「クレジットカードの有効期限が近づいています」
こんな日がまさかくるとは思いもしなかった、作った時には。
初めて作ったのは大学生の20歳。魔法のカードを手に入れてうはうはだった。
「有効期限 08/21」
この日付を入力するたびに、まだまだ先のことだ、このカードはいつまでも使えるんだ、と思いながら入力していた。
それほど高価な品物を買ったことはなかったが、それでも、海外旅行費を友達の分も支払った翌月にはその数字に怖気づいていたものだ。
ただ、クレジットカードからは、考えたとしても翌月の月末のことしか想像できなかった。有効期限は2021年。遠い先の未来の話。
奇数の年に開催された奇妙なオリンピックと同時に、その時は来た。あれから5年かーと思いつつ、傷だらけのクレカを見る。想像もしていなかった・できなかった遠い先の未来に、タイムスリップしたような感覚だ。あそこに行った、あんな思いをした、あれがおいしかった、などの思い出と、クレジットカードの傷だけが時の経過を実感させてくれる。この機にぱんぱんに膨らんだ財布を整理しよう、と、中のカードを取り出した。
有効期限の切れているカード、作った時に1回だけしか使わなかったカードなどを断捨離し、奥底に詰まっていたレシートを捨てる。そのあと日々使っているスタメンのカードを財布に戻していく。
一番長く寄り添っているのは、18歳の時に作った銀行のキャッシュカード。このカードとは7年も一緒に過ごしたことになる、、、という表現をするとどこか友人のような感覚になる、こともなくはない。そう思うと、5年付き合ってきたこのクレジットカードを手放すのもどこかさみしい、、、こともなくはない。
5年という月日の間は、それなりに生きてきたと思う。実家を飛び出し一人暮らしをし、サークル活動に力を入れた3年生、就活と単位と卒論に追われながらも人生の夏休みを謳歌した4年生、普通の会社に入り、普通の給料をもらって生きている社会人1~3年目。それなりに、楽しく生きてきたと思う。流れに乗って、流されるまま、楽しませてもらって生きてきた。
8月中句ごろ、クレジットカードの更新手続きをしなければ、、、、と思っていたころ、ポストにカード会社から郵便物が届いてた。
私は知らなかったのだが、クレジットカードは勝手に新しいカードが送られてくるシステムのようだ。自分の意志で「更新」し、カード会社と新たな契約を結ぶと思っていたのだが、自分の意志がなくても向こうから勝手に契約を更新してくれるらしい。
このとき、自分とは無関係に時間が流れているような気がした。
新たに生まれ変わった傷一つない相棒には「08/26」と書かれていた。有効期限は5年後。
前の時は想像できなかった5年後が、今では少し見えるような気がする。30歳。部長は退職し、新たに後輩を迎え働いている。主任にはなれただろうか。仕事に価値を見出して楽しく仕事をしながら、上司に愚痴を言ながらもある程度の給料をもらい、休日にキャンプでもしながら楽しんでいるだろう。
でも、「自分の人生」を歩んでいない感覚も消えないだろう。
25年生きてきて、ずっと消えないこの感覚。自分の足で歩いていない感覚。自分の選択で生きていない感覚。周りに生かされている感覚。
やりたいことをやってこなかったわけではない。習い事も多く経験しているし、いろんなことに挑戦もさせてもらった。海外旅行にも行ったし、忘れられない恋愛もした。
会社で働いて金銭的余裕もでき、自分のお金を自由に使えるようになった。高額すぎなければ買いたいものは買えるし、今なら日本中行きたいとこにいけるだけの貯蓄はある。
しかし、それでも満たされない感覚がふつふつ湧いてくる。
これまで、人生の安定とされるレールの上を歩いてきたように思う。「大学に行く」「テストでいい点数を取る」「企業で働く」くそくらえ。
「自分の人生を自分の意志で描いていきたい」
これが今の私がたどり着いた自分の意志であり決意だ。もし、叶うなら「好奇心の赴くままに生きたい」が心の中心にいると思う。
クレジットカードの有効期限は2026年に新たに設定されている。決意をした今、5年後はどんなことをしているのかは想像できない。ただ1年後の2021年10月31日付で会社をやめ、日本一周をするところまでは、今描いている自分の人生だ。
この先の人生を、ワクワクしながら描いていきたい。
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