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【ドラマ感想】生きるとか死ぬとか父親とか

家族の思い出の下に眠る古傷に触れるとき、あなたは何を思うだろう。

トキコは40半ばの自立した女性だ。ラジオパーソナリティーとしてのお悩み相談と、私人としての過去や周囲の人々の関係性。その大きな2軸が日常を縫うように交わっていき、可笑しさや切なさといった、小さいけれども普遍的な波紋を水面に描いていく。トキコはラジオで毎回他人のお悩みにスパッと鮮やかに答えるも、そのお悩みは結局自分の身の回りのこととリンクしていて、オープニングの歌詞「色んな人に出会う度鏡のよう」を実感する境地に…。

オープニングもエンディングも歌がドラマの内容とマッチして素晴らしく、非常に印象に残る。特にエンディングのおかげで、重たいものを扱っても決して暗くはならない。泣けるけれどクスっと笑える、落ち込むけれど浮上できる、良い意味で楽観的な明るさが通底している。

父親との会話を通して家族の古傷を掘り起こし、再構築し、トキコが前に進んでいく、テンション抑え目のエッセイ風ドラマ。


・リアルさ。

リアルストーリーをドラマ化しているというだけあって、若くはないからこそ「あるある」「わかる」と実感できるようなエピソードが多い。叔母のケアと別れ、アラフォー友人同士の言えないあれやこれや、変わってしまった町、元恋人へのエール、未婚で子供を持たないという選択。そして「どれほど時が流れ」ても切れない家族の縁、父への愛憎…。エンディングの歌詞と上向きなメロディーが秀逸すぎる。

エピソードそっくりそのまま同じということはないにせよ、そのエッセンスは視聴者の共感を呼び、しみじみとした気持ちになる。

そう言えば、似たようなことあったなぁ。

周りでこういうことがあったなぁ。

私はもっとつらかったけど。

私はここまでじゃなかったけど。

人それぞれ苦しいことやつらいことはあれど、解決する、解決されることだけがすべてではない。黙って友人の肩を抱くようにただ寄り添うこと、その温もりと親しみ(距離感)が感じられる。

・私小説を書くということ。

自分の過去を書き出すということは、一見簡単なようで、非常に勇気のいる行為だと思う。過去の出来事を整理するプロセスで、過去の自分や未完了の問題と向き合うことになる。

あのときああすべきだった。あのときああだったらよかったのに。

思えば思うほど事実は歪み、感情ばかり強化されていく。

その当時向き合いきれずに蓋をしたものと対峙するとき、時間が経ち思い出せるようになったいまになってやれることは結局、過去の自分を打ち負かすことではなくて、抱きしめて受け入れることだと気づく。非力で、無力で、スーパーマンのように問題解決できるわけでもなく、奇跡が起きるわけでもなかった当時、それでも精一杯できるだけのことをしたギリギリの自分を認めるしかないのだ。認められなかった自分を認めると、許せなかった周りの出来事も、事実としてようやく受け入れることができていく。凍り付いたままだった感情が、少しずつ溶けていく。

絵でも文章でも、作品にはどうしようもないほど自分が出る。そこに何を投影するか。どんな自分を垂れ流すか。自分という歪んだフィルターを通して家族を描くとき、描かれた家族が他人からどう思われるか、当人がどう思うかなど大して考えていない。家族の真実がどうだったかなど、本人以外の誰にわかるだろう。

そりが合わない、癪に障る言動、なんでそうなのとこみ上げる怒り。何度も喧嘩して、話し合って、離れて、それでも憎み切れない。自分のせいなのか。自分が悪いのか。相手の寿命が尽きるのを待つしかないのか。

わかりあえないのだ。

あなたがいたから、私がいる。私がいたから、あなたがいる。わかりあえないうことがわかるというフェーズを経て、ようやく家族が自立していく。

諦めて、背中合わせに、同じ景色を見ながら互いの日常を生きていく。

そんなあなたを、どう描こう。

こんな私は、どう生きていこう。

製作が進んだり止まったり、葛藤という生みの苦しみを通して世に出たその作品は、ノンフィクションでありながら、立派なフィクションとなる。

ドラマ後半、過去と現在、二人のトキコが語り合うシーンは圧巻。そのあと、母親のコートを携えてやってきたトキコが、父とサヴァランと食べるシーンは涙が止まらない。母を思い出してこらえる父の表情から、サヴァランに沁みこんだラム酒の香りと苦みがこちらまで伝わってくるようだ。

絵に描いたように幸せな普通の家族など、ないのかもしれない。家族の数だけ違った家族のカタチがあり、向き合い方がある。劇的な変化はなくても、少し吹っ切れたようにそれぞれ前を向く、父と娘のその先を温かく見守りたくなる。

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公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/ikirutoka/

番組名:「生きるとか死ぬとか父親とか」(全12話)

オープニングテーマ:「ever since」(高橋優)

エンディングテーマ:「縁」(ヒグチアイ)

※上記情報は公式HPから引用しています。

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