「ホップステップだうん!」 Vol.186
今号の内容
・巻頭写真 「診療所の暖炉」 江連麻紀
・第3回 「当事者研究ナレッジベース」のお知らせ
・ べてるカレンダー&スケジュール張 2020 大好評発売中!
・ 毎日出版文化賞の授賞式スピーチ 全文
・続「技法以前」159 向谷地生良 「花巻の原則-その3「積極的関心、積極的迎合」
・ 伊藤知之の「スローに全力疾走」 第100回「50歳を迎えて 『人生会議』のポスターに思う事」
・ 書評「六号病室」(チェーホフ)宮西勝子
・福祉職のための<経営学> 048 向谷地宣明 「ノンマイノリティポリティクス」
・ぱぴぷぺぽ通信 すずきゆうこ 「幻聴さんも聴いている!(2)」
「診療所の暖炉」
2014年5月1日に川村敏明先生が地域に根ざした精神科クリニックとして開院したひがし町診療所。
私がはじめて伺ったときに川村先生がまず案内してくれたのが暖炉でした。
「この暖炉は暖房のためじゃないんだよね。暖炉は見た途端に炎が心に安らぎを与える作用がある。昔から火の回りに人が集まってくるでしょ、みんなが安心するんじゃないかと思ってね。私の趣味だね(笑)」と教えて下さいました。
明日からもひがし町診療所の暖炉はみんなの心を温めています。
(写真/文 江連麻紀)
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第3回 「当事者研究ナレッジベース」のお知らせ
浦河べてるの家で当事者研究がはじまって18年が経ちました。当事者研究を現場や暮らしに活かしていくには、数多くある研究事例を吟味し、理解していくことが有効です。
今回はその「当事者研究ナレッジベース」の第3弾です。
研究成果として発表されているものだけを見るのではなく、当事者研究の過程やどのようなアプローチがされていったかをたどることで当事者研究を実践していくための「研究思考」とその実践を共有していきます。
日時:12月21日(土)13:00〜16:00
場所:就労継続支援B型 Base Camp(東京都豊島区要町3丁目22-10星野館ビル 401)有楽町線/副都心線 千川駅 徒歩1分
講師
・向谷地宣明(NPO法人BASE代表理事)
・当事者研究の研究者
参加費:2500円(資料代込み)
定員:25名
● お申し込みBase Campホームページの問い合わせフォーム、もしくはinfo@base.or.jpに氏名、連絡先をお送りください。
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毎日出版文化賞授賞式 スピーチ全文
向谷地
ただいまご紹介にあずかりました、北海道にある浦河べてるの家から来ました向谷地といいます。ソーシャルワーカーをしています。そして、長く北海道の浦河で共に活動してきた仲間である-
早坂
べてるの家の早坂潔です。よろしくお願いします。
会場拍手
向谷地
私は40年前、地元の精神科の病棟に所属するソーシャルワーカーでした。そして、潔さんはそこに入退院を繰り返す一人の患者。私たちは同じ歳なんですけれど、そのソーシャルワーカーと患者が鉄格子のなかで出会って、以来、潔さんたちと「金儲けしないか!?」というノリで古い教会堂で活動をはじめて、現在に至っているんですけども。
私たちはよく「自己病名」というものをつけるんですけども、私は長年一緒に活動してきた精神科医の川村先生から「注意欠陥多忙型忘れ物タイプ」と言われてるんですけども、潔さんは?
