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少年少女よコミケに走れ。~ティーンの同人活動が小規模ビジネス経験のメリットだらけだった件~
こんにちは、リアル孟母ベティです。三か国(香港・日本・オランダ)での子育て経験を通して教育について記事を書いています。
今年4-7月におおがかりな親と子のための連続教育オンラインセミナーをやらせていただけることになりました。これについては、案内できる状態になりましたら、NOTEでもお知らせさせていただきますね。
上記セミナーは各回ごとに講師の方をお招きして、子育ての視点から仕事やお金の話を聞く、という構成になっており、各回ごとに分冊したkindle出版本を出す予定です。
セミナー開催とkindle出版の準備を進めていて、なんかめっちゃ懐かしい気持ちになったのです。なんかこれ、知ってる、なんでこんなことサクサクできるんだろう・・・・そうだ!私は本を作っていたことがあるじゃないか!と。
1996-2000年ごろに私は高校生の年齢で、同人誌の制作販売活動をしていたのですね。もはや25年ほど昔のことになり、すっかり自分でも記憶のかなたにいってしまっていましたが、当時は「ただの趣味」「楽しい」しか感じていなかった経験が、こんなにいろいろなメリットを内包しているということに改めて気づき、ティーンの同人活動のメリットについて今回ご案内したいと思います。
商品制作の全プロセスを体験できる
まず、これです。
①自分で本の内容を考えて
②制作して
③印刷会社にお願いして、本を製造
④それを自分の手で売る
⑤金銭管理をして、再投資する
今振り返れば、どんな会社に入ろうが、①~⑤までをすべて包括した職能はおそらく存在しない、ということがわかります。たとえジャンプの編集者になろうが、関われるのは①~③までです。本だけでなく、商品企画とかの職に就いたとしても、同じですね。どんな業界のどんな職でも、上記すべてのプロセスを一気に経験する職場は無くないですか?
なんという貴重な体験をしていたのかと思いました。
それぞれの段階で得られるスキルを下記していきます。
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①商品企画
まず、自分ひとりでやるか
人とずっと一緒にやるか(サークル結成)
その本だけのタスクフォースを組むか(アンソロジー本制作)
どういう単位で活動していくか指針を立て、参入したいジャンルでどんな本が出ているか、どんな傾向があるか、売れ筋、売り方、販売時期を考える。売れているサークルの本なんかも研究したりですね。マーケティングや競合他社調査という視点も入ります。
印刷会社にお願いするなら、部数や、印刷の内容を予算と相談しながら決めつつ、本1冊の売価を決めるわけです。
印刷会社にお願いしなくても良い方法もあり(コピー本)、きわめてローリスクから参入可能。
②制作
いつ、どこで行われるイベントで売り出すかを決めたら、スケジュールを立ててプロダクションマネジメントをしつつ、自分で制作します。今はネットでも販売できますし(当時はコミケか郵便通販だけでした)。人と一緒に制作するなら、その中で調整や管理能力、チームで働く力が磨かれていく。現在はPCでの制作が基本ですから、そこでさまざまなDTP(デスクトップパブリッシング)アプリの知識もつくわけです。
③本の製造
同人誌専門の印刷会社は多数あります。自分の予算ではフルカラーは無理だけど、2色刷りなら、とか考えつつ、各社に相見積を取るんですね。ここで、印刷の基礎知識(ページ数や台割、紙の種類や価格、印刷の色の原理や箔押しなどの特殊技術)と、予算内でやりくりして商品を製造・時間管理をする経験が出来ます。
④販売
コミケに参加者としてブース代を払い、予約。会場までの地理を確認して、自分の本・展示什器の郵送・搬入方法検討や、ブースのディスプレイ、複数人で売り子をする場合などを想定して、スタッフのシフトを組み、金銭管理方法を決める。
搬入可能時間や商品展開の時間、撤収するための準備時間の逆算など、当日の行動時間割もここで頭に入れるわけです。
