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幸運の消失
毎朝拳銃自殺しろ
そして吹き出す血液と脳漿で顔を洗い、
身支度を済ませて屋上に避難しろ
カメラを向けてくる野次馬は無視して
沈みゆく太陽の黒点を失明するまで漏れなく数えろ
世界は終わりのない退屈なインタビュー、もしくは意味のない記者会見
ありとあらゆる距離を測り、神経症的なまでに詳細な地図をつくるための徒労でごった返している
自由意思の有無を手首の傷跡やスマホの液晶保護ガラスに走るヒビの数で必死に推し量ろうとしても
そのような努力は全くの無駄で
結局のところ世界を劇的に変えるのは純粋な悪意でしかなく、
メタリックな外観の業務用冷凍庫に放り込まれた、スタンダップコメディアンたちの生首の断面に霜が降り積もるのを俺は
汚部屋でカウチポテトしながら傍観するほかない
突然ですがドライブレコーダーの映像です
豪雨、ハイビーム、轟音、ハイビーム、横断歩道、高架橋下のナトリウムランプの連なり
側溝の排水口を詰まらせる塵芥
鉄条網に絡まる野生のアサガオ
下校中の小学生たちはきちんと列をなしてちゃんと歩道を歩いていたのにもかかわらず
そこに時速七〇キロで突っ込んでくる過労運転のミニバン
不愉快で陳腐な露悪だって?
ところがどっこい、身も蓋もない現実でしかない
セルフネグレクトがやめられないし、自嘲と皮肉は止められない
俺は朝露に映る、崩壊を予定付けられた都市の全景を構成するパズルピースのひとつにすぎないのだから
これくらいは許してやってほしい
宿酔とゲロ臭、不眠と過眠、
予定説かぶれの陰謀論者、
毎日午後4時に更新される3桁から4桁の数字
そういった類いのものが無い世界に存在していたいと切実に願っているのだけど
無論叶うはずもないから
アルコールとカウパー腺液で満たされた家庭用ビニールプールの水底で俺は
ゴム製のイマジナリーフレンドと戯れ、お粗末な絶望を紛らわせるしかない
お前らが感じている疎外感はフェイク
その取って付けたような反出生主義や
厭世家気取りの自意識、
お手軽な自己憐憫も
全部、全部フェイク
だけど結局は
ジブンジシンが一番のフェイク
夭逝した天才詩人か、老害と化した桂冠詩人か
どちらにもなれない俺は
「人生百年」と嘯かれる鉄の時代にだらしなく這いつくばって
こないだ値上がりしたばかりの煙草をふかしながら
中城湾から昇る朝日を眺めている
曙光が頬を撫でた瞬間俺は
俺の幸運が消えていくのを感じた
そして仄暗い悔恨や馬鹿げた希死念慮が
ポケットの中に入っていた不織布マスクの製品合格証の、中国語と英語が印字された検品スタンプの放つ、赤色の鮮やかさに収斂していき、そのまま二度と戻ってこないような気がした。
いや、知らんけどさ。おそらく、たぶん。