「あなた」の話を聞かせてほしい
下地です。2月の頭で、松本に移住して丸11年になりました。
今年は全国的にも雪が多いですね。あまり雪が多くない松本も、今年は数年ぶりに20センチほど積雪して、ちょっとワクワクしました。
しかし、築40年越えの木造建築に越した翌日に、水道管が破裂して、お風呂もトイレも入れなくなったのも、もう11年前かぁ〜。しみじみ〜。
さて。前回に続き、わたしと演劇と「その周辺」について。
特にここ4年ほどで関わりが深くなったラジオの話です。
ラジオの(アシスタント)パーソナリティーとして
2019年春から、松本市のコミュニティラジオ局・エフエムまつもとの番組『Hata79.1』にアシスタントパーソナリティとして出演させていただいてます。毎週金曜日夕方6時から15分の地域密着型情報番組です。
出演することになったのはなんだか有難いご縁で。
ある会合で「松本の人にもっと劇団の存在を認知してもらえたらなぁ」と愚痴ったら、それを聞いてくださった番組関係者の方が声をかけてくれたのです。
番組の改編期で出演者を探していたらしく、俳優だし、高校時代にアナウンスの全国大会に出場した経験もあるしで、好都合だったのだと思います。
『Hata79.1』は上高地の麓・波田地域(市町村合併以前は松本市ではありませんでした)の地域密着情報番組……のはずですが、全然地域に密着しない放送回もあります。
メインパーソナリティの方がNYに20年住んでいたこともあり、海外のゲストがオンラインで出演したり、松本中心地区のイベント情報があったり、わたしや劇団のメンバーの公演の宣伝をさせていただいたり……と、どローカルな番組にも関わらず、話題の範囲がやたら広い。
過去にはブロードウェイ俳優や、オリンピック・パラリンピックの関係者がゲストの回もあって「これ波田の番組ですよね?」と何度も確認しました(笑)
でも基本は波田地域の番組。
よそ者のわたしですが「波田の人じゃないからこその感想や疑問を持って欲しい」と言ってもらい、参加できています。
波田以外の人も聴くだろうし、波田の人にも「外からはそう見えるのか」と感じてらえたらいいなと思っています。
昨年夏には、わたしのことを知っていたというFM長野の制作さんが声をかけてくださって、他の仕事で出られないパーソナリティの方に代わり、3時間の生放送の番組に出演させていただきました。
普段出ているのが収録番組のアシスタントなので、生放送の大役はハンパなく緊張しましたが、話題に反応してくださったリスナーの方のメッセージや、遊び心たっぷりの番組関係者の皆さんに助けていただき、役目を果たすことができました。
それ以降も、月に一度、番組にTCアルプのメンバーがお邪魔する機会もいただいてます。有難い!
ラジオの情報は当然音だけ。日常会話とは違う感覚も必要です。
耳障りの良い言葉選びをしたり、相槌が邪魔になることもあるので加減したり。
演技との共通点もたくさんあるので、勉強になります。
これを見ている、あるいは聴いている「あなた」へ
おそらく、放送で喋る時に持っていた方が良い意識として、聴き手を「あなた」と捉えることだと思います。
ついつい不特定多数の人が聴いていると思うと「皆さーん!」という意識になりがちですが、ラジオからキャッチする情報は一人一人違うもの。
誰かと一緒の空間で聴いていたとしても、発信している「わたし」と受け取る「あなた」の関係性なのだ、と教わってきたように思います。
ラジオでよく耳にする「あなたの……」という主語は、そういった所以です。
もちろん、演劇にもそういう視点は不可欠だと思います。
ラジオに関わり始めた当初、わたしは自分の考えを言葉にするのが不得意で、そもそもちゃんと喋れるか不安でした。けれど「目線の違う意見でも良い」とか「喋ってること以上にいろんなことが伝わるから大丈夫」などいろんなアドバイスをいただき、今もなんとか気取らずに出演させていただいてます。
番組では取材をする立場になることもあります。
取材の場面では特に「あなた」「わたし」という主語について、自分なりの理解ができました。
「取材をする」立場ですくい上げたい言葉
「これからあなたを取材します」という雰囲気になると、慣れている人ならともかく、一般的には身構える人が多いと思います。
わたしも緊張しいで気持ちはよくわかるので、せめて取材する側になった時は、アシスタントという立場を利用して、雑談を交えて、話しやすい環境作りを心掛けています。
