「ミコレンコは苦戦するエバートンを救えるか」NSNO Vol.17 / 22-23 エバートン ファンマガジン
はじめに
今号は、WyscoutやGoalといった媒体へ寄稿され、フリーランスで活動する戦術ライター、Edward Stratmann氏の記事をお届けします。
この度、記事そのものの存在を教えてくださり、遠く離れた日本のエバトニアンにも読んでもらいたい、という筆者の提案に快くご承諾いただきました。
私は感謝の念を込めて綴りながら、原題にもあるように「エバートンを励ます」ミコレンコの存在を改めて感じました。ファンも表現しきれなかった前向きな言語化に喜びを覚え、今回のNSNOでは、作者と選手に拍手を送る気持ちで臨んだ次第です。
純粋なファンではなく、客観的に選手の特徴を捉えた目線と分析を読者の方にも楽しんでもらえたら幸いです。
それではどうぞ!
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MYKOLENKO OFFERING PLENTY OF ENCOURAGEMENT FOR STRUGGLING EVERTON
今シーズン、飛躍的に成長しているヴィタリー・ミコレンコの存在は、苦戦を強いられるフランク・ランパードのエバートンにとってポジティブな話題だ。
1月にディナモ・キエフから加入して以来、徐々に成長を続けるミコレンコ。彼の祖国は現在も混乱が生じているにも関わらず、トフィーズの一員として足跡を残し、素晴らしいキャラクターとスピリットを発揮したことは大きな称賛に値する。
監督からの信頼も厚く、シーズンの大半をハイレベルで戦い、プレミアリーグ全試合に先発出場していることがその証だ。
ランパードはEverton TVでミコレンコについて語っている。
「ミコはウクライナから移住してきた若者で、我々がよく知るように(ウクライナでは)多くのことが起きています」
「彼の対応力によってチームに定着できたのは素晴らしいことです。満足しているし、まだまだこれから。特にクリスタルパレス戦とフラム戦はとても良い試合でした」
「ディフェンス面では体を張って勝負し、相手をブロックして強さを発揮しています。とてもいいパフォーマンスでしたが、攻撃的な部分でもっと試合に関与させたかったのです。なかなかうまくいきませんでしたが、前半は前に出てクロスを何本か上げてくれましたし満足しています。ミコはもっともっと成長すると信じています。まだ若いし、伸び代となることがたくさんありますね」
ミコレンコはゲームのあらゆる局面で大きく貢献したが、エバートンのポゼッションは平均44.50%(リーグで4番目に低い)であり、前に出るプレーが得意であっても、最もインパクトを与えることができたのは前述したストッパーとしての役割だ。
才能があり、献身的、規律を守ってプレーできるミコレンコは、プレミアリーグで4番目に高い守備力(記事執筆時点で14失点)を誇るエバートンにおいて非常にフィットし、よく走り、多くの相手チームにとって悩みの種となった。
また、フィジカルとインテリジェンスを融合させ、確実かつ堂々としたデュエルを展開することで、揺るぎない地位を築いている。
自分のゾーンに侵入してくる相手を常に監視する、その意識と読む力は危険を察知して対処できる彼の大きな武器だ。
死角を含む全方位への確認を頻繁に行う。これにより、常に周囲の状況を把握し、どこに脅威があるのかを知ることができる。
その結果、通常の守備姿勢からどのように体を向けるのがベストか、どこから失点しそうか、チームメイトの位置や空いているスペースはどこか、バックラインとの位置関係を調整する必要があるかなどを確実に把握する方法を心得ている。
前述したように、ミコレンコは後方やチャンネル、死角へ走り込む相手を追跡するのに十分な能力を備えており、ゴールを背にして深く下がったときにも注意を払うことができる。
実際、これまで頼りなく見えたストッパーは、敵がボールに向かってチェックした際、ぴったりと密着するスタイルで優位性を発揮し、その成果をたびたび実現している。
タイトにプレッシャーをかけ、敵に対してターンする猶予を与えないことで自身が駆け引きしたり、反転しなくてもいい状況を作り出せる。
このような状況をはじめ、ロングレンジのパス、精度の低いパスを相手が受けようとする際、あるいはタッチライン際にいたときにスマートに対応することで敵のプレーを困難にする。
素早くマークに動き、腕で上手く相手のバランスを崩しながら、長い脚を生かして相手のゾーンに入りボールを奪う。ミコレンコの先読みする力がプレスに介入するタイミングにもプラスに働いている。
