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サトウキビ畑や芋畑に囲まれた集落の 灯が消える、ぽつりぽつりと ピックアップ・トラックの男はひとり 鎧戸を下ろした商店の軒下で血痰を吐く 頬には雨粒が伝い 犬の遠吠えを染み込ませた人影は、四方八方に延びて銀合歓の茂みへと消えてゆく 母は狂死 継父は蒸発 姉は縊死 木造平屋の呪われし家はとうの昔に焼けて跡形もなかった 『バイアグラ 個人輸入可』 『クレジットカード 現金化』 電柱に貼られた二つのチラシは音もなく色褪せて、 草むらでしわくちゃに丸まっているエロ本の広告が、生殖と蓄
檳榔の葉と赤い実、 夜明け前の清冽な空気。 在るべきものはすべて在り、 刻とともに満ちる潮、 水平線を掻きみだす砂糖黍の葉群、 琉球黒檀の葉のしずく。 電線から飛び立つイソヒヨドリの群れが、 それらを高らかに笑う。 おぼろげな暁光が静寂をつくり、そして 影と輪郭をえがきだす、 その刹那の階調。 島の脊梁に沿って吹きさらす北風が、 畑へと歩む謹厳な農夫に、一年と一日の始まりを告げる。
あなたの眼のなかの海に独り溺れたい あなたの手のひらから離陸する爆撃機に焼き払われたい あなたの唾液で酩酊し ついでに重低音の効いたTrap Beatで踊りたい そういう願望に取り憑かれては 精液と残尿でシミだらけの、ペラペラの布団に酒を持ち込み、あおり、そして突っ伏す(実に私小説的だ) そして夜中に目が醒める 吐き気を抱えて外を歩く 煙草を吸いながら 高台の公園の展望台からしょぼくれた夜景を見下ろすと 電照菊の電球の群れが干潟の砂州のように地表の闇から浮き出ている カナブン