そしてコミケ会場では、同じジャンルの作家さんたちと仲良くなって、新しい本の企画が動き出すなど、ネットワーキング的側面もあり。
大規模にやっていらっしゃるサークルになると、遠方開催のコミケで自分が売りに行けない場合、委託販売を依頼したり、請けたり、ということもあります。
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⑤再投資
めでたくコミケにて販売できたら、回収できたお金を元に、また次の本の企画をする。ビジネスにおける再投資ですね。
今回の本の売り上げからフィードバックを得つつ、次に活かす。
やっているときは何とも感じませんでしたが、15歳くらいでこのプロセスを全部管理していたとは、なかなかすごいなと。
進学校の鉄道研究会なんかが、鉄道オンリーイベント(作り手もファンも多くなければオンリーイベントは成立しない)で本を出していますが、中学生でもこういうことをやっている子たちはいる。
スキル・経験面メリットを書き出してみた
得られるメリットを書き出してみました。最低予算2万円くらいで、これだけのことが身に着けられます。
ビジネスのセンス、リテラシーが身に着けられる
小規模ビジネスで試行錯誤する経験
ブランディング・マーケティング視点
制作スキル
売価設定や収支計算の知識
印刷スキル
プロダクションマネジメント
チームマネジメント
販売管理経験
金銭管理経験
予算管理(収支管理)経験
(ものすごく売れれば)納税体験
(売れなくても)失敗するという経験
とくに、小規模ビジネスで、商品が売れないとか、物と売るということがいかに大変か、ということを若いうちに、致命傷にならないような規模で、楽しく体験できるというのが最大のメリットかと思います。そういう体験をしたことのない公務員・昭和のサラリーマンの方たちが、退職金をぜんぶブチ込んで、いきなり蕎麦屋を開業する、みたいなことになりがち。いまだったら簡単に副業詐欺にひっかかったり、とかですね。株式投資とかも小規模で経験していくことが大切だって、いろんな有識者が情報発信されていますね。
「物を売るのがいかに大変か」「素晴らしいものを作ったとしても、売る努力なしでは売れない」「致命傷にならない範囲でまずはテスト的に参入する」「小さいところから経験を積みフィードバックを得て試行錯誤していく」という、そういうリテラシーを身に着けないと、いきなりそういうことしがちになっちゃうらしいですし、身に着けるためにはやってみるのが一番!
精神面での多大なメリットを書き出してみた
責任感
やりぬく力
達成感
自己理解
自己効力感
自己管理
誠実に対応する力
内発的動機で行動する力
世代を超えて色んな人と知り合う中でのコミュニケーション能力
好きなことを楽しむ力
情熱を傾け創作物を発表して認めてもらう喜び
「世の中上には上がいる」「自分にはこれはとてもできないな」「でもこれは出来そう」みたいな、自分の得意不得意を知るという自己理解にもつながりますね。一番言えるのは「好きなことをして楽しんでなにかを作るって楽しい!」ということ経験できること、ですね。そして何歳であろうが、みなさん同人作家としては一定の一人前扱いをしてくれますから(礼儀正しい人が多いのです)、一人前扱いされることで、メンタル面が育ちます。
こんなに色んな「まさにメリットしかない」経験が、数万円でできるのですから、塾とかに払って数時間講義してもらって得られるものと対比させれば、ものすごくリターンが良い体験だと言えます。
ぜひ少年少女のうちに、自分が好きなジャンルを見つけて、一冊でも本を作ってみて欲しい、と思いました。(別にアニメの二次創作だけが同人誌というわけでもなく、趣味の調査を極めた学者もびっくりな報告書みたいな本や、オリジナルの一次創作もたくさんありますので)
受験の邪魔にはならない
「受験勉強の時間が減る」というデメリットを指摘される方がいらっしゃると思いますけれども、今は年々一般入試(学力入試)の枠が減らされ、総合選抜という形式が導入されている時代です。
記憶力や情報処理能力に価値を置く社会は、現時点でもこれだけ下がってきている。