180cmのディフェンダーとして空中戦に強いわけではないものの、エリア内へのクロスをクリアしたり、セカンドボールを奪ったりと、簡単にプレーさせないことで相手を苦しめた。
このように危険な状況を察知し、死角やサイドからのクロスを守ることに長けているため、ポジショニングの良さも相乗して、ヘディングでの対決にさらされることはほとんどない。
基本的なことをほぼ完璧にこなし、一貫した意思決定を行うことで、様々な特徴を持つ相手との対戦をうまくこなせるようになった。
続いて、攻撃面での貢献度に焦点を当てると、23歳の青年はここでも自分の力を発揮し、週を追うごとにその影響力を増している。
攻撃に加わる機会を逃さないよう前方に突き進み、バックラインを水平方向と垂直方向に伸ばしつつ、アップフィールドへと襲撃する賢明な選択はエバートンの攻撃に幅と奥行きをもたらした。
ミコレンコはオーバーラップの際に厄介なだけでなく、ウインガーとのやり取りの後、巧みなアンダーラップでプレーの進行に影響を与えることも重要なポイントだ。
マーキングのジレンマを引き起こすことで相手の守備陣を混乱させ、バリエーションを増やし、さらには相手に気づかれずにボックス内に侵入する選択を可能にし、トフィーズに新たな次元をもたらしたのだ。
また、ビルドアップ時やポゼッションの確立時に、広いエリアで三角形やダイヤモンドのオーバーロードを形成し、循環できる手助けをしていることもポジティブな点である。
さらに、デュエルする相手よりも体格的にアドバンテージをとるケースが多く、ゴールキックのターゲットとして高い位置でのセカンドボール奪取に貢献している。
では、足下にあるボールへの扱いはというと、配置と走りの質で彼の価値を増幅させている。
洗練された左足から繰り出されるクロスや方向転換、スルーパスは、その優れたセンスと賢明な判断力によって生み出される。また、特有のテクニックでボールをとらえ、チームメイトの走りをうまく引き出している。
状況に応じて、高い角度のボール、低い軌道のボール、ドライブボールなど、どのような高さと深さのボールをボックス内に送り込めばいいのかを熟知している。
より安全なパスを攻撃陣の足元に出し、攻撃のパターンや角度を変えるプレーを心得ており、オープンスペースを作れない場合にもボールを循環させるタイミングを理解しているのはいい傾向だ。
ミコレンコは、目的意識とペースをもってボールを運ぶことができるランナーであり、素早くテリトリーを獲得し、バランスを保ちながら、強靭な体格を活かしてボールをキープする。
巧みなフェイクパスや肩を落としてフェイントをかけ、パスの導線とマーカーの間に体を入れることで、相手と距離をとることを効果的にし、ボールを奪うのが難しい選手であることを証明している。
試合のあらゆる場面でサイドを駆け巡るエネルギーに満ち溢れ、ランパードの指導の下で粘り強く技術を磨き、先発の座を固めた功績は絶大なものだろう。
チームメイトのジェームス・ターコウスキは、ミコレンコへ熱い賛辞を送り、彼がいかに評価されているかを発言している。
「今日の彼はトップクラスだったと思う。4、5本のシュートをブロックしたし、外から2対1のシュートを受けてもブロックしていた。彼は素晴らしい選手だよ」と、フラムと引き分けた試合後に目を輝かせていた。
要求された仕事を的確にこなし、一貫性と威厳のあるプレーをする。今後何年にもわたり、エバートンの左サイドを支える存在になることは間違いないだろう。
まだまだ上達の余地があるとわかっていても、物静かで控えめなミコレンコは、リーグ屈指のワイド・ディフェンダーとして、既にグディソン・パークで輝かしい未来を約束されているように見える。
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さいごに
お楽しみいただけましたでしょうか?
今季も苦しい戦いが予想されるエバートン。
W杯が終幕し、再びプレミアリーグが再開したころ、チームはどのような軌道で歩むことができるでしょう。
もうすぐで加入後1年が経とうとしているミコレンコをはじめ、実は捉えきれていない選手の魅力、成長、価値に気づける記事でした。
私たちも、ミコレンコのように死角に気を配り、画面に食いつき、新たな発見を楽しんでいきましょう。
それでは、また次号をお楽しみに。
気に入ってくださり、サポートしてくださる方、ありがとうございます。 今後の執筆活動や、エヴァートンをより理解するための知識習得につなげていきたいと思います。