企業経営者に聞いてほしい 変革の時代 経営者はいま、何を大事にするべきか?【シブサワ・アンド・カンパニー 渋澤健氏×ベター・プレイス代表森本】
ベター・プレイスでは、「ビジネスを通じて、子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会をつくる。」という企業理念を実現していくために、人々が「お金の心配なく」、「自分らしく働ける」社会を創っていくにはどうしたらいいのか、弊社代表取締役社長である森本が経営者および著名人の方と話し合うYouTube番組を開設しています。
今回は、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社の代表取締役社長、コモンズ投資株式会社取締役会長であり、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」の有識者メンバーも務められている、渋澤健さんとともに、「新しい資本主義」とは何か、「資産倍増計画」とは、人口減の時代に日本はどう戦っていけばいいのか、について話した対談の様子をお伝えします。
・渋澤健氏
シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役
コモンズ投信取締役会長
・森本新士
株式会社ベター・プレイス 代表取締役社長
岸田政権が提唱する「新しい資本主義」を徹底解説
森本:本日はシブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役社長、コモンズ投資株式会社取締役会長である渋澤 健さんをお招きして、「変革の時代に経営者は今、何を大事にしなければならないのか」というテーマでお話を伺います。澁澤さん、どうぞよろしくお願いします。
渋澤:よろしくお願いします。
森本:渋澤さんは、あの渋沢栄一さんの玄孫(孫の孫)でいらっしゃって、経済界、金融界の有名人であり、日本と欧米を行ったり来たりしながら多様な視点から提言をしてくださり、僕がたいへん尊敬している方です。
渋澤さんは岸田政権の「新しい資本主義実現会議」有識者メンバーでもいらっしゃいます。最初に「新しい資本主義」について教えていただけますでしょうか?
渋澤:新しい資本主義については、資本主義ではなく分配政策ではないかといった声があるのは承知しています。
しかし「成長か分配か」の二択ではなく、「成長と分配」が新しい資本主義です。成長しなくては分配の元がありませんから、成長と分配はぐるぐる回っているのです。要するに、お金を社会に分配することによって、それが社会の成長に繋がり、成長すれば財源ができるという考え方です。これが好循環であり、「新しい資本主義」が目指しているところ「Where」ですね。
では「なぜ新しい資本主義が必要なのか」という「Why」についてです。岸田総理はロンドンで行った演説で「環境や社会の格差といった資本主義が取り残した要因(外部不経済)を放置せず、それを資本主義の中に取り込んでいくため」と触れています。つまり、これまでは環境問題や社会課題を「取り残してきた」わけです。
次に「What」、新しい資本主義とは何かを考えていくと、「取り残さない」包摂性があるもの、つまりインクルーシブな資本主義だと私は思っています。
では、新しい資本主義を「How」どうやるのですか?については、2022年6月に実行計画が発表されています。
実行計画をひと言であらわすと「人的資本の向上」つまり「人への投資」です。日本社会だけでなく、グローバルな視野でひとりひとりの価値を高めましょうということです。それによってインクルーシブな資本主義が可能になるのではないか、こうした大前提のフレームワークがあることを皆さんにぜひ知っていただきたいと思います。
森本:私たちとお付き合いのあるお客様は福祉に携わる方々が多いわけですが、世の中に欠かせない仕事をしているにも関わらず、賃金水準は平均と比べても低い。ベター・プレイスは、一生懸命に働く方々が希望を持てる社会を創る企業でありたいと思っています。そこで岸田総理の「所得倍増計画」に深い関心を持ちました。
渋澤:所得を上げるには会社の価値を上げることが重要だと思います。
今はITの流れがあり高度人材が求められているので、必要なスキルアップをして賃金を上げていきましょう、というのも1つの考え方です。
さらに、労働環境の大きな課題として日本では約4割が非正規雇用という点があります。
正規・非正規についてきちんと整理していく構造改革も必要でしょうし、労働市場のあり方を変えていかないと賃金はなかなか上がらないでしょう。
昭和の成功体験である年功序列や終身雇用が今なお続いていますが、新しい資本主義では、新陳代謝を高める、労働市場の流動を高めることが賃金や所得アップに必須であると考えています。
「資産所得倍増計画」は資産がない人たちのもの
森本:新しい資本主義では、先ほど話に出ていたように当初、岸田首相は「所得倍増計画」とおっしゃっており、それが「資産倍増計画」という言葉に変わりました。資産倍増はとても大変だと思うのですが、渋澤さんはどうお考えでしょう?それから、そもそも資産がない人はどう資産を作っていけばいいのか、ぜひお伺いしたいです。
渋澤:実はその「言葉の変化」に私自身が関与した部分があると思っています。ある時、コモンズ投信の社長と「あれは所得倍増より資産倍増だよね」という話になりました。確かにそのとおりだと思ったので、次の有識者会議で「これは所得より資産の倍増を目指すべきではないか」と提言しました。
