葉リヒロ◇Yo RIHIRO

詩文とか、小説とか、なんでも//葉リヒロ『ヒズミのなかの住人たち』幻冬舎 書籍販売サイトから配信

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最近の記事

【詩文】落花

いつもの路にサルスベリの木 ぽとと音してふりむく視線 さよならあの子 お先に失礼 落花はこどもたちの宝物 無垢なてのひら 湿った吐息 風にゆられて 水辺に落ちる

    • Summer Hole

       明日から夏休みだというのに、ぼくは落ち込んでいた。  たくみもけいたも、海に行こうとか、新しく発売されるゲームをどうやって手に入れるか作戦会議しようとか、カブトムシだのセミだの、休み時間が始まるとぼくの席に来て、ここ二、三日は夏休みの話題で勝手に盛り上がっていた。   今日のぼくは上の空でため息ばかりをついていたけれど、そんなことは全く気にしていないようで「とりあえず、明日はプール行こうぜ」なんて言っている。  でも、それでよかった。夏休み直前の、ウキウキを壊したくなかった

      • 【詩文】むこうがわ

        極夜 低木に白い花 ぼんやりと それは幻 列車の窓 透けて見える向こう側 だれもいない 原っぱ 原っぱ 山 山 ピアノ線 空気が震えてる 白じゃなく 赤 君じゃなく わたし 極 極 花は散る 朝はくる

        • 【日記】とあるカフェカウンターで溢れた思考

           犬の散歩をしていると、自分の思うようには歩けないので手持ちぶたさになってしまう。うちの犬は突然止まり匂いを嗅ぐ。気になる匂いはかなり執拗に嗅いでいて、なかなか前に進まない。  犬の散歩なのだから、手持ちぶたさというのは違う気もするのだが、何かしていないと気が済まない性格な故に、イヤホンを耳に音楽を流し気に入った曲をピックアップしてプレイリストをつくることもある。  お!いいね、と思うたびに立ち止まり入力していくので、匂いへと前進したい犬は、迷惑そうにちらとこちらを見る。

          【詩文】あめあがり。

          あめあがりみずたまり おおきなみずたまり くつのまんまばしゃん みずのおと はねるみず どろんこみず くつのなかもくつしたも あしもゆびもぜんぶつめたい ぬれてるってこと あっちのみずたまりはちいさい こっちのみずたまりはふかい すべりだいのよこはどろどろ おててもどろどろ どろだんごできた あめあがりはたのしい こんどはながぐつはいてこよ あのこみたいなかっこいいながぐつ

          【詩文】あめあがり。

          【詩文】雨あがり、そして

          ささゆりの香り 石だたみ ほのかに 石壁の苔 しっとりと ふりむくと もや 甘く それはあなた それはわたし 深緑 濃く

          【詩文】雨あがり、そして

          【詩文】脆弱

          おおきなまるい有機体 つめたく硬い口角 同じことば 想像力の欠如 流れる血 ナイフでとめる 風が触れる 痛みをあげる 硬い口角こじあけて 入力してあげる あなたは人間ですか? そんなにえらいんですか? 同じことば 想像力の欠如 無関心 圧力 立場 まるい有機体 ただそこに存在するだけのモノ 風が触れる 痛みなんてあげない そのままでいればいい ぬくぬくと生きていればいい そして終わればいい

          【詩文】アオよりアオイ海と野生の葡萄

           這うように前進する  頭上には少量のひかり  そこは出口  知らない誰かの庭  池は海  轟々と風の音  波は選ばずさらう  誰でも何もかも  クリーニング屋の屋上  シーツの間に間に葡萄の木  まだ青い果実  振り向くと風  爛れ落ちた実  それは葡萄  行き止まりの廊下  上が出口  実は土に帰る  海は生命  わたしは生きる

          【詩文】アオよりアオイ海と野生の葡萄

          【掌編小説】窓

           雨が激しくなってきた。  雨粒が窓をたたき幾つもの筋を付けていく。  ここの窓にはひさしがない。  ビルの一室をリノベーションしているが、窓はそのままの形を保っている。  だから、住宅規格サイズなわけがなく、部屋の中を外界から覆いたいのであれば、特別に手を加えなければならなかった。  カーテンもシェードもブラインドも、俺には必要ないと思った。  規格サイズではないことが、あえて都合がよかった。  用意されているのに、なぜ?と聞かれなくて済む。  テーブル横の植物棚に並べて

