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「多様性と調和」を実現するオリンピック・パラリンピック放送とは

オリンピック開会式のテレビ放送に、手話が付かなかったことに対する批判を受け、閉会式では手話の付いた放送がEテレで実施されました。一見、オリパラの理念である「多様性と調和」にかなった対応に見えますが、実は違和感を持つ人は少なくありません。なぜなのでしょうか。


「分断」を生み出したオリンピック開会式放送

 オリンピック・パラリンピックがコロナ禍の様々な困難の中で運営されています。史上初の無観客形式で行われ、一般の方はテレビなどを通して、状況を知ることになりました。オリンピック開会式では、残念ながら手話通訳付きで放映されなかったため、取り残された人々がいました。日本には手話を生活のベースにしている人(主にろう者)が約8万人います。多くの番組に字幕情報が付いていますが、手話をベースにコミュニケーションを取っている人にとっては字幕情報よりも手話の方が正しく情報を把握することができます。家族と一緒にテレビを見ても、同じタイミングで感動したり、共感することができなかったりします。こうしたことから、多くの団体や個人から放映局に要望が出されました。

好意的に受け止められた手話放送

 放送局は要望を踏まえ、オリンピック閉会式、パラリンピック開会式では、NHK Eテレで手話通訳を付けて放映しました。この結果、多くのろう者やろう者の家族などから、「内容を理解できて感動した」など好反応が相次ぎました。オリンピックの閉会式が行われた8月8日、偶然にも、NHK総合は午後9時前、台風9号が鹿児島に上陸したことを受けて、午後8時から伝えていた閉会式の中継をやめ、台風情報のニュースに切り替えました。そのため、多くの人がEテレに流れてきて、Twitterでは、手話通訳のことを「手話の人」と表現し、トレンド入りするなど話題になりました。

「モヤモヤ」が残る手話放送

 しかし、なぜ、NHK総合ではなくNHK Eテレなのでしょうか。どうしてもモヤモヤが消えません。なぜわざわざ分ける必要があるのでしょうか。手話通訳が必要ない方にとっては、不要な情報であり、メインの映像だけで十分だという意見も理解できます。だが、大会のコンセプトの1つである「多様性と調和」に反して、やはり手話を必要とする人たちは「分けられ」ているのです。どうしてもしっくりときません。

情報アクセシビリティ規格の導入で放送におけるインクルージョンを実現

 現在、字幕はリモコンボタン1つで表示・非表示を切り替えることができます。しかし、手話通訳は切り替えることができないからだ、という技術の問題なのでは、と考える人もいるでしょう。実は、日本発の国際的アクセシビリティ規格 (IPTVアクセシビリティ国際標準ITU-T H.702)を適用すればこれが可能になります。この規格を適用すると、テレビ番組に対して、テレビ放送の枠の中で対応していたものが、インターネット側からの字幕や手話の動画のデータを準備して重ねて映すことが可能となります。このような規格を導入することで、多様な情報チャンネルの中から自分に必要なものを選択できるようにすべきではないでしょうか。音声、手話、文字の揃う画面こそ「多様性と調和」を実現するオリンピック・パラリンピック放送だと考えます。

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伊藤 芳浩 / コミュニケーションバリアフリーエバンジェリスト
あらゆる人が楽しくコミュニケーションできる世の中となりますように!