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人間らしさに満たされる

今年の一月末に別れた元彼は、ある意味で人類最新のような人だった。

人間関係を極限まで減らし、仕事は完全にリモートワーク、家族とも連絡を取らないし、友達と飲みに行ったのだって私と付き合っていた1年半で2回だけだった。電車も嫌いで、乗ったとしても隣の駅までしか行かない。彼の誕生日に私が勝手に予約した数駅先の焼肉屋に行くのでさえも、すごく嫌がられてしまったことは私の記憶に鮮明に残っている。

そんな彼に、私はたくさんのことを学んだ。

もちろん彼は、結婚願望もないし、彼女が欲しいなんてこともない。ただ私が彼のことが好きで、近くにいたかったから無理やりいさせてもらったようなもので、いつフラれてもおかしくないとずっと思っていた。でも、一年半もいさせてもらった。それに、すごく楽しかった。

彼は自分の欲望にとっても忠実で、見栄がなく、ありのままを生きていた。起きたい時間に起きて、眠くなったら寝て、やりたい時にゲームをして、仕事をする。要らない物はすぐに捨てる。新品のティファールだって、要らない深さのフライパンは、一度も使わずに捨てた。慶應を中退したけど、学歴を聞かれても高卒だとしか言わない。無理は一切しない。そして、頭が良い。誰にも頼らずに、自分で決めた道を、ゆったりと着実に歩んでいる姿は、いつもいつもせっかちで、日本人らしく無理をすることに美徳を感じていた私にとってすごく斬新で魅力的だった。

人間関係は希薄なはずなのに、私が仕事の人間関係などで悩んだ時に言ってくれる言葉は、人間関係をしっかり学んだ人からしか聞けないような話だったりする。自分と他人の課題の分離がしっかりできていて、他人に一切の期待をしない。

人として、もう何周か済んでいる感じがした。彼にとってこれが初めての人生で、まだ20代で、ここまで超越した人間になれることってあり得るんだろうかと思った。

彼は、私にとって人間界の憧れだった。今のところ、私の知る人間においてイケてる奴トップ3に確実に入る。

そんな、ある意味で人間らしすぎる一方で、人間らしくない、そんな人と付き合って私も幾分か影響された。幾分か、なんてことはなくて、私の細胞の80%くらいに及ぶほど影響されまくっている。

だから、なんだか人間らしい、「言いたいけど言えない」とか「行って欲しくないけど止められない」とか「根拠のない憶測に惑わされる」とかそういういかにも私の思う人間らしい状況に戸惑う場面に久しく出くわして来なかった。

仮に出くわしかけても、彼に乗っ取られた私の脳みそが正しく理性で対処してくれるようになった。他人に期待しなくなったし、暇つぶしでしかない人生に焦る気持ちも薄れていった。ただ、気持ちよく時間を浪費できる方法で人生を生きようと思った。


さっき、久しぶりに、友達から夫婦喧嘩を聞かせてもらった。まさに人間らしい、言いたいことを素直に言えず、憶測に苦しみ、どこにぶつけても収まらないイライラを抱えた言葉たちがLINEを通して私にダイレクトに体当たりしてくる。

私はすごく満たされた。なんだか、すごく懐かしい感覚だった。

あゝ、なんて人間らしいのだろう、素敵だ。本人は止まらないイライラで大変だろうところ、不謹慎に。怒ってるって可愛い、言いたいことを言えないこと、変な憶測をしてしまうところ、全部可愛くて人間臭いなってすごく思って、私はとても心が満たされた。懐かしさが溢れ返った。



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のんにゃん
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