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「ホップステップだうん!」 Vol.187

今号の内容
・年頭のご挨拶
・巻頭写真 「松村満恵さん」 江連麻紀
・続「技法以前」160 向谷地生良 「花巻の原則-その4 対話のトライアングル(三角形)」
・ 伊藤知之の「50代も全力疾走」 第1回「ピアサポートと当事者活動について再度考える 」
・ のりの気まぐれ通信 バラバラで結構よ No.1
・福祉職のための<経営学> 049 向谷地宣明 「リトリートマネジメント」
・毎年恒例 2019年の一字


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あけましておめでとうございます!

いつもべてるの家の活動を応援していただきありがとうございます。
みなさまにとって2020年が良い年になりますように。
本年もよろしくお願いいたします。

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松村満恵さん

「焼き鳥は動物虐待である」という動物愛護の信念から焼き鳥屋の赤ちょうちんにパンチをして入院となり、そのエピソードから2012年の幻覚妄想大会のグランプリに輝いた松村さん。昨年から夢に見た一人暮らしに挑戦されました。部屋探しのとき、不動産屋さんにペットの有無を聞かれ「ユニコーンを飼っています」と正直に話したそうです。人が勝手に部屋に入り、自分のものを盗むという苦労を抱えながら、みんなの力を活用してはじめての買い物やお料理にも挑戦し、一人暮らしを続けています。

天使の声に耳をかたむけ、世界平和の研究をされている松村さんに2020年がどんな年になるのか聞いてみました。
「2020年は、とにかくラッキーイヤーであり、べてるの民も繁栄します!2020年は、収入よし!結婚あり!わたしなら、神様と絆を結ぶ年かな?」

写真は幻覚妄想大会のグランプリの記念品、天使の羽一式をつけた松村さんです。

(写真/文 江連麻紀)

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2020年最初のPST(1月17日 金曜)19時スタート

「PST」とは、病院や就労支援、訪問看護など様々な現場で支援に取り組むみなさんのあれやこれやといった苦労をともにわいわいと当事者研究していくプログラムです。
2018年9月に就労継続支援B型BaseCampを開所してから、(ほぼ)毎月、支援職の当事者研究~PST千川~を開催してきました。
支援をしているけどなんだか苦労がつきなくてお疲れ気味の方、職場の人間関係に悩み中の方、当事者研究って面白そうだけどどんなものなんだろうと興味がある方などなど・・・ぜひぜひ気楽にいらしてくださいませ。
金曜日の夜、お食事(最近はカレーが多いです、前回はハヤシライスでした)しながらゆるりと一緒に当事者研究できたら嬉しく思います。

日時:2020年1月17日金曜日 19〜21時

場所:就労継続支援B型BaseCamp
(東京メトロ有楽町線/副都心線 千川駅の目の前です)

参加費:1000円(お食事つき)

申し込み
メール info@base.or.jp
電話 03-5926-7418

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あなたの物語を演じます〜プレイバックシアター〜(1月19日 日曜)

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続「技法以前」160 向谷地生良

「花巻の原則-その4 対話のトライアングル(三角形)」

「どんな場面でも、経験や出来事(テーマ・問・課題)を自分たちの前に置き(絵や写真を見るように)探索的、研究的対話を重ねる」

今から三十年も前に出版された「精神療法面接のコツ」(岩崎学術出版1990)に「対話精神療法について」(神田橋條治)という章があり、そこに次のような記述があります。

「嗜癖治療の要点は二等辺三角形の関係をつくることである。治療者と患者が近接した位置に座って、一緒に、患者の真の苦痛を眺め・語ることである。治療者の伴侶なしでの直面は新たな嗜癖行動、たとえば、自他への暴力嗜癖や苦痛嗜癖を生む」

今から40年前、浦河で一番苦労している人を紹介してくださいと保健所の保健師さんにお願いしたところ、一緒に案内されたのが4人の子育てをするアルコール依存症を抱えた元漁師の家族でした。その家族との出会いと関りの経緯は「べてるの家から吹く風」(いのちのことば社)に書かれているので詳細は省きますが、とにかく、いわゆる”腹の立つ経験”ばかりでした。家族を巻き込んだトラブルの喧騒の中に「いつでも、どこでも、いつまでも」のスローガンをかかえ、昼夜問わず、家庭訪問を続け、入院治療にこぎつけるまでが大変でした。入院を承諾し、三ヶ月の入院プログラムを体験し、退院時には、家族や生活保護の担当者、保健師、妻など関係者を交えての退院カンファレンスを行い、本人も反省の弁を述べ、「今度こそ」と思ったのもつかの間、退院して一番先に向かったのは、自宅ではなく、酒屋でした。

依存症を持つ人たちの支援の世界は、もっともストレスフルな現実に私たちを巻き込み、周囲を疲弊させます。そこで、長い間、依存症治療は、治療者側が「病気ではない、性格が悪いのだ」という「性格問題」にすり替えて、専門家自身がこの問題から遠ざかってきました。

私は神田橋の提唱する「嗜癖治療の要点は二等辺三角形の関係をつくること」を知ったのは、数年前のことですが、依存症を持つ人たちとの関りを続ける中で、身に着けたのが、「ユーモア感覚」と「外在化」の知恵でした。そして、それをもっとも発揮しやすい「対話の構造」が、この「三角形」をつくるということでした。

実は、この三角形をつくるというのは、そんなに単純ではありません。世の中は、得てして「白」か「黒」を求めたがりますし、「受身」より「能動」を好みます。しかし、現実の私たちの暮らしにおいても、「問い」や「疑問」と「答え」、「結果」の間に距離があり、私たちが一番苦手なのが「曖昧さ」や「不意確かさ」です。人生は9割がた、この不確かな「グレーゾーン」と言っても過言ではありません。この耐えがたい、不確かさを生き延びる知恵として生まれたのが「研究する」という生き方であり、「立ち位置」です。これは、昨今、注目されているアルコール依存症を持つ人への有効な関りの模索の中から生まれた「動機づけ面接」が重視するinter-vew(inter:お互いに、view:見る)を活用し、2人が並んで座り、まるで風景画を観ながら話すイメージにも近いものです。

向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。

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