実はつみたてNISAの制度が始まってから20代、30代の投資信託の口座は増加しています。お金を持つ層よりもお金を持っていない若い世代が、投資信託を始めています。
資産所得倍増というのは、お金がある人のことではなく、もともとお金の少ない人たちが長期的に積み立てた時にどれほどの資産を蓄積できるかがポイントなのです。
給料を生活費や娯楽のために使う以外に、一部を将来のために積み立てていきましょう、と。資産形成とはこういうことだとわかれば、所得の余裕が出てくるステージになった時に、積立額を増やすことができますしね。
将来のために積み立てるというのは、今すぐ儲かる・今すぐ倍になるのではなく、時間をかけて倍増させていくことです。森本さんもご存知の通り、利回り8%が10年続くとおおむね「倍」になるわけですよね。もちろん、毎月分散して買うと同じ計算にはならないのですが、10年、20年と積み立てていけば十分に倍増する可能性があると思います。大きいお金を倍増させるほうが難しく、ベースが少ない方が実は「資産を倍にしやすい」のです。
そういう意味でつみたてNISAはとても簡単でわかりやすい制度です。今だと年間40万円、積み立てて儲かった分には税金がかかりません。だけど、この制度は積立から最長で20年と期間が定まっています。20代、30代が使っていることを考えると、20年後は40代、まだまだ現役ですから、もっと積み立てる期間を与えるべきだと思いますね。
つみたてNISAは0歳から100歳まで全国民が使えます。それを恒久化することが大事ですと提案したのですが、その後、資産所得倍増計画という言葉に変わりました。
森本:実は渋澤さんが仕掛け人だったのですね。
渋澤:重要なのは「投資はお金がある人たちだけのものではない」こと。ここを皆さんに知っていただきたいのです。資産形成ができていない人が、これから少しずつ積み立て運用していくことによって、10年、20年、30年後に資産が形成できる、それを政府は税制で応援します。「資産所得倍増計画」はたいへん理にかなっていると私は思います。
森本:僕も今の20代30代が証券会社の口座を開くのは理にかなっていると思うし、彼らの将来を見据えたら年金が先細りするのはわかっているので、スマートな投資家になろうとするのはとても理解できます。
森本:では、個人のプチ資本家は、どういう物差しで投資をしていけばよいのでしょうか。
渋澤:物差しというのは、いわば共通言語ですね。どのような立場であっても、物差しを使えば「これはそうだよね」という共通認識になります。
これまでは経済的な物差ししかありませんでした。
わかりやすく言うと、売上や利益は数値化できるものですから、誰でも数字を見て、良し悪しを判断できるわけです。そのことを否定するわけではありませんが、会社という存在は環境や社会にマイナスのインパクトもあるけど、ポジティブなインパクトもある。だけどインパクト(社会や環境に関する効果)と言っても、まさに物差しがないからわからないんです。わからないから、数値化されてわかりやすい経済的な物差しだけで見てしまうというのが今までの流れでした。
最近は、こうした数値だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス、会社が長期的に成長するのに必要な3つの観点)によって企業を評価するようになってきています。さらにポストESGとして、今のインパクトという考え方があります。
会社の社会における価値は、経済的であるだけではなく、環境的、社会的な価値もあるわけです。こちらについても、きちんとした物差しを作りましょうという流れが、実は今、始まっているところです。
森本:ひと昔前だと企業はCSR(企業の社会的責任)として、こんな社会貢献をしていますという情報を出す程度のレベルでしたが、今は本当にそれをやらないと投資されなくなる時代に入り始めたのですね。
渋澤:投資だけではありません。少子化が進み、若い人は減っていますが、彼らはテクノロジーで多くの情報を得ています。
もし就職しようとする会社候補がA、B、Cとあって、BとCはブラックで、Aはグリーン。それもお化粧されたグリーンではなく、本当にいろいろなことに取り組んでいるグリーン企業(環境への配慮に積極的な企業)であるとすると、当然ながら優秀な子たちはAに行くでしょう。
そう考えると、これは消費者も同じ行動に出ると言えます。企業にとって大切なステークホルダー、株主従業員、そして消費者がその意識を持ち始めると、企業も当然グリーンへと舵を切ります。財務以外の企業が生み出す価値がもっともっと重視されるでしょう。
そのような時代の流れがきていることは確かですが、一方で戦争もあり、そんな悠長なことは言っていられない、今儲けなくては!という流れもあることは否定しません。
でも、ベター・プレイスはどちらなのかと考えたら、「会社・消費者・従業員・株主が、良い環境および良い社会を作ることで協働しましょう、一緒に働きましょう」という流れに行くほうが、それこそベターだと私は思います。
森本:今おっしゃった意味では、ベター・プレイスとして、たとえば会社でみんな笑顔が溢れて仕事をしている、それこそ経済指標に置き換えられないことですが、そうした「企業の価値」も大事ということなのですね。
人口減、日本はどう戦えばいい?