          【寓意】薄桜色の紙ふうせん

           ダイニングテーブルの上で、私は折り紙をしている。どうしてだか急に折りたくなり、家中の引き出しを開けては、ひっくり返すように探して見つけた。  見つけた折り紙は、灰色や茶色、薄橙色ばかりだった。でも、なんでもよかった。角と角を合わせて、ただ折りたかっただけだから。  まっすぐに折り、均等な形を見て安心したかった。  折り紙は決して裏切らない。丁寧に折れば必ずきれいな形になる。  テーブルの上には、先ほど夕食で食べた魚の皮と骨が皿にのって、放置されている。薬、電気ケトル、付箋

          【寓意】薄桜色の紙ふうせん

          【詩文】青い果実と昇天祭

           青、アサヲ、九夏  衣だけが光り  髪を結って女のカタチをしたものたちが  暗がりを歩きだす  そうしたなら  すぐに部屋へ入りなさい  大きな窓を探してそれら全部の鍵を閉めることに  心を費やし  決して外へ出てはいけません  おかあさま  窓にカーテンがありません  中が丸見えです  外からじっと見られているようで  とても怖いのです  大丈夫  中へは入れません  毅然としているのです  夜が明ければ胞子は飛び立ち  命を繋げる  私たちはそっと待つのです  

          【詩文】青い果実と昇天祭

          【詩文】ただ幸せでありたいと願っていただけなのに

           東の空にうすい月  西の空にひかる礫  高く遠い夢  校舎の壁に西日があたれど   消えない影は張りついたまま  自転車のチャイルドシート  少女の瞳  深い漆黒  感情を失った人形  月は消え西日は地べたを這う  暗い夜の居場所を  深い穴に微かな光を

          【詩文】ただ幸せでありたいと願っていただけなのに

          【掌編小説】ブランケットを抱えて

           AM4時、タクシーの車中は無関心の色で満たされていた。  グレーの分厚いブランケットを抱えている自分が、車窓にぼんやりと映っている。わたしはなぜ、こんな物を抱えているのだろう。一瞬思ったがすぐに顔をうずめて大きく吸い込む。彼の匂いと深夜の残り香が鼻腔をくすぐり、この子が一緒でよかったと思った。この子とはブランケットのこと……。独りで帰るなんて寂しすぎるから、ぬくもりは必要だった。  10月の深夜は寒かった。しかし私たちはテラス席で見つめ合っていた。私がどうしても此処がいい

          【掌編小説】ブランケットを抱えて

          【寓意】真理

           母はりんごが好きだ。だからうちには一年中りんごが置いてある。  それは必ず赤いもので、一度も切らしたことがない。  一個食せば一個足す。いつでも、行儀よく三つ、カゴの中に並んでいるのだ。  私は、あおいりんごを食べたことがない。  あおどころではなく、みどりもきいろも、しろもくろもだ。   私が願ったところで、母が譲るわけがない。  母にとって、りんごは赤だけなのだ。  ある日、だいすきな桃色のクレヨンで、りんごを描いた。無垢な心で幼い私は自由に想像していた。自分でも満

          【寓意】増殖

          僕は自分のうなじに手をおいた。指先はひんやりと冷たく、鏡は氷のようだった。  今朝、祖母と床屋へ行った。その床屋の店主は祖母の昔からの友人で、いつでもポマードの香りがしていて、襟足はきっちりと切りそろえられ、清潔に保たれていた。  店主は僕の姿を見るなりにっこりと微笑んで  「きみは相変わらず線が細いね、もうすこし筋肉をつけないといけない」と言った。いつもの挨拶だった。  余計なお世話だ。生きているし、生活できる筋肉はついてるんだ。でも、僕はなにも言わない。黙ってうつむく

          【日記】高級ブランドバッグは貰い物

           こうやって都内の電車に乗っていると、いろんな人間がいて皆他人で、でも宇宙の中の一塊で、そう考えるととても不思議な気持ちになる。  広大以上な宇宙の中で、私たちなんてだだの点、点以上に小さい存在なのに、他人のふりをして知らないふりをして、又は馬鹿にして、上下をつけて、なんだかいろんなことがどうでもいいことのように思えてくる。  電車の吊り革にぶら下がりながら、後ろにいるであろう少女ふたりの会話が聞こえてきて、少しうんざりしていた。苦手な会話だった。  ひとりは声が大きくキン

          【日記】高級ブランドバッグは貰い物