想いを つなぎたい。私が残したいもの。
「心を燃やせ」
とは、大人気漫画『鬼滅の刃』のキャラクター 煉獄杏寿郎の言葉だ。この一言に、グッときた人たちというのは、多い。かくいう私も、その一人だ。アニメを見ながら、熱いものが頬を つたった。
ただ、この燃やした心の火、私たちは どれだけ つなぎ続けることができるのだろう。
1,200年間、燃え続けている火がある。
比叡山延暦寺にある『不滅の法灯』だ。最澄がご本尊の前で火をともし、以来、ずっと一度も絶やされることなく燃え続けているとされる火。1,200年前の当時の環境から現在に至るまで、火を消さずに灯し続けるため、どれほどの人が心を配り、守ろうとしてきたのか。想像できない数の人々の想いがリレーとして”現在”にまで続いている。そして、変わらずに守り続け、脈々と未来に つないでいこうとしている人々の、その想い。
火、という絶えず揺らぎ続ける儚いものを引き継ぎ、後世につないでいくことの すごさを思う。一度、絶やされてしまっては、意味をなさなくなってしまうもの。絶やさずに、次の世代に引き継いでいくには、さらに多くの人の力が必要だ。途方もない、心の熱量。
私は、そうやって多くの人がつないできたものが なくなってしまう直前の”もの”を、今までに何度か見てきた。
私は着物が好きで、呉服屋に行く。今でこそ着る人が少なくなってしまった着物。けれど、私たちの祖父母の世代には、まだ着物を着るのが日常だった。需要があって、供給する側の生活が成り立つ。着物全体の需要の減少や、機械化による大量生産などの影響は、着物の作り手を減少させた。
「今ここにある物がなくなったら、もうこれは作れないんですよ。」
「ここにある物で、全部なんです。もう、物がないんです。」
呉服屋で何回、そんな言葉を聞いただろうか。
「この職人さんが亡くなったら、この技術を継承する人が誰もいないんですよ。」
何度、この台詞を聞いただろうか。そして、そう言って見せてもらった品は、どれもこれも美しかった。実際に手に取り、店舗に来ていた職人さんの話を聞き、私は、その語られる情熱に涙を何度も落としそうになった。
これは着物に限った話ではなく、日本の伝統工芸と呼ばれるアイテムの多くが、後継者不足の問題を抱えている。
機械でのオートメーション化により、大量生産ができるようになった。それにより、私たちは、ある一定水準以上のものを安価に手に入れる生活が送れている。高価なものを使わずとも、快適な生活が送れることの有難さ。その恩恵を受けていることを否定するつもりはないし、機械化を否定するつもりも一切ない。機械化により私たちの時間、という貴重なものが作られているのも、紛れもない事実。
それでも、
「これ、手作りなんです。」
この一言に魅力を感じる人は、少なからずいる。『手作り』の一言には、そのアイテムを作るのに、その人が自らの貴重な時間と労力を割いた重みが宿る。時として、『手作り』のプレゼントをもらって、
(ありがたい。けど、気持ちが重いな……。)
と感じてしまうことがある。それは、プレゼントに 物理的に存在しない何かを 想起させるパワーが宿るからだろう。完成までの過程を考えたら、それも不思議ではない。
自らの手で作る。
そのためには、まず誰かから、あるいは何かから やり方を学ばなければならない。上手な人たちの技術や手法をマネするところから、全ては始まる。そして、ある程度、基本が身についたら、今度は、それを自分で工夫しながら やりやすく変化させていく。やりやすさを求めると同時に、よりいいものへと進化させていく努力をするのだ。
伝統工芸と呼ばれるものは、それが何十年・何百年という単位で引き継がれてきたものたちだ。基本の手法は守りつつ、それでも その時々の時代に適したやり方や、工夫がゆっくりと時間をかけて重ねられてきた技術の結晶。
その中に、日本の風土であったり、文化であったり。何より、それを つないできた人たちの想いだったりが匂いたつ。
一体、どれだけの数の日本の職人さんや関係者が、少しでも いいものを作ろうと心を燃やしてきたのか。そして、それを受け継ぎ、今につないできたのか。これから先、未来に届けようとしているのか。
火は、一度 絶やされてしまうと、また おこすのに時間がかかる。そして、おこされた火は、今までとは違う新しい火だ。それはそれで、価値あるものに違いない。
けれど今まで連綿と つながってきた職人さんたちの想いを、今ある状態で次の世代に遺していくことができたなら……と、私は願ってやまない。
なぜなら それは、過去から現在を、ずっと つないできた人々の想いをも 一緒に つないでいくことになると思うからだ。
そして、”今”いる職人さんたちが、先人たちから引き継いだ技術と、試行錯誤し苦悩したうえで編み出した技術を掛けあわせたものは、”今”しか存在しない。それがリアルで体験できる貴重な機会は、”今”しかない。
私たちは”今”を生きている。だからこそ、”今”を大切に生きたい。同時に、数えきれないほど多くの人たちが込めた想い、過去から”今”まで遺されてきた人々の想いを、次の世代につないでいきたい。
それが、私の願いだ。
だからこそ、どうやったら 想いの継承が お手伝いできるかを考えながら、今日も私は 言葉をつむぐ。
・職人さんにインタビューさせていただいた記事
伊勢型紙職人 那須恵子さん↓
筒描藍染職人 藍染しんごさん↓
・私が職人さん専門のライターになりたいと思ったきっかけ↓