森本:今回のテーマは「経営者は今、何を大事にしなければならないのか」です。どこに軸足を置いて経営すべきかのアドバイスをぜひ聞かせてください。
渋澤:ひとつ言えるのは「俯瞰力」です。経営者は当然目の前で起こっていることは常にわかっていないといけないし、そこでさまざまな判断を求められます。だから経営者はフワっとではなくて、現場のことをきちんとわかっていないといけないと思います。
しかし、経営者は時代の流れや環境がどう変わっているかを見る目も必要です。よく言われるように、「虫の目だけではなく、鳥の目を持つこと」が大事だと思います。俯瞰する視点を持っていることですね。
そもそも経営というのはとても難しい仕事です。なぜなら、いろいろなステークホルダーがみんな違うことを言うからです。
お客様は「値段を下げて」と言う。
従業員は「お給料を上げてください」と言う。
株主は「株価を上げて」と言う。
どう考えてもその3つは合いません。しかし「これはトレードオフだから合いません」と匙を投げるのではなく、いろいろなステークホルダーの要求を見て、もっとも適切な組み合わせによって「新しい価値を創る」ということが経営者には求められます。
自分の視点だけでは見えるものは限られています。だから経営者こそ「俯瞰する」ことが重要なのです。
森本:今後、強烈な人口減少に見舞われ、毎年の人口減少だけで年間で0.6%くらいGDPを押し下げる圧力があると言われています。これに対して、どう戦っていけばいいのでしょうか?
渋澤:GDPはひとつの物差しであって、無視していいわけではないにせよ、それだけを物差しにするのは少し違うのではないかと思います。
未来を見てダメだと失望しているのは、要するに昭和時代の成功体験の延長線上で未来を見ているからです。昭和時代の成功体験は、大量消費、大量生産の上に成り立っていました。しかし、今は違うわけで、どうしたら大量生産・大量消費だけでない中で豊かな社会を築けるのか、それが今、我々の宿題だと思っています。
さらに若い世代は、日本では「人数が少ないマイノリティ」ですが、彼らはデジタルネイティブであり、インターネットで国境のない世界と常時繋がっています。日本で暮らしている、もしくは日本と仕事をしている、そして世界と繋がっているということになると、ミレニアル世代やZ世代などの若い世代は実は、マイノリティではなく一番人口の多い「マジョリティ」になるわけです。そう考えると新しい時代に、新しい価値観で、新しい成功体験を十分に作れる可能性があるでしょう。
大量消費・大量生産の「Made in Japan」で大成功した昭和時代。バッシングを受け「あなたの国で作ります」という「Made by Japan」の平成時代。
では、令和はどうでしょうか。高齢者と少子化社会で私が求めたいと思っている新しい時代の成功体験は「Made in Japan」「Made by Japan」だけでなく、「Made with Japan」です。「豊かな生活」、「持続可能な社会」を日本と一緒に作りましょう、ということが実現できれば、これからも十分に豊かな生活が送れると僕は思います。
森本:元気をいただけるお話ですね。人口減少やさまざまな課題がある中で、世界を知り尽くしている方が「Made with Japan」だと、これからの世代・日本が世界と一緒に未来を築くだろうと言ってくださるのは、本当に元気がでます。
あっという間でしたが、今日は本当にありがとうございました。