ロープの基礎知識A(通年・必修)


ロープの特性を知る

世間一般の相場として、初めて縛る(縛られる)ときには麻縄などもっての他、やはり最初はバスローブの紐やネクタイなど「たまたま現場にあったもの」を使うのがマナーで、その後はお互いの合意の元に手芸用の紐→綿ロープ→麻縄→手枷足枷と進んでいく、そんなイメージがあります。

中にはバスローブの紐でさえ変態扱いされる場合もあるだろうし、逆に事前に意志疎通を重ねてきたカップルは初手から麻縄で小手縛り、なんてことになるかもしれませんけど、初心者はありあわせの紐やカラフルな手芸用の紐、そして麻縄はディープなマニアや職業SM屋の使うもの、という認識をお持ちの方も多いかと思います。

でも、本当にそうでしょうか?

堅い繊維をゴツゴツと撚り合わせた縄よりも、編み込んで作られた柔らかいロープのほうが、一見すると確かに「初心者に優しい」ように思えます。ところが実際は逆なのです。柔らかいロープを使いこなすのは実はとても難しく、下手をすると危険なトラブルを招きかねないのです。縛られる側はさておき、縛る側が初心者向けのイメージにだまされて安易に使うと、思わぬ事故を起こす可能性もあります。

このHPでは、紐や縄のことを総称して「ロープ」と呼びます。私たちが縛る対象は等身大のぬいぐるみではなく、生身の人間です。予期せぬ痛みや苦しみ、そして事故や後遺症の生じる可能性を少しでも減らすためにも、ロープの材質や構造の違い、そして特性について知っておくことは、最低限のたしなみではないでしょうか。

構造(1)

まだ化学繊維でロープを大量生産できなかった時代、稲作民族は藁を打って柔らかくし、それを手で撚り合わせて荒縄を作りました。藁に限らず、シュロ(棕櫚)の幹を覆う筋、木綿や羊毛、あるいは植物を腐らせた後に残る繊維質など、細いものからロープを作れることを昔の人たちは知っていました。

たとえば木綿糸からロープを作る場合を考えましょう。木綿糸は直径 0.1mm 以下の細い細い糸ですから、そのままいきなりロープにするのは困難です。そこで糸を数本から数十本束ねて撚り合わせ、少し太い(といってもまだまだ細い)糸を作ります。この糸をヤーン(Yarn)といいます。次にヤーンをたくさん束ねて撚り合わせ、もう少し太い紐を作ります。これがストランド(Strand)。そして、ストランドを3本撚り合わせて作られるのがロープ(Rope)です。

 図1

このような構造のロープを「3つ撚りロープ」といい、大昔から作られていたロープの多くはこの構造です。ストランドが2本でも4本でもなく3本なのは、もっとも形状が安定するからです。図2でもわかるように、3本のストランドは互いに密着して正三角形に近い形になり、ねじれても太さが変わりません。2本や4本では断面が楕円になってしまいます。昔の人たちは3本がいちばん望ましいことを、経験的に学んだのでしょう。


 図2

3つ撚りロープの形状をよく観察すると、ロープとストランドの撚りの方向が逆であることに気付きます。図1でロープの撚りは左巻き、ストランドの撚りは右巻きです。これはロープの品質を高める重要なポイントで、両方とも同じ方向に撚っていたら次第に緩んでバラバラになってしまいます。ロープが緩む方向に捻じれたらストランドが絞まり、逆にストランドが緩む方向に捻じれたらロープが絞まり、常に形状を維持しようとする力が働くわけです。ちなみに細かすぎて図1ではわかりづらいですが、ヤーンとストランドの撚りもやはり逆です。

ところで人間の多くは右利きですから、ロープを手で作るときには「右手を押し出す」向きに力をかけます。するとロープは必然的に左巻きになります。このようにして作られた3つ撚りロープを「Z巻き(またはZ撚り)」といい、逆に右巻きの3つ撚りロープを「S巻き(S撚り)」といいます。

図3

大部分のロープが機械で大量生産されるようになった現在でも、3つ撚りロープはほとんどがZ巻きです。機械ならどっちでも同じように作れるはずなんですけど、おそらく昔からの習慣を踏襲しているのでしょう。私もこのページを作るためにS巻きロープを探し回ったのですが、残念ながら発見できませんでした(図3のS巻きの写真は画像処理で反転させたものです)。

ちなみに天然繊維の中には、もともと太い(直径 1mm 以上の)ものも少なくありません。詳しくは「材質」の項目でお話ししますが、束ねる前からヤーンの太さを持っている繊維は、それを束ねたものがストランドということになります。

構造(2)

3つ撚りロープと並んで、というより現在では3つ撚りロープから主役の座を奪った感のある、もうひとつのロープの構造。それが「編みロープ」です。

3つ撚りロープの構造は単純明快で、細いものを束ねて撚り合わせて太くする、それをまた束ねて撚り合わせて……という作業を繰り返したものです。それに対して編みロープは、繊維をある程度の太さに束ねた紐を芯にして、さらに別の紐を何本も複雑に編んで芯を包み込んだものです。これを手で作るのはかなり困難で、世間で普及したのは機械による大量生産が可能になってからの話です。

図4

編み方もいろいろあって、図4の編み方は「金剛打(こんごううち)」といいます。ロープの表面がかなり凸凹した感じになります。他に「平編み」というのもあって、きし麺のように平たく編んだ紐を、芯に這わせるように編むものです。金剛打よりも表面が滑らかになります。

先ほどお話ししたように、3つ撚りロープは「ロープとストランドの撚りの反発によって形状を維持する」ものです。しかし編みロープはその構造上、撚りに依存する必要がありません。編んだ時点ですでに形状が安定しているのです。撚りがないからロープが柔らかく肌触りも優しい。扱っていても捻じれが少なく、肌触りも優しい。まさにSMにうってつけのロープに思えます。その是非については後でお話しするとして、ロープの構造による特徴をまとめると以下のようになります。

表1

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