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【ドラマ感想】透明なゆりかご

こんなに切ない「Happy birthday to you」を、今までに聞いたことがあるだろうか…。HP通り、「観ていてどこかほっこりする、でも心の底までズドンと来る」ドラマ。

小さな町の産婦人科医院を舞台に、アルバイトの看護助手として働く17歳のアオイが見つめる、生と死。中絶、母体死亡、一人親の苦悩、働くか生むか、夫婦の危機、虐待、性暴力、看取り…生と死と人生が交錯する場所で、あらゆる角度から、それぞれの想いと選択が丁寧に描かれていく。

「人の気持ちがわからない」と話すアオイは単に不器用というだけでなく、終盤でADHDであることが明かされる。愛する母親から「普通じゃないでしょ!」と怒鳴られ、自分のせいで両親が離婚したというたつらい過去を持ちながら、それでも人に寄り添い、気持ちをわかろうとするまっすぐな心、豊かな感性、繊細な内面が瑞々しい。

・由比院長の、医者は命を平等に見るという言葉。

・望月が婦長を評して言う、いつも公平だという褒め言葉。

医療従事者は自身の言動や感情が患者に与える影響を考慮し、いつも冷静で臨機応変且つ責任のある行動を求められる。基礎的なカウンセリングマインドとして、共感はするが、同情してはならない。しかし、彼らは機械やサイコパスではなく、ましてや神や仏でもない、懸命に職務を全うする普通の人間たちである。

・重箱の隅をつつくように怒りをぶつけてくる患者に、受け止められない、とため息をつく婦長。

・母体死亡時の多量出血に立ち会い、自分の生理すら耐えられなくなってしまった看護師。

・分娩だけは設備の整った大病院ですべきなのでは、と迷う由比院長。

・儚い命を前にして、この子じゃなくて良かったと思ってしまった、と涙ぐむ望月。

友人でもある、性暴力の幼い被害者に、人の気持ちがわからないアオイだからこそかけられた「いま、どうしたい?」「気持ちを聞かせて」という真摯な問いかけに、人としての真面目さと、アオイの中でぱっくりと開いた傷が痛むような、ヒリヒリ感が伝わってきた。

つらいと一言では片づけられないような重さ。いくら事情や経緯がわかったからといって、他人の気持ちなど普通の人だってわかりようがないのだけれども…。それでもわかろうと努力を続けていく中で、赤ちゃんが生まれる喜び、親と子供が共に成長する幸せ、当時の選択を振り返って感謝できる強さが、そこに垣間見える奇跡もあること。「おめでとう」という言葉に込めた気持ちは愛そのものであり、祈りでもあるということがじんわり沁みてくる、命のドラマ。


当事者になるまでは、子どもなんて無事に生まれて当然、自然に育って当と、なんとなく思っているものかもしれない。お産が軽いケースの話を聞くとなおさらだ。しかし、現実にはドラマ顔負けの悲喜こもごもが待っている。由比院長の言うように、お産に100%はない。

共感と言ってしまうと簡単なようだが、中には、見ていて古傷をえぐられるような痛みを覚えた視聴者もいたのではないだろうか。そのぐらい、各回重たいテーマを取り上げていて、立場が親であれ子であれ、どこかしら自分と重ねて涙するエピソードが一つはあったのではないかと思う。

書く能力はあっても、公に書けないこと、書いてはいけないことは人生にいくらでもある。だからこそ、人はフィクションに自分を投影し、そこで語り合い、涙し、時に自分だけのノートに書き出して、浄化する。私は、どの回も泣きっぱなしだった。

ときに、良いフィクションは、良いドキュメンタリーのようだと思う。

変化が速く正解が見えない今の時代、思考と感情を分けること、ロジカルシンキング、自分の選択に責任を持ちやり抜くことが、勝つための成功哲学として注目されている。それで充分に承認欲求が満たされ、自己実現し、利他的になれるならそれも良い。

一方で、そればかりでなく、ドキュメンタリーーやフィクションを見て自分が感じたことを味わい、向き合ってみるということも大切ではないだろうか。そこで感じた感情や思い出した記憶を無視する、道具にするという行為は、自分自身をぞんざいに扱っているのと大差ない。

内容が重いので、個人的に二度見は正直つらいが…、鏡のように向き合うことができる、良作だと思う。

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参考HP:https://www.nhk.or.jp/drama10/yurikago/

番組名:「透明なゆりかご」(全10話)

主題歌:「せつないもの」(Chara)

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