そういえば夏ごろから、就寝前に、いつも日記を書いていたのを思い出した。自分の心境変化などを確認するため。またあまりにも無為に日々を過ごしている気がして、それを省みるため。もう少しこの青春真っ只中の華の女子高生時代というものを有意義に過ごせないだろうか、と悩んでいたのだった。もっとも、日記など書くのは小学生以来で書き方が分からない。三日坊主にならなければ良いが…と思いながら始めたのだが。
大学ノートの殺風景な日記ノートの表紙にタイトルはまだ、無い。誰かに見られると恥ずかしいじゃないですか…。でもページの見開きには、こう書いてある。
それを改めて見て、酷いな、と自分に思いつつもニヤケを抑えるのに若干苦労した。
さて、明日は二学期の始まりであるがまだ時間がある。私は、この秋の夜長に、久しぶりに開いた日記を読みながらあの頃のことを思い出してみることにする…。
7月14日(火)曇り
7月15日(水)晴れ
7月16日(木)登校してみた
(改頁)
7月17日(金)曇り
7月18日(土)曇り
(改頁)
7月19日(日)嵐
7月21日(火) 青空
(改頁)
(改頁)
その時もらったハートの折り紙がページに挟んであった。日記もそれが最後だ。三日坊主はなんとかまぬがれたが、せいぜい一週間といったところか。私にしては、上々。
それから夏休みが終わったこんにちまで、白いおじさんを見なくなった。
神さまはハンドメイドで
空は高くどこまでも蒼く、透き通っていた。始業式はサボったけど、次の授業には最初から出てみた。現代文の女の先生は一学期の間中、生徒から声が小さいといじめられ続けていたからか交代となり、新しい若い男性講師が赴任していた。それでか知らないけど、珍しく私が指名された。朗読だ。で、今回は無視せずに教科書を手にばっと立ち上がると、教室は一気にざわつき始めてゴミみたいにうるさくなったが私は気にせずはっきりと朗読を開始した。
そこまで読むと、教室はいつの間にか息を殺したように静まりかえり耳をひそめていることに気がついた。先生が止めさせて次の人を指名しようとしたが、私は無視して読み続けた。
そこまで読んで、突然のことであるが、私は息が詰まった。
大変困ったことに、涙があふれてきて抑えることが出来なくなった。私は立ったまま肩を落として教科書に顔をうずめていた。大変困ったことに、嗚咽が止まらなかった。教室は息を殺したように静まりかえっていた。講師とクラスメート達は、驚いて私を見る者もいれば、黙ってうつむいている者もいるようだった。ただ、誰一人、文句を言うやつは居なかった。
……
昼休み、唐突であるがいかにもな感じのメガネでおさげの子が声をかけてきた。いつも休み時間一人で本を読んでいて、いつも一人とぼとぼ帰る子だ。目を輝かせながら、文芸部に入らないかと彼女は言った。
文芸部か…。何か部活をするのも悪くないかな。そうだ、それなら自分でクラブを作るのも悪く無いな。ハンドクラフト部とか。
そして小さな神さまを作るのもいい。ハンドメイドで。
「愛って何だろう?」
相変わらずそれは分らなかった。私は若干十六である。多分まだ早いのだろう。
おさげの子に直球で聞いてみた。すると、彼女は、こんなことを言ったのだった。
昔、愛知県に住む友達が言っていた。愛知県という名前が好きだと。彼女は言ったらしい。
「だって、愛を知る、って書くでしょ?素敵じゃ無い?」
そのとき私は突然ひらめいて、鞄からあの日記を取り出しサインペンで表紙に書いた。
「神さまはハンドメイドで」