早坂
「精神バラバラ状態」です。
会場 笑
向谷地
この「注意欠陥多忙型忘れ物タイプ」のソーシャルワーカーと「精神バラバラ状態」の患者とがですね、火花を散らしながら古い教会で活動をはじめたのが1984年の4月でした。
その北海道のなかでも貧しい過疎の町の精神科病棟のなかで青春時代を過ごしてきた若者たちと繰り広げてきたトタバタ劇のようなものですけれども、私たちがその「べてるの家」という活動を立ち上げた時に、その当時の精神科医の先生から精神科病棟出入り禁止という通告を受けて、それもべてるの象徴的な出発だったわけですけども、そんな歴史のなかで、私たちはどうやったらお金を稼げるかという、精神科領域では「タブー」だった世界に踏み込みました。
潔さんは、病院の用意するプログラムには全然反応せず、裏切り、順調に入退院を繰り返していたなかで、潔さんが一番目を輝かせたのは「潔どん、金儲けしないか」というこの一言でした。そして、一緒に日高昆布の産直の事業をやりはじめました。
そうしたら、1990年代の後半にですね、医学書院の編集者である白石正明さんが光を当ててくださいまして、私たちのトタバタな日々綴った連載が『べてるの家の「非」援助論』という本になりまして、それが「ケアをひらく」というシリーズの第3巻目を飾り、それ以降4つのべてるに関連する本をシリーズのなかで発信することができました。
私はこの「ケアをひらく」というシリーズの面白さというのは、「ケア」をただのお世話とかいう領域ではなくて、人の営みの最も大切なもの、しかも私たちの視野の外にあるケアに関わる大切な要素を取り込んで発信してきたという意味では、まさにこの精神科領域、苦悩の最大化と言われる現象や現実のなかでもがいてきた私たちに舞台を与えていただいたという意味では、とても感謝しています。
2002年に『べてるの家の「非」援助論』という本が出てから、私たちは「研究」という眼差しを持って自分たちの経験を発信するという試みをはじめたわけですけど、潔さんは「ぱぴぷぺぽの研究」ということをしていますけれども、これは本当に白石さんや医学書院のこのシリーズなくしては生まれなかった。この「当事者研究」の「研究する」という眼差しは、2015年には東京大学のなかにも研究室が立ち上がって新しい学問の領域を発信していったという意味では画期的だったんじゃないかなと思います。
その他、このシリーズのなかにはまだまだ素晴らしい発想やまたはチャレンジが盛り込まれていますので、「ケアをひらく」シリーズはおそらくまだまだ続くんじゃないかと思いますけども、ぜひ手にとっていただければと思います。
早坂
えー、こんな情けない僕たちですけども、みなさんお応援していただいてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
会場 拍手
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続「技法以前」159 向谷地生良
「花巻の原則-その3「積極的関心、積極的迎合」
「あいまいな語りや本人の独特の言葉遣いに対しては、その人の生きる世界を理解するために、積極的な関心を示し、質問や対話を重ねながら聴き、意味を解き明かしていく」
従来の治療や相談援助の基本にある発想は「病理モデル」とか「医学モデル」と言われるものです。簡単に言うと、故障個所を探して、修理するという発想と同じです。人間の体をイメージするとわかりやすいのですが、これを人間の心にも応用したのが、精神分析でおなじみのG・フロイトです。この医学モデルに対して、ソーシャルワーカーは、「生活モデル」を重視した関り、つまり、「病気」を観るのではなく、「生活」に着目するという発想です。しかし、この「生活モデル」にしても、生活上の何が問題かを特定して、解決策を模索するという意味では、「医学モデル」の生活版のようなものだったと言えます。
それに対して、私たちは、「病気の症状は、すべていのちがよくない状態になっていることを教える働きと、回復しようとする自然治癒力の働きをどこかに含んでいる」(神田橋條治)と言われるように、「生活上の問題は、その人の暮らしや歩んできた人生や社会に内在化、もしくは潜在化した生きにくさを教える働きと、そこから立ち上がろうとする回復に向けた働きの顕在化である」と考えます。
そのように当事者研究は、問題意識ではなく、純粋にその人の生きてきた人生や、にも関わらず生きてきた状況への興味、関心、共感、感動、探究心、謎解き、発見、達成感を軸に展開されます。そして、その人が観て、感じている光景、体験している世界に関心を寄せて、ゆっくりと研究的な対話を重ねようと努めるところに特徴があります。つまり、原因ではなく、何が起きているのかの背景と、その背後に隠された意味を見出し、分かち合おうとする態度を大切にしてきたのです。それが「積極的関心」です。
それに対して、「積極的迎合」は、べてるの例でいえば、電波に苦しめられている仲間がいたら、その電波の発信先を特定するために、一緒に現場を訪ねたり、本人の訴えに従って、電波の測定を試みたりなど、当事者の思いに沿ったリサーチや対話を重ねる姿勢、態度を言います。そのためにも「分かりにくい世界を持つ人との対話力」が、求められます。
向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。
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