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映画「ルックバック」感想

 「エモエモのエモで涙が止まらない!」と覚悟して観たけれど、そういう方向ではなく、もっと繊細で抑制された表現が胸に深く響く作品だった。劇場には涙する観客もいたが、泣かせることが狙いというより、視聴者に問いを残すような映画だった。

 本作は、マンガ『チェンソーマン』などで知られる藤本タツキによる短編アニメーションであり、監督は押山清高(「電脳コイル」作画監督)。1時間という短編の中で、二人の少女・藤野とキョウが、夢と葛藤、予期せぬ出来事を通して成長し、時に別れ、また交わるという感情の変化が途切れなく続く。その繊細な心理描写とともに、手描きタッチの柔らかなアニメーションが魅力的だ。見せ方に緊張感が保たれていて、単なる感動作の枠を超えて、藤本が仕掛けた深いテーマを持った挑戦に、評価せざるを得ない。これは本当にすごい。

「ルックバック」というタイトルに込められた意味

 作品タイトル「ルックバック」も、多くの解釈を引き出す。藤野が追いかけ続けた天才的な、ライバルであり親友キョウの「背中」を追い続ける視点が一つ。また、劇中のある事件により、彼女が過去の「記憶」を振り返る場面があり、そこに込められたメッセージとしても読み取れる。さらには、作品自体が藤本タツキ自身のキャリアの振り返りを投影したものとも考えられ、彼が独自に築き上げてきたマンガ家としての歩みと重ねることもできる。そして何より、視聴者自身に向けて「あなたも自分の過去を振り返ってみては?」と問いかける意図があるかもしれない。その多義的なメッセージが、鑑賞後にも心の中で問いと感想を巡らせる原動力になっている。

音楽と映像がもたらす没入感

 映画全体を包み込む音楽は、柔らかな弦楽が場面ごとに響く。しかし一部の場面では、音がやや強すぎる印象もあり、控えめであればより静謐なシーンが引き立ったかもしれない。ただ、あえて強調したことで藤本の作品に一貫する独自の緊張感が伝わり、弦楽の音が高鳴る瞬間にも観る者の感情を掻き立てる効果を発揮しているように感じた。いや、大きすぎだろ音楽。まあ、あれを静かにしたら「この世界の片隅に」みたいになっちゃうか??

総評

 『ルックバック』は、良作であることに疑いはないが、万人におすすめできるかというとやや難しいかもしれない。藤本作品のファンには深く刺さるだろうが、彼の独特の世界観に慣れていない人には「ふーん?」と感じる人もいるかもしれない。しかし、作品の緊張感、内面の表現、テーマの多義性に惹かれ、この作品の世界に足を踏み入れたいと思う観客ならば、きっと何か心に残るものを持ち帰るだろう。

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