料理を引き立ててくれる。料理によく使われるのはフレンチタラゴンで、そのほかにももっと野生的で原種に近いロシアンタラゴンというものもある。フレンチタラゴンの方が香りが高いといわれている。アメリカ南部ではフレンチタラゴンの代わりにメキシカンタラゴンというものを使うことがあるようだ。香りや風味はタラゴンに似ているがこちらはミントマリーゴールドと呼ばれているものらしい。
大きくて野生的だがちょっとシャイなのがロシアの小さな竜。
背は低いがはっきりと主張してくるのがフランスの小さな竜。
似ているけど竜じゃないのがメキシコの蛇。
どれも料理に爽やかさと深みを与えてくれる。そして小さな竜の息吹が効いた料理を食べたらちょっと眠くなるんだそうな。
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