取材の構成は事前に決まっていますが、流れによっては話が脱線することもあります。全然悪いことじゃありません。脱線って結構大事なんじゃないかなと思います。話すべき事柄以上に、その人らしさが出る気がするからです。
ある高校生の一言
昨年、市内の高校生たちの、とある活動を取材しにいった時のこと。
生徒さんの内の一人が遠慮気味に「学校に行けなくなった時期に……」という言葉から話し始めてくれました。
本題から少し逸れるかな? とも思いましたが、なんだか気になって「もう少しその話を聞いてもいい?」と尋ねてみました。
繊細な話題に触れてしまったかもと心配しましたが、その子は学校に行けなかったことをきっかけに先生たちとの交流を経て、本題の活動に関わるようになったと話してくれました。「学校に行けなかったこと」を抜きには語れない話だったのでしょう。
……そうなんだよな。考えてみたら、聞いて欲しくないことはそもそも言葉にするはずが無い。
高校卒業後の進路について聞くと、その子の背景を知れた分、人となりを感じる筋の通った目標を教えてくれました。
「あの言葉を聞き漏らさないで良かった!」と心底思った出来事でした。
演劇では「台本(のセリフ)に正解が書いてある」とよく言われますが、日常会話にも当てはまると思います。誰かに喋りたい言葉のほとんどは「聞いてほしいこと」なんだなと。
そういえば、どこかで聞き齧った話ですが。
狩猟時代から人間は、所属するコミュニティの中で自分が有益な存在であることを示すため、情報共有として自分の話や他人の話──つまり世間話や噂話をしていたそうです。不要だと判断されると殺されることもあり、石などで殴られ損傷した頭蓋骨も発掘されているんだとか。
つまり「わたしのことを知ってほしい」という欲求は、言葉を取得した人間が培ってきた、生きるための本能なのでしょう。
それなら逆に「話を聞くこと」は、目の前の人の尊厳に関わる行為であるとも言えます。
あの高校の取材以来「相手の話をどうすくい上げられるか」ということを大事にしたいな、と思うようになりました。
さて、演劇の話をします。
一般の人たちと創作する演劇
今年に入ってから『まつもと演劇工場2023』という企画に講師という立場で関わっています。一般の人たちが週末に集まって作品を創作し、3月末に発表会をするのが最終目標。
他の講師陣が別の現場も抱えているため、講師がわたし一人の日もありました。
公募で集まったのは10代前半から60代後半の約20名。初心者から演技経験者まで様々。限られた日程の中、ほとんどの人が初めましての状況で作品創作をするのは、そう簡単なことではありません。
講師という肩書きは恐れ多いけれど、少なくとも一俳優として手伝えることはコミュニケーションを取れる環境作りだ! と考え、わたし一人で進行する日はシアターゲーム(演劇の要素を取り入れた遊び、と思ってください)をあれこれ提案してみました。
密かなテーマは、とにかく会話をすること。
例えば、一対一で。グループ毎で。あるいは全員で話ができる遊びをしてみたり。盛り上がるゲームの中でも、できるだけ目配せしたり、呼吸を合わせたり、といった相手を意識する内容を選びました。
(マスクで顔の半分が見えず身体には触れられないという制限もあり、なかなか大変ですが……)
全然知らない人に向けて「自分の意見を喋って!」というのはなかなか難しい。だから、その人の周りのもの、例えば大事な物についてとか、あるテーマを起点として議論してみるとか。言葉をどう拾って返せるか、あるいは無碍にできるか。そんなことを試せたら……という思いで取り組みました。
それがうまくいったかどうかはともかく。
プロの作品じゃないからこそ、結果ではなく過程に拘りたいなと思っています。演劇の基本以前に、人として大事にしたいことがそこにあるような気がするから。
最近ずっと「これからわたしは演劇人として振る舞えるかなぁ」ということを考えているのですが、演劇以外の観点を持つやり方がわたしの演劇人としての在り方であり、生き方なのかもしれないな、と思えてきました。
また、今もこうして自分の考えを言葉に表して、ご覧いただいて、自分の存在を確認させていただいているわけです。
読んでくださってありがとうございます。
さあ、いよいよこの連載も来月で最後。
どうぞ最後まで、よろしくお願いいたします。
2023年2月17日 下地尚子
下地尚子の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/m1cb913220d43