そして情報処理能力の価値は、これから5年10年後、どんどん下落します。これは断言できます。なぜならそこはAIの得意分野だからですね。
今後子供が求められていく能力とは何か?情報管理するリテラシーや情報の編集力です。正解のない世界で自分なりの答えを出していく力です。ティーンが出来る情報編集経験としても、回答の無い世界で自分の回答を創り出していく経験としても、同人誌制作は取り掛かりやすい。
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内発的動機で生きる経験は、子供の人生の財産に
さらに感じるのは、「内発的動機でなにかをする」という経験をできることは、子供の人生を長い目で見た場合、得難い力になり、子供自身を助けてくれる、ということです。
大学3年生くらいになって、「やりたいことがわからない」と言って退学してしまう、みたいなケースが増えていると聞きますが、親や教師にいわれるままに勉強してきた、つまり外発的動機によって生きてきた真面目な子が、こういう迷子になってしまう。
きっと、内発的動機を探求する時間ももらえなかったのだろうと思います。
なので、子供が自分の好きなことに打ち込めるような時間を作ってあげることが重要だなと。私の考える「おうちオンデマンド教育」とは、親から何かを用意するだけではなくて、子供の経験機会自体を親が作ってあげることも含みます。
そして、内在的動機を楽しみイキイキ人生を楽しむ大勢の大人がこんなにたくさんいるんだと知ることで、ティーンが「人生に対して安心できる」ようになって欲しい、とも願います。
どういうことかと言いますと、学校塾家を往復して生活しているティーンは、「さまざまな生き方」「人生の楽しみ方」を目の当たりにする機会になかなか恵まれません。とくに大人が本気で遊んでいる・心から人生を楽しんでいる場面を見てることは少ないと思います。(ご両親がよっぽど多趣味とか友人が多いタイプではないかぎり)
ニュースを見ていると、「日本は決して景気は良くなく少子高齢化で自分たちが大人になった時も税金が高く、なおかつ老後資金を何千万貯めねばならない。苦労ばかりがこの先待っている」くらいしか大人の生き方としてイメージできないのではないでしょうか。それでは苦しすぎる。日本経済の展望は色々難しい状況もありますが、そんな中でも、自分の好きなことで人生をエンジョイしている人は大勢いるんだ、人生には楽しいことも待っているんだ、ということをティーンに知って欲しい。
こんなに大勢の人が料理が出来て本が作れる日本はすごい
常々思っていたんですけれども、日本の方は、大勢の人が料理を作ってレシピや写真を発信していますが、これは世界的に見てものすごく珍しい状況です。一般人のランチボックスを取材して回るような番組が成立するんですよ?
同じく、趣味の創作活動が年間800億円以上という巨大な規模で行える日本人ってすごいなと。大勢の人が創作を発表するスキルや教養があるのです。こんな国は、ほかを探してもちょっと存在しない、のです。これは日本の強みです。
(コロナ前は日本全体の同人誌市場全体の規模は1000億円あったとも見ました)
ぜひ日本の特異な状況を活かしてティーンのうちに得難い体験をしてほしいなと思います。
2025.1.30
新種の虫はずっと昔から庭にいましたよ
何のことかと言いますと、「ネットワーク・横のつながりでの働き方」とか「ボスはいなくて参加者全員で意思決定していく働き方」とか「ワーカーズコレクティブ」とか、今頭の良い東京とかの意識高い系の方が注目していらっしゃる、「21世紀型の新しい働き方」ってやつについて。
(ワーカーズコレクティブとは「働く人全員が出資し、経営に責任を持ち、労働も担う働く人の協同組合」のこと。画像も下記NPO法人ワーカーズ・コレクティブ協会より)
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これは、上記同人誌の共同制作本の作り方、まさにそのものなんです。
そして同人誌制作界隈の方々は、それを1970年代からやっています。
ずっと庭にいてよく見慣れていた虫が、「新種の虫発見!」みたいにニュースで「発見」されたような不思議な気分です。
2025.2.15