インド人の手
チャパティという小麦の全粒粉を水と一緒に練り、それをちぎって丸めて伸ばして焼くというシンプルなパンがある。インドの北のほうでは日本でいう白いご飯のように日常的に食べている。このチャパティという平たいパンを片手だけでちぎって食べる。器用に中指と薬指でチャパティを押さえ人差し指と親指で引っ張るようにして食べるのである。好みの大きさにちぎったチャパティをサブジや豆料理、カレーなどを包んで口の中に放り込むのである。
小さい頃から祖母に習い、チャパティを食べること、作ることが日常になっていた私はそれが普通だったが、いざ初めての人にやってもらうとなかなか難しいらしい。
宗教上、インドでは左手は使わずにご飯を食べることが多い。街中の食堂などに出かけると左手をだらんとたらし、右ひじをテーブルの上につき片手でチャパティをちぎったり、ご飯とダール(豆料理)を手で混ぜて食べている光景に出くわす。
インド人の手というのは不思議な力を持っているように感じる。たくさんのインド人に触れられたり、触られたりしてきたが日本人の手とインド人の手では感じ方が違ったような気がする。力が吸い取られるでもなく、もらえるでもなく、なんとなく不思議なのである。
料理を作るときも、スパイスを手でもんでから料理に入れているシーンを度々見かける。グジャラートのレストランで料理を教えてくれたシェフもホールスパイスを入れるときは良く手で揉んでから投入していた。先日料理を教えてくれたインド人シェフもカスーリメティを香ばしく炒ってからそれを手で揉んで粉状にしていた。そういえばバターチキンカレーの仕上げに入れるカスーリメティも良く手で揉んで入れている。手のひらに何かを入れて親指で揉んでいるシーンをインドでは見かけることが多い。それはタバコだったり、スパイスだったり、他の何かだったりする。
昔、友人がムンバイで有名な屋台に連れて行ってくれた。屋台で料理を作っている男を指差して彼が言った。「彼の手を見ろ。体中触っているだろう。。。それが美味しさの秘訣なんだよ。」何を言っているかよくわからなかったが、熟練した料理人の手には何十年も手に揉み込ませたスパイスが染み込んでいるのかもしれない。きっちりとスプーンで測っていても作り出せない味の秘密がインドの手の中にあるように感じる。確かに美味しいものを作る人の手は美味しいものを作りそうな手をしている。インドの凄い料理人は「手」というどこに行っても手に入らないスパイスを持っているのかもしれない。
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