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より良い指導を考える:指導者が持つべき知識について

はじめに

より良い指導を考える上で、今回は指導者が持つべき知識に注目してみたいと思います。2009年にスポーツコーチング学の先駆者であるCôté氏とGilbert氏の両研究者は、多くのコーチングに関する論文をレビューし、指導者が持つべき知識として「専門的知識」「対他者知識」「対自己知識」の3つに整理しました。

専門的知識

「専門的知識」とは、スポーツの技術、戦術、ルールといった、普段選手に指導している内容そのものです。多くの指導者はこの「専門的知識」を高めようと日々努めていることでしょう。国内では様々な指導・教育に関するセミナーや講座が開かれていますが、その多くは「専門的知識」に関する情報提供のようです。

対他者知識

次に「対他者知識」ですが、これは相手と良好な関係を築くための知識・スキルを表します。具体的には、コミュニケーションスキルや目標設定のサポートなどを指します。近年注目されている「ビジネス・コーチング」もこの「対他者知識」に含まれます。

私が取り組んだ研究では、優れた指導者はこの「対他者知識」を駆使して、選手に主体的に目標設定をさせ、スポーツの中で試行錯誤を繰り返しながら課題解決能力を身につけさせようとしていました。「何を教えるか」以上に「どのように教えるのか」が重要であるということを再認識させられる結果でした。

対自己知識

最後に「対自己知識」です。これは、省察や自己認識を指します。人は無意識のうちに偏った見方をしてしまいがちです。どんな時に自分は感情的になりやすいのか、どのようなことにこだわりを持っているのかを理解しておくことができれば、冷静な判断でコーチングを行うことがしやすくなります。

また、人は自身がこだわっていることや大事にしていることについては反省をしようとしますが、関心を持っていないことについては反省しようとすら思いません。例えば、スポーツ医学に詳しい指導者は選手の怪我の発生を練習量ややり方に問題があったと反省するかもしれませんが、知識を有していない指導者は選手に原因があると考えてしまうこともあります。つまり、人間はどれだけ謙虚でいようとしても、無意識のうちに「反省したいと思っていることだけ反省している」ことに陥りがちです。

この課題を克服するには、常に学び続けて「反省の対象となる領域を広げていく」ことと、クリティカル(批判的)に自身に意見をしてくれる親しい人物に意見をもらう習慣を作ることが重要です。

結論

より良い指導を行うためには、「専門的知識」だけに頼るのではなく、「対他者知識」や「対自己知識」をバランスよく習得していくことが重要です。これらの知識を総合的に活用することで、選手との関係を深め、自身の指導方法を常に改善していくことができるでしょう。

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渡辺 裕也
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